破片

イタチ

破片

                                    はへんばべん


田舎というのは、どうしようもなく

嫌である

毎年バスに揺られ、車酔いで、吐きそうになるし

朝方でもないのに、深夜に新幹線に乗せられるのは、非常な苦痛である

それでも、両親は、私を追っ払いたいのであろう

年ごとに交互に二人の両親の田舎へと

送られる

一方は都会なのでさしては変わりはないが

もう一方は、電車で終点からさらには、昭和時代からありかねない

軽トラックに乗せられて

さらに一時間も揺られて行き帰りする

買い物も、スーパーに行くまでに、一時間であることを考えると

とんでもないへんぴである

最初の頃、買い物をするというので、服でも買うのであろうかと言ってみると

ただのスーパーであり

その中の奇妙な服を買う買わないの話は、ぞっとする話であった

私は、青い顔を、新幹線の窓に写しながら

もう、何度目だろうか、何も変わらない路線に、揺られながら

私は、新幹線で揺られている

一回、以前、乗り忘れて、とんでもない場所まで行ったことがあるので

これ以上電車に乗るわけには行かない

いくら眠たかろうと

私は、嘘くさい明りに照らされながら

それをにらんで、寝ないように、正気を務める

一応、目覚まし時計は、持ってきてはいるが、役に立つとは

起きるまでは、分からないのである

私は、とある県で降りると

それ以降は、どんどん切られていく

車両編成に載せられながら

進んでいく

服装も、どんどんと、運動しやすいものへと変わっていく

私は、意識を切る

ガラスから外を見れば、乗り物酔いを、その視界は、増やしていく

電車の揺られと、降りる駅の名前を、頭の中で繰り返す

いくら覚えてしまっているかと言っても

忘れてからでは意味がない

「美孝 美孝 美孝」

文字は、変換されて、漢字で、頭に響くしそうつぶやくように考えてはいる

しかし、外からくる情報は、どういう経緯でそれだと認識するのであろうか

私は、眠らないように、必死で、コーヒーを飲みながら

そう考える

コーヒーのカフェインが聞いた記憶は一切ないが

何だったら、色的に強そうであるが、緑茶が、お茶の葉を使ったお茶の中では

一番カフェインが強いというが

ドラマやゲーム小説では決まって、あの黒い規制された歴史もある飲み物であるが

しかし、緑茶が出てきた記憶はない

何か違うのであろうか

老人たちはガンギマリしているというのであろうか

あのお茶の間で

「みたかーみたかー」

アナウンスが、繰り返す

さすがに、こういう音声は、あまり変わりはないかもしれないが

場所のせいだろうか

何か、さびてきこえる気もしないではなかった

それも、ぼろい車内のせいの可能性もあるが

私は、リュックサックを、背負い直すと、立ち上がった

これほどの廃線まじかであろうが、軽トラよりは、揺れない

私は、座席の横をつかみながら

揺れる車内の中で立って待つ

もう少しで、電車は止まる

私は、またこの地に来てしまっている

「お降りの際は」

アナウンス通り、普段全く使わない癖に知っている

降りる右側に立つと

扉が開く

外からは、都会と違う空気と

同時に、暑苦しい

重度の高い太陽の暑さが

車内に漏れ出す

私は、肩掛けを、握りしめながら

一歩前にである

もう戻れない

後戻りできない

後ろで、スタートを切るピストルが鳴らされたような気分であった


「いやー二年ぶりか

冬にでも来てくれれば、スキーでも行けるんだがな」

冬は、こんなへき地には来たくない

スポーツ大好きっこであれば、話は別であろうが

私は、それを無視するように

「ええ、冬は忙しくて」

と、小学生あるまじき返事に

相手は苦笑いを、豪快に、弾き飛ばしている

車は、舗装道路をはじめは走っていたが

途中時折ひどい揺れとともに、砂利道に走る

白い軽トラックは、途中途中泥を撥ねて

シマウマのように、染まっていく

誰もあうこともなく

山にへばりついたような、道を走らせて、私はようやくトラックが止まるのを感じ

目を開く

これ以上情報量を増やすと吐く

そんなことになる事は、目に見える未来予想図であろう

私は、ふらつく足を、何とか地面に、立たせる

都会では、考えられない広さの一軒家だ

マンションで考えれば、考えるまでもないが

しかし、それに暮らすというのは考い深いものがある

家の中は、暗いせいなのか、クーラーとは違う寒気を催すような

冷たさがあり、これも、古代の日本人の知恵だとでもいうのだろうか

家の周りは、杉が囲み

すっぽりと埋もれたその光景は、花粉症ずくめの日本人が見たら、阿鼻叫喚だろうが、田舎の人間は、衛生問題において、多大なる生物抵抗があるのであろう

あまり、問題視する声は聴かない

いつものように、客間の畳に、小さな荷物を置くと、今年も来てしまったことがうかがえた

部屋の周りには、一周するように、廊下が、設けられており

防寒対策ができている

私はその廊下を、歩いて、外に出た

少し手伝ってくれと言われて、表に出る

家の裏手に行くと

古いドラム缶を、転がす老人の姿がある

先ほどまで長い運転をしてきたと思ったが

田舎の人間は元気なのだろうか

「今、来ました」

私は、やくざが、人間をコンクリートで埋めて、湾内に、沈めるのを想像したが

「ああ、来たか来たか、今日はな、これで、風呂をやろうと思うんだが

水を、あの井戸から、持ってきてくれ」

見ると、小さな滑車のついた建物の下に井戸がある

そういえば、水は水道ではなく、井戸からポンプで引き入れているという

「っえ」

言ったところで、老人は、コンクリートブロックの上に、今まで転がしていたドラム缶を置くと

早速、向こうに行ってしまった

その手には、物騒な刃物が握られている

都会で持って居たらすぐ通報であろう

「何という事か、本当に、ドラム缶の中に、埋められる事になろうとは」

私は、小さな屋根の下まで行くと

吊りあげられている

木の器を、下に落とすと

下のほうで、ぽちゃんと音を鳴らした

それを、反対側のロープを引っ張って、水を持ち上げる

重い

水とは、これほどまでに重いものであろうか

私はなんとかそれを救い終わると

足元に置いてあった

青いバケツに流し込む

それをもう一度繰り返して

いざ持とうとしたが、あまりの重さに、動かない

向こうのほうでは、おじいちゃんが、斧を、振り上げて、木を打っている

それは、はずみで、左右に、割れていく

あっちのほうが楽なのではないだろうか

そう思うが

「おーやってるか」と手を振られて、私は適当に手を振り返す

汲んだ水を、横にこぼして、向こうに何とか歩いていく

一回分であったが

やはり重い

それを何とか、ドラム缶の前まで来たにもかかわらず、さあどうするという問題が、そこにはあった

高いのであろう

持ち上げていたバケツをさらに上に、あげる

重い

それをさらに上げて、中にこぼすように、持つと、中に、ぶちまけるように、流す

「ふー」

そう思いながら、中を覗き込む

どのくらいだろうか

ぼんやりと疲れのせいか

下のほうに、わずかに、水が見える

何だったら、下の鉄の部分が、水に浸っていない場所まである

面倒だ

これだけなのか

これをすべて埋めろと

「おーやっとるやっとる

木の束を、適当に横に置きながら

老人がこちらを見る

「いや、これ本当に」

老人が、笑いながらどこかに行く

本当にこれをやらなければいけないのか

やる必要性が私にはわからない

しかし、仕方がない

他にやることはない

携帯もなければ、ゲームもない

地獄の夏休みの始まりである



結局、おじいちゃんが、その大半を、ドラム缶に、水を流し込んでいると

向こうから、おばあちゃんが、スイカを持ってきていた

「まあ、ついてから、そんな仕事させて」

お盆に置かれた、切られたスイカを、そこら辺に置かれた野菜かごの上に置いた

「よお、来てんのか」

米袋を、方に乗ってけ、挨拶もそこそこに、兄の弟の娘で

慶子が、そう言って、歩いて行ってしまう

「あの子ったら」

そんなことを言っているが何かの作業の途中だったのだろう

作業を中止して、そのまま、スイカを片手に、食べ始める

「それにしても、最近、雨降らないわね、そろそろほしいけど」

