第4話 失われる信頼

国民の信頼が、少しずつダリアスから離れていくのは明白だった。市場では物価が高騰し、農村では作物が実らず、都市部でも職を失う人々が急増していた。国中に広がる不安と絶望の中、誰もがダリアスに対して失望を抱いていた。しかし、彼はその怒りや不満にどう応えるべきかを見つけられず、王としての役割を果たせないまま時を過ごしていた。


「どうして王は何もしないんだ?」

「このままじゃ国は滅びる!」


街角では、こうした声が日に日に大きくなっていた。ダリアスの宮廷に届く国民の嘆願書や手紙は山のように積み重なっていたが、彼がそれを目にすることはほとんどなかった。全ての決定権を握っていたのは、彼を取り囲む権力者たちだった。


「王は、ただの飾りだ。彼に何ができる?」


マクシム侯爵は、仲間たちとともに嘲笑を浮かべながら、ダリアスを背後で操り続けていた。彼らにとって、ダリアスは自分たちの権力を増大させるための道具でしかなかった。王座に座る男が無力であればあるほど、彼らの支配は確固たるものになる。


ダリアスは一日を終え、再び宮廷の静けさの中にいた。彼の頭には、国民の叫びが響いていたが、何もできない無力さに苛まれていた。王としての権力を持っているはずなのに、それを行使する術がわからない。もはや何をすべきかすら見失っていた。


「私にできることは、何もないのだろうか…」


彼はそう呟き、王座の傍らに立つ重厚な扉を見つめた。その扉の向こうには、全てを知る者、全てを操る者たちがいる。だが、その扉を開く勇気がダリアスには無かった。彼は、常に自分が選んだ道が間違っていたのではないかという疑念に捕らわれながらも、その疑念と向き合う力を持たないまま、時が過ぎていくのを待っていた。


一方、国民の不満は次第に暴動へと変わりつつあった。貧しい者たちは街を歩き、裕福な家々を襲い、食料や物資を強奪するようになった。治安は急速に悪化し、街の各地で小競り合いが起こっていた。しかし、ダリアスはそれをどう抑えるべきかも知らなかった。


「ダリアス王よ、暴動が広がっております。どうか、対策を!」


宮廷の警備隊長が緊急の報告を持ち込んだが、ダリアスはただその場でうつむくことしかできなかった。彼に命令を下す力は残されておらず、すべての決定はマクシムたちに委ねられていた。


「…好きにしろ。」


ダリアスの力ない言葉に、警備隊長は失望の色を隠せず、頭を下げて退出した。もはや王に期待する者は誰もいなくなっていた。権力者たちは国民の不満を押さえつけるため、軍を使って暴動を鎮圧しようとしていたが、それはさらに国民の怒りを買う結果となった。


ダリアスは、日々、自らの無力さに苦しみながらも、何も変えることができないまま過ごしていた。信頼を失い、国政は崩壊の一途をたどり、国民はもはや王に希望を持っていなかった。王としてのダリアスは完全に孤立し、誰も彼の言葉を信じることはなくなっていた。


こうして、ダリアスの王国は混乱の中に沈んでいく。彼が覚悟を持たず、信念を貫けなかった結果、国全体が崩壊の道を歩んでいた。

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