上を見ると、入道雲が、青い空に、浮かんでいる

「でも、洪水がない分、楽といえば楽だがな」

軽く食べ終えた、おじいちゃんはさっさと、井戸のほうへと言ってしまう

「大変でしょ、こんなことして、どう、この後は、土蔵のほうに、詮索してみては」

土蔵、聞いたことはあったが見たことはない

この分だと、もっと大変な

掃除を、言いつけられるかもしれないし

それよりも、途中で、ドラム風呂を、やめるのも、何か癪に障る

私は、それを、否定しようとしたが

「行ってこい」

と、青いバケツを運んでいたおじいちゃんに、そういわれ

私は、麦茶を持つ、おばあちゃんの反対で、スイカのお盆を持って、前に進む

「ほら、ここここ」

それは、白くぬっぺりした壁

明らかに、金属ではない

「ほら、ここから入るの」

そこには、木製の枠を、開くように、厚い扉が開いている

「ちょっと、懐中電灯を、持ってくるから」

彼女はそう言って、私のお盆も、ひょっと、とると、家の玄関へと歩いていた

それは、先ほどは言った家と似ているが

明らかに、つちっぽい

普段あまり人も来ないのだろうが

地面も土が踏み固められている

私は、おそるおそる高い敷居を、またいで、中に入ると

やはり冷たい空気が、辺りを包んでいる

中には、普段使わないのであろうか

いろいろなものが、積み重なり

農具やら、箪笥

それらが、時折、布がかけられて、埃避けされている

天井付近に、これも、分厚い窓があり

その左右が開かれて

わずかに、明かりが下へと落ちていた

「どう、何かあった」

まだ何があるかは、分からなかったが

後ろからは、橙色の明かりが、土を照らしている

「うんん」

私は、首を振る

「ここ、ほとんど開けてないんだけど、たまには、入口開けておかないと

カビとか虫干しもしないといけないし

ちょっと休憩に、探検でもしてみたら

危ないことは、駄目だけど、ほどほどにね」

おばあちゃんは、1人、しわの刻まれた顔で、ウインクをすると、そのまま立ち去ってしまう

大丈夫なのだろうか

私は、恐る恐る、ライトを渡され

それを、辺りに向ける

奥までぎゅうぎゅうにされているが

上にもまだ壁のない二階があり

階段が、頼りなく薄い物が、端に、置かれている

「なにっていってもねぇ」

何があるかもわからず

私は、ぼんやり、端にあった、箪笥を開くと、着物やら、何か小物のようなものが、ある

さすがに引き出しの中であっても、めったに開かないのであろう

少々粉っぽく誇りが降り積もっている

「ああ、なぜここにいるのであろうか」

何故というわけではないだろうが

私は、ぼんやりと上を見る

剥きだされた木組みが、そこにはそのまま見える

私は、ついでに、上でも見てみるか、それとも、そのまま、この建物の端で、涼んでしまおうか

そう思いながら、懐中電灯を、外へとむけようとしたとき

背後で、奇妙な音を聞いた

「ぺちぺち」

それはなんだろうか

私は靴を止めて、振り返る

まばらな、天窓からの明かりと私の前の明かり

それから隠れるように、向こうに、暗い場所から音がする

「っな、何」

何なのかわからない

田舎には、熊とかしかとかサルとか

あとネズミかもしれない

私は、懐中電灯の明かりを、その小さな音のほうへとむける

何だろうか、私にはわからない

その明かりを、ゆっくりと、移動させる

危険はないのかもわかりかねる

今すぐに、おじいちゃんを呼んだほうがいいのではないだろうか

しかし、また逃げるのも面倒だ

あれは、とられてしまったとはいえ

私は、ゆっくりと、足を進ませる

危険性はないのか

しかし、何か、意思のあるように、それは、激しく音が聞こえている

風とかの可能性もある

何かが、風に当たって、激しく音を立てている可能性だって

でも、残念なことに、それは、外ではなく、この建物内に響いてしまっている

つまり、内側から、この音は鳴り響いているということがわかる

嫌な話である

しかし、後で、何かの話にはなるかもしれない

私は、そのまま、一歩また一歩と、先に進んだ

それに連なるように、音もだんだんと音を大きくしていく

なんだ、なんなんだ

まるで、何かの中で、暴れているようだが

それが何なのだろうか

私の持っているライトは、音の正体を、突き止めようとして、明かりを照らす

しかし、この古臭い場所に、何か生き物が入り込んだのだろうか

先ほど、風通しを良くするために、扉を開けていたという話から、その時何かが入り込んで、私が入ってきてしまったがゆえに、逃げられずに、暴れてしまっているのか

そうなると、何かに引っかかって、動けなくなってしまっているのであろうか

私は、恐る恐る、戸棚の向こうに、明かりを照らす

それは、明らかに、その奥から、響いている

一応中を覗いてみたが、戸棚には、何かが動いている音はない

向こうに、聞こえるのだ

木の戸棚を超えた向こう側に

私は、ライトを、定め、下を覗き込む

そこは一段下がっており

その下のほうに、何かが置かれている

そして、その中で、何か、白いものが、暴れていた

ガラスケースの中

私は、獣が、逃げられずに、そんな場所にいるのかと

そう最初は思ったが

それは、どうも妙なのだ

黒い頭

白い腕

赤い体は、着物のようなものを、振り乱している

化け物

そんなものがいるはずはない

まるで、ゲームの中のような非現実的な話だ

きっと、寝ないように我慢していたが

どこか、乗り物で、寝過ごしていしまい

今は、その乗り物の中なのではなかろうか

私は、頬を、ひねってみたが

一向に起きることもない

そして頬がじんわりと痛くなってくるが

下の姿が、消えることはない

明らかに、化粧ガラスの中で、何者かが動いている

そして、私は、その白い小さな腕が、動いているのを見たときに、それに、ある言葉が浮かんでいた

「日本人形」

その言葉を聞いたのか

腕が動くのをやめ

その黒髪が上を向いたとき

その黒目勝ちの瞳が

埃をかぶったガラスケースの向こうから、こちらを見上げている姿が、私の視界に、写ったのである




「わたくし、出見と申します

あなた様は、古井 博美様の子供でありますね

うわさは、かねがね

それよりも、ぶしつけで申し訳ありませんが

すぐさま、ここから出していただけませんか」

何だろう、急に動きを止めて、改まって日本人形が、こちらを向いて話し始めたが

しかし、これは、開けていいのだろうか

何かで見た、ホラー小説では、箱を開けたばっかりに、何人も、恐ろしい事が、起こるような話を、聞いたことがある

この目の前の人形が、大丈夫だとは到底思えない

触らぬ者には、たたりなし

私は、そのまま引き上げようとする

確か、孫悟空でも、何かしらの理由があって、化け猿は、封印されていたはずだ

それは、えらいお坊さんが、何とか、封印して、さらには、それを、操れていたからいいものの

私のような、ゲームしかしてこなかった

都会っ子が、物理で、かなうとは到底思えない

少なくとも、田舎の呪い人形だ

恐ろしい速さで、攻撃してこないとも限らない

包丁どころか、串でさえ

私には、勝てる気はしない

「・・・あの、ちょっと」

立ち去ろうとする人形が、何かしゃべっている

聞いているだけで、さわりがありそうだ

「おい、聞いてんのか、この野郎、名前だけでも、教えろや」

とんでもない、やはり人間、いや、人形は、人の形をしているから

人間的なことになるのだろう

確か、人間極度の状態に陥ると

そいつの本性が出るという

さすが人形だというところか

そういう機能も備えているに違いない

「すいません、知らない人に、名前を教えてもいけないと言われていますので」

「人じゃない、人形、怖くない」

怖いとはいったい何だろうか

しかし、この人形は、何を望んでいるのであろう

私は、それを考えることさえも、無謀に思え、懐中電灯を、外すようにして

箪笥から降りようとした時

さらに激しく、ガラスがたたかれる

「最低、人形殺し、もし、助けてくれなかったら、このガラスを割って、お前が、誤ってガラスを割ったって言いつけてやる」

こいつ、なんていう性悪であろうか、というか、しゃべれるんだったら」

私は、じっと人形を見る

「おっお前はなんだ、何もんだ」

私の言葉に、冷静をとどめた

声をかけられたことで、落ちついたのか

閉所恐怖症か

暗闇が苦手なのかは分からないが

どちらにしても、アラジンの精を、思い出す

精神状態大丈夫であろうか

こういうのに、一緒にいるから、こっちがやんでいくのではなかろうか

私は、やっぱり、逃げようかと考えていると

「まあ、まちなさい、イイコトアルヨ、善行は、あなたのため

昔は、亀や魚を逃がすことで、善行を、詰めるという

外来種放流が、悪しき伝統として今現在まで・・・まてまてまてまて

逃がしてよ、ねえ、逃がしてって

逃がしてよ、人殺し

私が、この狭い中で、呼吸もなく

発見されたときは、力なく、恐ろしい形相で、倒れている

窒息人形死体が、そこにあることになる

そんな目覚めの悪い事なんて

目覚めが悪いぞ

その小学生時代は、暗黒時代に違いなく

ああ、あんたが、助けてくれないばっかりに

それは後々、トラウマになり

君の将来は」

うるさくなってきた

どうしよう、これ、どうしてやろうか

もしかすると、やっぱり夢の中なんじゃないだろうか

もしかすると、やっぱり、井戸かなんかにあの時落ちてしまって、今見ているのは、私の死後の幻想なのではないだろうか、やはり、だから、人形が動いて見えるのだ

ガラスケースの中で

最悪だ、やっぱり否かなんてこなければ

危険が多すぎるというのに

都会っ子の私を

最悪最悪

父母を恨む

老婆をうらむ

やっぱりバケツで

なんて、考えていると、心配そうに、日本人形が、こちらを見つめていた

「どうした、大丈夫か、医者でも呼んでこよか」

こいつはどこの人であろうか

いや、人形だろうか

どちらにしても、こいつ、医者に連絡できたらなんでわざわざこんなところにいるんだ

「もしもしポリスメン、ここに危険な子供がいます」

医者じゃない、医者じゃない

私は、このガラスケースごと漬物石で、つぶしてやろうかと、そんな妄想にかられるが

ご丁寧にも、手を電話機に見立てて

口を動かしているこの日本人形を見ていると

見世物小屋が、最近、なくなってきており

その活性のために、売り払ってもいいのではないかという気も、しないでもない

そんな、ふつふつとした、慈善事業による慈愛の心も

相手の目が、私を、さげすむように見ているのを見ると

すべて取り下げたくなってくる

やはり、木を粉砕するウッドチップ機に、ほうりこんでやろうか

「あんた、何なの、何で動いているの」

目の前の人形は、こちらを見て言う

「そんなの偉いからに決まっているやろが」

偉い奴はこんなところに閉じ込められるのだろうか

昔から、古いものには、魂が宿ると言われるし

そういうものは、付喪神と言って、それを見ると、死ぬという

「・・・あんたを見ていても、死なないよね」

相手はこちらを見るが、最初から動かないように

何も言わない

嘘だろ

「そんな、殺すなんて、あんたのこと、それほど、好きでもないんだからね」

化け物とは人間と価値観が全く違うのであろうか

私は、そのまま、下がろうとする

「まあ、まて、実は少し、お願いがある

逃がしてくれたら、お前の宿題は、見てやろう」

分かりやすい交換条件を、私は、無視して、そのまま、下がる

「まあ、まて、実は、重大なことが」

重大とはいったい何だろうか

本当に重大だったら、最初から話していてほしい

「トットイレ」

私は、そのまま懐中電灯を切って

そのまま、戸棚を降りた

先ほどよりも大きな音を立てて

ガラスをたたく音がする

もう知ったことではない

私は、扉を何とか、重いながらも、閉めると、そのまま外に出た

すがすがしい自然のにおい

田舎とはこれほどいいものか

そんなことを、蔵の前で、私は、そう思ったのである

「どうしたの、扉なんて、閉めなくていいのに」

おばあちゃんが、そうはいったが、夜には占めるのであろう

そのまま、玄関に一緒に向かう

「まあ、古臭いものばっかりだし、面白いものなんて、何もなかったでしょ」

私は頷きそうになりながらも、適当にごまかす

「そういえば、日本人形って、ありますか、あの蔵には」

彼女は首をかしげる

「そんなものあったの、私は、そこまで詳しく見たことないけど、ないと思うんだけど

どこら辺」

私は首を横に振る

知らないんだったら知らないほうがいいだろう

もし、あの存在を知らせて

家に帰ってから、この家での住人の死を知るなんて、とんでもなく後味があるい話である

私は、そのまま、夕食の手伝いを、することになった

どうやら今夜は、人参ジャガイモ玉ねぎさらには、ナスである

家ではあまり出ないが

先に、玉ねぎを炒め、そののちに人参ジャガイモを、入れ、最後にナスを炒める

ガスコンロの横

広いお勝手に、置かれるのはルーの箱が一つ

今夜は、カレーの甘口らしい

正直、中辛ほどが好きであるが

それは言わないで置いた

どうになるという事でもない


深夜、目を覚ますと、私は、ぼんやりと天井を見ていた

残念なことに、ドラム缶風呂は、雲に隠れ、かなり高い天井を

見ることはできたが、その先を見つめることはできない

私は、熱いふろの中で

いつまで入ろうか

そんなことを、考えている

時間は、あるい程度、決められているが

それよりも幾分は、早くなることは当たり前である

熱いのである

ドラム缶の下には、すのこが、引かれており

直接足に、熱は伝わることはない

しかし、それでも、周りの鉄は、十分に熱い

私は、早々に、かまゆで地獄から、退散する

壁際のトイレの曇りガラスが、橙色に、光っていた

私は、下に降りると

そのまま、タオルで体をふいて

服を着た

都会にはない、涼しげな冷たい空気が、辺りに吹いていた

私は、そのまま、サンダル履きで、家の中に入ると

遅めの夕食を食べることになった

大人は、ビールを片手に、私は、好きでもないオレンジジュースが

目の前のコップに注がれていた

サラダボールには、マヨネーズの大量に入ったマッシュポテトや、プチトマト、青いサラダが色を誘い、スイカ、焼き鳥、カレーとおつまみと

色とりどりである

「いただきます」

私は、掛け声とともに、ジュースに手を付ける

長い低い机に、おじいちゃんとおばあちゃん

兄夫婦 娘とその友達

ワイワイと、私は、その恒例を、眺めていた

「しかし、今年何歳になったんだっけか」

私は、自分の年齢を、言いながら

マッシュポテトに、皿を向ける

それぞれが、全く違う会話をし置ている中

私は、もくもくと、料理をあさる

まるで、衛生不行届のレストランを徘徊するゴキブリのように

以前、そんな私の姿を、父の会社の同僚が、酒を飲みながら、手酌は、出世しないという

それは、横のつながりを、毛嫌いしている

私にとって、全くどうしようもないことであろう

しかし、だからと言って、相手が好きかどうかもわからない物を、相手に、注ぐというのは、恐ろしいものがある

そういうのを、ニュースでは、アルコールハラスメントというらしい

私は、世の流れの悲しさ

源氏物語では、何かそういう事を、国語の授業で先生が、憐れんでいた

所常務業の鐘の音

宅配便は、間に合わず

恋人や株価の移ろいの悲しさ

人生とはままならぬもの

墓も持たずに、私はただ

学校の亡霊となるのみ

はたまた、迷惑な話である

死ぬのであれば、自宅であってほしい

科学万能が薄れ虚ろっている現代であっても

教師であれば、その無能を証明する人柱となって、壁に埋め込まれていてほしいものだ

少なくとも、死んで幽霊になるとは、陽気な人である

私は、ぼんやりと、まだ、あのドラム缶の熱を、覚えながら

畳みにしかれた座布団の上

扇風機の風を向こうから吹かれて、夕食を食べていた

顔を上げれば、歴代の遺影がこちらを眺めている

きっと、料理を、食べたいと思っているに違いない

土産話が、何よりというが

私のような代わり映えのしない小学生の話なんて何一つとして面白みを感じないに違いない

「しかし、お前、幽霊とか出るらしいけど、行くか」

友達の会話中

私に、無理やりといった風で、慶子が、話しかけてくる

自分よりも、頭一つ大きいくせに、こいつに私の面倒を見れる責任性が、備わっているとは思えない、幽霊というからには、どこか、人気のないところであろうか

そんなところに、置き去りにされたら、土地勘のない私なんて、ひとたまりもないに、違いないのである

(やめておこう、私なんて、怖いのはよしておきます)

そう言おうとしたが

守るどころか

おばあちゃんのほうが

「おお、おお、遊んでもらいなさい」

と、恐ろしいことを言う

本心だろうか

私は、ぼんやりと行きたくないという顔をしていると

おじいちゃんが、私の顔を見て、頷いて、奥に引っ込んでいく

何だろうか、寝る準備か、将棋でもやって、やり過ごしてくれるというのであろうか

私の心配は、すぐに、判明する

手には、最近あまり見かけないであろう

でかいほうの電池がずっしりと詰まってそうな

大きな懐中電灯を、手に持っている

防水、防塵、防衝撃なのだろう

見慣れない英語のシールが英語で張り付けてある

私は、いつの間にか、肩にその懐中電灯を、かけられて、まるで、私が行くことが当然のようである

「ほら」

おばあちゃんが、指さすほうには、もう外に出ていった友達たちの姿が、襖越しに見える

私に拒否権はないのであろうか

じりじりと、私の足は、玄関に向かっていく

この足の重さは、私の信条を言い表しているのだろうか

それとも単純に、何か、予知的な悪いもののせいだろうか

私の先には、まつ者はなく、引き戸の向こうで、年上の親戚が、猪突猛進に、進んでいるような状態なのであった



暗闇を、自転車のライトが、地面を照らす

タイヤのリムに、ライトが接触することによる発電仕様なので

非常に、ガーとうるさい

前方には、二台の自転車が、走っているが、田んぼ道とわずかな民家があるような、道なので、そこまで迷うことは、無いのではないかと思うが

こんな夜に、家族総出で、探されて、見つかればいいが

見つかったとしても、笑い話に、引き出されるのはごめんである

できるだけ、普通がよいのだ

目立たないほうが、面倒が少ない

しかし、前を走る二人のは、明らかに、ギアが付いている

スポーツバイクだ

対して、自分は、置いてあったママチャリだ

きっと、おばあちゃんのやつに違いない

私は、必死での立ちこぎで、応戦するように、その二つの幻影を、追う

ライトの明かりも、発電式ではなく電池式で、ハンドル付近から下を照らしていた

どれくらいは知らせているのか見当もつかない

相手は、自転車に慣れているのだろうが

こちらは、あまりそんなものは使わない

しかし、どこまで行けばいいのか

場所を知らされず

ただ息ばかりが、どんどんと、上のほうに上がっていく

空気が冷えているからいいものの

それでも、頭が、沸騰するように、汗を流しているようだ

いつまで、追いかけなければいけないのか

めまいか吐き気が催してきそうだ

きっとそのうち、心臓が、のぞから飛び出してくるのではないかという

速さで、打ってくる

声をかけようにも、距離は、離れているし

息が上がって、出そうにない

虫の声のほうがよほど大きいだろうか

残念ながら、暗い中ハンドルをどこを探しても、ベルが見当たらない

きっと、すれ違っても、当たらない程に道が広いか人が少ないか、ベルを鳴らすぐらいなら降りるくらい奥ゆかしいのではなかろうか

暗闇の中、自転車のテンショナーとチェーンの音が鳴り響く

私だけは、チェーンの回る単調な音だけであったが


わずかに漏れ出す月明かりが

薄暗い巨大な校舎を照らしている

こんな片田舎に、これほどまでの大きな校舎が必要なのかは、分からない

しかし、昔は、生徒も多かったのであろう

しかし、とんでもないところに、連れてこられた

普通であれば、こういう場所に行くのは止めるものではなかろうか

近所の話で、生徒が、廃墟に忍び込んで、警察を呼ばれたという話を聞いたことがある

今から行おうとしているのは、犯罪行為ではなかろうか

それとも、村が管理していて

そういう問題とは関係ないのだろうか

そんなはずはなかろう

緩いだけに違いない

本当に、ここに行くというか

校門の前には、低い柵が、門を閉めており

軽く乗り越えられそうである

彼女たちは、校門の陰に、自転車を置くので、私もそれに倣う

習ったところで、何の意味があるのかは、不明だ

言い訳になってくれはしなさそうである

彼女たちの幻影は、もう、そこにとどまることをせず

目を向ければ、閉じられて、久しく誰も入ってはいないのではなかろうか

校舎へと続く道を、歩いていく

本当に、行くべきであろうか、私は、自転車を見張っておくべきではなかろうか

進むのをやめておくべきであろうか

しかし、先ほどから一切、振り返らなかったあの人たちが、ここで、初めて、私のほうへと、向いている

こっちにこいとでもいうように

手を招いている

「早くしなさい」

急いでどうなるというのだろうか

私は、仕方なく、無様に、柵を乗り越えると

落ちるようにして、彼女らの後に続く居ていったのである

それにしても暗い

つきあかりはかくれ

そんな中で、良く歩けるものであると思う

彼女たちは、この学校の卒業生だろうか

学校について、私は聞いたことがないから

この学校が、いまだにやっているのかどうか、私には、分からない

でも、それがどうなのか、聞こうとしても、彼女たちは、また向こうへと速足で進んでいっており

私は、今度こそ、はぐれないように、懐中電灯をつけた

彼女たちは、私のこの明かりを信用しているのか

一切、その類を持ち合わしているようには見えない

丸い光が前方のドアと

その前に立つ二人の姿を、浮かび上がらしている

今夜は暗い

どうしてこんなところにいるのであろう

改めて、自分のふがいなさを、実感せざる負えないのである




ドアの前、鍵を開けている手元を、私は、照らしていた

しかし、それは、私の勝手な行動であり

初めから、彼女たちは、鍵を開けおいている風である

中に踏み込むと、複数の足音が、校舎へと響く

この人たちは、どこかに行く目的はあるのだろうか

室内は、何処か、密閉されたような空気が、わずかに揺らいでいる気がする

「あの、どこに行くんでしょうか」

私が、頼りなく、明かりを揺らして、目の前の廊下を照らしながら、聞いてみた

「どこでもいいでしょ、そのうちつくよ」

無計画か、それとも、何かの恐怖演出であろうか

私は、今更帰えるという選択肢を奪われ

その後ろを、足の隙間を縫うようにライトを照らし、ゆっくりとついていく

誰もいない廊下に、三人の人影だけが、歩いていく

私は、ぼんやりと、窓辺を見る

寒々しく誰もいない中庭は、ところどころ、木が生えている

足音を、追うように、私は、廊下の曲がり角へと向かい

立ち止まる

先ほどまで聞こえていた足音はなく

ただ、人影のない廊下ばかりが、静かに佇んでいた


「それで、居なくなったっていうのか」

私は、自転車をこいで、帰り道を走っていた

あの場所で、恐怖とは、別に、私は、必死こいて、あらぬ限りの力で、普段出さないような

声を出したが、二人の姿を、見つけることは、かなわなかった

ふらつきながらも、私は、無理やり逃げるように、校舎から飛び出した

いつまで探しても誰もいない

こんな場所にいても私には何もできない

仮に隠れていたとしたら

私のせいじゃないし

さんざん

「出てきてください、隠れていたとしても、私にはわかりません

今から、大人を呼びき行きますので、よろしくお願いします」

校内で、繰り返し、私は、そういった後に、出てきた

自転車は、帰り道を、確実には、示してはくれない

ただでさえ、私には、不正確である

うろ覚えの帰り道は、予想以上に、時間を取りそうな予感の中

私は、仕方なく、近所の家に、入ると、自分の家の名前を言った

「ええ、あんた、楠のしたんとこの・・ええ、道に迷ったんか

今電話するから、まっとけ」

私は、土間で、お茶を出されながら

家族が来るのを待つ

時間は、明らかな暗い時間であるが

頭の上の電灯はやけに明るい

私は、目の前の引き戸が、開けられるのを見ながら

立ち上がった

「すいません、夜分、ええ、ちょっと、出歩いてしたところ、迷ったみたいで

ええ、すいません」

私は、引きずられるように、家を後にする

「ほんと、仕方ないね、彼奴らは

勝手に行っちまうなんて」

私は、それを必死に、否定する

認識に、乖離がありそうである

私は、能天気な老人二人とその息子を前に、必死で説明する

暗い中、非常に、大人数が、話している図は、非常に違和感のある感じを受ける

特に、誰もいない場所であれば、それはいやおうなく意味を増しそうである

「それじゃあ、まだ、あの学校に、いるかもしれないってことか」

大きな影が、私に聞く

慶子の父親の大きな大人に聞かれれば、どうしようもなく、悪いことをしてしまったような気がする

私は、何度も、あの学校で、消えたと事

何度も何度も、探したが、見つからず、急いで、帰り道を、帰宅したが

そこで、今までのように、見当たらずに、迷子になって、聞いたということまで、話した

「でも、それじゃあ、まだいるかもしれないわね」

おばあちゃんがそう口に出したとき、おじいちゃんの顔が、渋くなっている

「それじゃあ、まだ、あの学校に、いるかも知れないってことか」

オウム返しのように、同じようなことを繰り返すおじいちゃん

「おれ、ちょっと見てきます

親父は、みんなを連れて、もどっててくれ」

二人に、連れられてて

私は一人、向かっていく、背中を見る

「俺も、一緒に探してくるよ」

そう言って途中から、もと来た道を、もどる

おじいちゃんを、後ろに

二人して、もと来た道を戻る

そうなってくると、先ほどまで、全くわからなかった迷路を、たどるように

どうして、分からなかったのかと思い始めるが

きっと、先導がなければ、立ち止まって悩んでいたかもしれない

家に着いたとき、私は、へとへとに疲れていた

お風呂に入る気も起らず

パジャマに着替え、歯を磨いたころには

頭が半分、死んでいたが

もう半分が、それとは別に、ギンギンとさえわたっているのである

枕に、頭を、おいても、妙に見えがさえる

いまだに、玄関のドアが、開くことがない

つまり、誰も帰ってきていないということだ

暗い中に、ゆっくりと、一定間隔で、秒針が進んでいく

お勝手では、ガスコンロの火が付き

先ほど、湯気を、ヤカンを、上に乗せたのであろう

ずっと、甲高いシュウシュウという音を鳴らし続けている

「おばあちゃん」

おもむろに私は起き上がると

布団の上に立ち上がった

トイレに行くついでに、話を聞いてみたほうがいいかもしれない

どうせ眠れない

襖を通り過ぎて、お勝手に行くと

おばあちゃんが、ポットに、お湯を注いでいた

「あら」

下を覗き込むように

見ると、急須にもお湯を注いだ

「おちゃのむかい」

うなずいて、机の前にならぶ

白い湯呑には、彫り物のように、花の姿が、映っている

私は、薄いそれを、手に持って、飲んでみた

「まだ、誰も帰らないのですか」

湯気を前に、首を振る白髪

湯呑は、半分ほど減り、それを、みて、注ごうとする急須を

手で制した

「おやすみなさい」

私は、頭を下げて、同じように、進んで元の布団に帰る

ちらりと見た時計は、暗く何時かわからない

次の朝、暖かい布団から起きだすと

この家に、誰の姿も見当たらなかった

時間ばかりが、ちっちと、進んでい 

九時十時と、時間は進んでも、全く、誰も家に、帰ってくることはなかった

どうしてだろうか

おばあちゃんは、どこに行ったというのか

あの学校には、何か、罠があって、皆つかまっているとでもいうのだろうか

小さな机の上に、鎮座した電話代の前に行くと

私は、親の携帯電話に、番号を、かけて、今の状況を、説明することに、した

かけるべき番号に、指を入れ

それを、右回転させる

盤面が、じりりと、回っては、幾度もまたもとの位置へと巻き戻っていった

「どうしたの」

幾度かの呼び出し音を終えて

久しぶりに、親の声が聞こえてきた

「実は、深夜に、学校に、入ったんだけど」

駄目じゃない、何やっているの

そんな、声を、無視するように

私は先を続けた

今はそれを話している場合ではない

端的にわかりやすくだ

もしかすると、先に、警察に行ったほうがいいかもしれない

怒られるかもしれないが、それを、どうこう言っている場合ではないはずだが

一応、聞いておいても悪くはないはずだ

電話の先は、怒りの中に心配を入り混じり始めているようにも感じる

「つまり、学校で、みんな消えてしまって、実は、別の場所にいるのかもしれない

警察とか

でも、朝起きたら、おばあちゃんも、家からいなくなっていたり

どうしたらいいのでしょうか」

相手は、すぐに、警察に、相談すると、言っていたし、親戚にも相談するとも

私は、電話を終えると

昨日の残りのご飯を、チンして

一人で食べ始めた

冷蔵庫には、昨日の残り物が、おばあちゃんにより、ラップがして、置かれている

私はそれを、はがして、一つ一つ口に入れていく

親戚に言うと言ってたが、警察に言うと言っていたが

いつ来るのであろうか

食事中に

自分は何もしていない

そして、彼らは、どこに行ったのか

私は、何もわからず、何も知らず

そして、本当に、そんなことが起きたのかも、分からなくなっていた

ただ、カレーは、二日目のほうがおいしいと

スプーンの中で舌が、そんな噂を、実証しようと頑張っていた




深夜になり

警察も、親戚の人も、皆帰ってしまった

あわただしく、食材やら、なんやらが、運ばれたりしたが

結局は、誰一人も、帰っては来なかったのだ

着替えを持って、父方の親戚が、また来るという

夜勤の関係で、交代するということもあるそうだ

どちらにしても、先に、私は、寝ていたほうがいいだろう

昨日も、遅い時間まで、私は、起きていた

まだそんな遅い時間まで、起きていい年齢ではない

テレビでは、親の睡眠時間と子供の睡眠時間の深夜化による、悪影響が

何とかと、言っていたが

こんな時こそ、普通に、しなければいけないだろう

冷たい布団の中

私は、無理やり眠ろうとした

別に、動き回ったわけではない

しかし、それなのに、どっとつかれた

昨日と同じだ

誰も、帰ってこない

それは同じ状況だが

今家には、誰もいない

私は、眠りたいが、眠ってはいけないような気がし始めていた

自分に何かできることは

そんなことがあるとは到底思えない

自分は無力だ

そして、何かをするべきかもわからない

ただ、睡眠が、蚊取り線香のように、徐々に焦りが、火をつけ

眠りを、追い払うように、けむに巻いていった

何なんだ

どうすればいいのか

私は、分からない

正しさとは

そんなものは

静かな家の中

私は、寝返りを、打つ

縁側の向こうを、見れば、月明かりに照らされるように

白い土壁と石垣が見える

・・・人形

そんなものを思い出した

あれは、夢だったんじゃないか

そう思うが、こんな奇妙な事態

あれが関係している可能性があるのではないだろうか

そうおもうと、ライトセイバーでも持つように、どでかい、渡されっぱなしの

懐中電灯を、手に持って、冷たい夜中

月明かりの中、大きな蔵の前に突っ立っている

行くべきか

止めるべきだろうか

私に、答えを与える前に、一歩扉を開けると前に出た

扉に鍵はなく

やはり、かび臭い閉鎖された中の空気が、じんわりと、肺の中に入っていく

これが、先ほどとは別の場所に、入っている事が、この状態に、知らされていく

足が、先ほどとは違う固く押し固められた土を踏んでいる

私は、暗い水の中で、あの場所だけを、探すように、ただ、すぐ出たい、その一点で

ライトを、あの箪笥へとむける

誰もいない

厚い壁のせいか、外の虫の声さえ聞こえない

先ほどから鳴いていただろうかと、ふとそんなことが頭をよぎるが

そんな邪念を、抱いていい場所ではない

相手は何かわからないのだ

一瞬の油断が、何を引き起こし始めるのか、私には、分からない

分からないんだから、気を抜いてはいけないのであろう

ひとつひとつ

気を付けるように足を進める

親戚の人は、まだ来ない

ここで自分が死んだら、どうなるかはわからない

もしかすると、待ってからのほうがいいかもしれない

いや、そう考えると、確か、あの人たちは消えた

そう考えると、今私は、その黒幕みたいな、根源で、凶元に、何も印もつけずに

行っているのではないだろうか

机には、置手紙は、書いておいている

何もなければいいけど

もし何かあっても

いや、あの動く人形だ

あの手紙を、燃やしかねない

そうなったら、この家からは、みんな消えたことになってしまう

これは、ミステリーか推理小説か

と聞かれたら、きっと、こんな理不尽なものは

その二つではなく

怪奇小説怪談話、どちらにしても、理由なき

本当に、これは、非現実的話なのであろうか

人さらいとか、そういう、人間の怖い話なのではないだろうか

私は、急に立ち止まって、もう一度、いつでも、電話をかけてくれという

警察の人に書かれた電話番号に、かけて保護でもしてもらったほうが良いのではなかろうか

私が、ぼんやりと、そこに立っていた時

奥のほうで、何かが「ごそり」と音を立てた

耳を澄ませると、鼓膜に声が響く

「まってたぞ子供

さあ、夜の学校に行こうか」

こいつ、もう外に出れる前提で、物事を、考えてやがる

やはり、やめておいたほうが

私はそう思う、もう一方

足は、ゆっくりと、箪笥を乗り越えて

下を覗き込んだ

どこに行くのだろうか、傘を、頭にかぶった人形が、背中に、何かを括り付けている

「はよしろ」

私は、ゆっくりと、手を伸ばす

本当にそれが正しいのかわからない

分からない尽くしの時に、曖昧な行動は慎んだほうがいいのではなかろうか

「実は、聞いてほしいことが」

相手は、生真面目に言った

「外に出て聞こうか、ここは、ほこりっぽい」

どこまでが、正しいのかは、分からないが

どうしても、この小さな魔物は、外に出たいことだけは、確からしい

「おっ、お前は、この事件を、引き起こしたんか」

人形は、埃のかぶったガラスケースの中で、やれやれと、髪を、かきあげるように

「そんなことがあるわけないでしょうに、私は、いい人形やで

人の形をしたものが、人に害悪をまき散らすわけ」

私は、めんどくさくなり始めた

その手は、ゆっくりと、ガラスケースをつかむ

開いた瞬間

隙間から、赤い小さな手が、辺りに、まき散らすように

飛び出していく

それは、煙のように

私の手をつかみ

それは端から、鬱血し血を流すような事はなく

「やっとか」と、ため口を、ついて

黒い台の上に、立っていたが

横に歩き出す

「お前、何かの助けになるのか」

「ああ、なるかならないかは、どうでもいい

どちらにしても、あれは、めんどくさい

黒い暗い闇のようなものだ

それに、からめとられたのだよ」

何だろう、本当に、分かっているのか

ただの自己陶酔によっているロボットを目の前にしているだけなのではなかろうか

「お前名前はなんていうんだ」

私は、板が、飾られているので

それを読もうとしたが

何かが、読めずにいた

「あんた、物事は、まず、あんたからいうべきだろ

ただ、こういう時、相手に名前を言うと、大変なことになるのが、通説だけど

家族のよしみで、まけておいてやろう」

何におまけがつくのだろうか

知らない人に名前を言ってはいけない

兄弟の縁は花の移ろい

数えていけば切もない

「ジャスチスリーン」

相手は、最初から動かなかったように、止まる

そうだ、全ては、自分の神経衰弱による、元凶がみせた嘘だったのではなかろうか

「お前、日本人だろ、あだ名じゃなくて、本名言えや」

ゲームのキャラ名では駄目らしい

「いや、知っているぞ、そうやって、好きな人の名前を聞き出して、自分は言わない

言わない言わない詐欺を

隣のクラスの岩崎が・・」

「その岩崎は、誰だかは知らないが

そんなことよりも、さっさと言え

挨拶もできないんか」

私は、止めたくなってきた

これもよくわからない

どういう原理で動いているのだ

「まあ、仕事上のパートナーということで

人で、いいでしょ、あなたは、人形で」

「ジーザス」

歯を向いてこちらに言い始める日本人形

コマドリアニメと違う

妙なスムーズさが、非現実感で、気持ちが悪い

「これはな、信用問題・・で、というか、最初に名前言ったよ私は出見となのりましたとも」

「古井」

相手はじっとこちらを見る

「下の名前は」

私は考える

言っていいものであろうか、というか、父親の名前は知っているくせに

私の名前を知らないとはいったいどういう事であろうか

わざと試しているとでもいうのであろうか

「試しているんですか、本当は、知っているのでは」

相手は繰り返す

信用の問題だと

「あと十秒以内にわないと、私は一人旅に出ます

10・9・8・」

せかされてまで言いたいものではない

「7・6・」

私は、相手を見る

暗い中でも、その瞳は動いている

これほど小さな目を動かす技術とは

球体関節でも、小動物でも、人形の中に、動物を入れているわけではなさそうだ

「本当に、聞きたいなら仕方がない」

相手は、相変わらずこちらを見ている

「石」

相手は、私を見て頷く

その名前を言って、疑問だったり、聞き返さなかった人を、初めて見た

人ではなさそうではあるが

少なくとも、意思とか、そういう漢字を、変換したり、文字だと、いよいよ、私の眼を見たりする

これは、私の行動のせいであろうか

「行くぞ石君、早く、君たちの家族を、救わなくては」

ピクニックにでもいうように、小さな影は、私に、手を向ける

「手でも握ってあいさつでもしようというのですか」

私の言葉はあっさりと、肩に手を向けられた

「私に、歩けとでもいうのか

少なくとも、よじ登りたくはない、しっかりと、長年、閉じ込められて、足腰が弱っている

しっかりと、看病してくれ」

おいて行って、内容だけ、聞き出したほうが、良かったのではなかろうか

そうは思うが、勝手に、そうすると、行動を決めた

小さな人間を前に、私は、戸惑いを浮かべていた

そう、戸惑っていた

まずは、こいつの素性から、聞くべきだったんじゃないだろうか

大人にうまく転がされているだけなのではなかろうか

いや、こいつが何ものかもわからない

実は、私より年下かもしれないが

「月夜が、私を呼んでいる」

血を欲しかねない

怪しげなことを、人形を、持ち

丁寧に、移動させながら

箪笥から、降りる

「あなたこそ、下の名前をまだ知らないんですが」

相手は、頷いてこちらを見る

「私は、出見それ以上でも

それ以下でもありません」

「本当ですか」

自分だけ、苗字みたいな名前を言う

「・・・そうです」

本当なのかがわからない

「無いんですか、下の名前が」

「ええ、人形は、人形です

その型番とでもいうべきもの

人形は人形

電子レンジは電子レンジ

型番を言うことはありませんよ」

こいつの言動は、非常にあいまいだ

人間の感情のように

「じゃあ、グラスで」

相手は、髪を振り乱す

「英名・・」

月が、奇麗であった


人形が、名前の取り消しと否定を、懇願する中

青い月の光に導かれるように

外へと進んでいく

人形の青白い肌は

懐中電灯の暖かい光ではなく

自然の奇妙な明かりで、絶妙な色を、讃えている

美しくもなく、可愛げもない

されども、じゃあ、何かと聞かれても、それが何かも言えない奇妙さ

「出見さん、じゃあ、早速、救い出すかなにかは、知りませんが

どうにかしてください」

でみえもん

そんなことを、言いたくなったが

通じるかどうかわからない以前に、まだ油断を許さない現状である

いきなりのどに、噛みつかれないとも限らない

実は昔はやった外来種の標本だったりしないとも限らない偽日本人形みたいな

そんな冗談は、ゆるされないのであろう

「簡単だよ、子供、学校へ向かえ」

あの何人も消えた場所にこの人形は行けというのか

「何か、お札とか、刃物とかは」

こちらを、くるりと振り返る日本人形

この時代のキューティクルはどうなっているのか

風にきれいに揺れていた

「お前、剣術や、妖術、陰陽道の類が、その歳でできるのだろうな」

剣術ならいざ知らず

そんな、トンデモができるとは到底思えないのである

「お前、お前のまず、動力源を教えてもらう」

私は、何か、嫌な予感がして、話を逸らすことでその場を取り繕うことに一歩前に前進を試みる

「愛」

私は、呆然と、月を見上げそうになった

今この小さな人形は何を言ったか

「染物の」

私は、茶々を入れてみるが、人形の心は変わらない

「愛」

機械だって、きっと、環境保護を、優先するお決まりを、この小さな奴は、何を言っているのだろうか

「相手定義を教えろ」

きっと、何処かで読んだ本であれば

私は、五十音最初の二文字とそういった

そう言いたいところではあるが

「愛を語るなど失笑

それに形などない」

人形という形骸化された形が、何かを言っている

「で、お前の愛は、何色だ」

道のほうに歩いていく

その小さな猫みたいな大きさの人形を追う

一応、服を着ているから

野生生物と間違って、銃殺されることはないと願いたい

通報されるかどうかはわかりかねたが

私は、前方を、先導するように歩いていく

小さなそれを、怪しみながら、歩いていく

昨日はこんなことがあったが

実に静かなものである

警察の車一台見当たらない

「なあ、本当に、大丈夫なんだろうな、何をするんだ

どうなるんだ、これはどうして消えたんだ」

日本人形が、こちらを見る

接着が甘いのであろう

フクロウみたいに首が、反対側に曲がる

もしかすると、首の骨が何個か多いのかもしれない

どちらにしても、後ろ前逆という風は

服を着間違えた子供のようにも見えるが、これほど暗いと、着物という分かりやすい服装でも、見分けがつきづらく思えた

「人間は、良く失踪する

消えるんだよ

野生の動物が、失踪するかは、誰が見分ける

君が消えたとして、その理由は一体なんだ

自殺他殺それとも捕食か病気か神隠し、いや、失踪の手が一番多いことであろう

なあ、石」

私は、後ろ向きに歩く不気味な人形を前に

口ごもる

「じゃあ、今回の失踪は、どういう理由なんだ」

人形は、首を前に据える

歩く音とともに首が動きそうで怖い

「君は考える脳もないのかい

だから愛を知らないんだよ」

本当だろうか

それでも道は一本に続いているように、昨夜のあの道を進んでいる

さすがに三回目であれば、その道順は明確なものとなり

前方へと続いているように思える

しかし、この人形のどこに記憶力があるのであろう

あの学校までの道順が本当にわかるのであろうか

ただ、決まった道順を進む、からくり人形に、話しかけていただけなのであろうか

それとも、その学校にいる何かに、操られて居るだけなのであろうか

だとしたら、やっぱり私は、今来た道を、引き返したほうが、余ほど良いのではなかろうか

川などで、おぼれた場合、助けるのは、ロープや浮き輪を投げることで

助けに行くと、しがみつかれて、二次遭難を、引き起こすと言う

やはり、警察か何かに、この人形を、超能力者か何かのように

そういう、特殊協力者として、連れて行こうか

きっと有能に、大の大人が、解決をしてくれるだろう

生きている時間が長いのだ

お遊戯も、子供よりも幾分も、完璧に踊ってくれることであろう

「えらい、長考だが、答えは見つかったかい、石」

夜風が徐々に肌寒くなってきた

目の前には、昨日見た建造物の影が見え始めた

「だから、お前みたいな、よくわからないやつが、あそこにはいて、そいつが

私の親せきを、とってしまったってことなのだろう」

相手は、小癪に闇夜で、小さな、マッチ棒のような指を振る

「何を聞いているんだい、世の中に、そんな良く分からない奴が居る分けないじゃないか

あるのは、現実にあることだけだよ」

まず何から突っ込めばいいのであろうか

こいつはまず、よくわかる、解剖すれば、理由の分かる存在だと自分でもいえるのであろうか

もし、百歩譲って、こいつが、天才博士によって、封印されたロボット

もしくは、非現実的なことを、何かの理由付けで、存在するような、魔法のようなものだったとして

そいつが、学校にいるやつを、変な奴というのは、道理的に、どういう理屈によって行われているのであろうか

私には、子供すぎてよく分かっていない

分からない

分かるんだろうな

この人形さんは

「さて、行こうじゃないか、今日は、良い晴天だ」

夜で、曇っていても、そう言えるのであろうか

確か、晴れというのは、雲が、何割以上であり・・

開け放れた校門を前に、人形は、おっくす事無く、前に進む

しかし奇妙な感覚だ、私の五分の一くらいのはずなのに、私の歩幅と同じような速さで前に進んでいることに、今更ながらに気が付いていた

「おい、何か、手立てはあるんだろうな」

人形は、こちらを振り返るが、何も言わない

「正体を、知っているのか」

人形の顔は、分からない

雲のせいで月が隠れたせいだろうか

辺りの光景まで、目が慣れていないせいか、やけにうすぼんやり、見え始める

この人形は、笑っているのであろうか

「おい」

静かに、自分の声が、響いたにもかかわらず、それは、相手に届いたという確証がない

無かった

暗闇の中

足元を見ると、いつのまにか、出見が、足元に立って、先ほどとは違う、校舎のほうを見て言う

「おいおい、もう、向こうにいるぜ、気をつけな」

何を、気取っているのだろうか

私は、蹴っ飛ばそうとも思ったが

いつの間にか、またしてもこの人形は、気が付かないうちに、足にしがみついていた

「来たぞ」

何がということはできない

辺りの、夜のしけった、爽やかな水に浸したような空気は、何処かどんやりと、薄暗い密室を吸い込んだ

けむっぽい埃のような空気に代わっている

なんだ

私は、一歩足を、後ろに、下げたが

そこには、何かが当たる

「気をつけろ馬鹿」

馬鹿しか言えないほうが馬鹿なのだということはできない

振り返る間もなく、私の手に何かが触れた

それは人形ではない

明らかに、人のように大きな手だった

それが、手首をひきつれるようにつかんでいる

木のような、ざらついた皮膚は人ではないだろう

誰かいただろうか

それどころではないが、私は、それを、とっさに、振ると、後に引こうとしたが

また何かにぶつかった

なんだ

校舎へと続く道に、遊具の類があっただろうか

そんなものは見えなかったが、私の認識不足だったのであろうか

「逃げろと言ったのに」

何もかもが言うのが遅すぎたのではなかろうか

私は、ぶつかったものに手をついて、逃れようとしてから、気が付いた

それは、壁のように、分厚く

そして、その感触が、先ほどの木のようなものに酷似していた

「何なんだよもう、帰りたい」

帰ったからと言っても、今家に誰かいるのだろうか

私は、立ち上がると

いつの間にか、片方の手に、人形が、手に、ぶら下がっていた

「もう、仕方がない、お前は、一回死んでおくか」

物騒なことを言う

やはり、人間と、生死感が全然違う可能性が出てきてしまっている

やはり、蔵にいるような、日本人形の言うことは聞いてはならなかったのであろう

「死んでたまるか、人間とお前らとでは意味が違うだろ」

手にぶら下がりながら、日本人形が、言っている

「何が違うのだ

お前は、動いているだけで、感情があると、お前が、一生のうちに食いつぶす質量と

お前が残す子孫等々、それらは、命に変換したとき、何の意味があるのか

それを、機械にしてやるんだから、コスパは良い」

どこの話をしているのだろう

サイバーパンク

スチームパンクとは聞いたことはあるが

からくりパンクなど、聞いたこともない

しかし、スチームは、動力源だが

サイバーは・・・

「うるせえい、お前が、連れてきたんだろ、そんな、後出しジャンケンは、許さないぜ」

よじ登る、クライミングしている小型物体を、前に、私は、毛虫や芋虫を連想し、振り払いたくなるが

何か特殊な構造なのか、余ほど高性能に設計されているのであろう

見事にこの揺れの中でも、登頂してくる

「実はな、この学校には、最初から誰もいなかったんだ

お前は、この場所を、深く印象付けられていたから、ここで、失踪したとそう思っただけである

お前は、消えた瞬間を見たか石

君は、全てを、当然だと、そう思っている

偶然ではなく、必然だと、しかし、どうだ

今お前は、何を行われている

手を何者かにつかまれた

そして、いま、壁のようなものに、苛まれている

どうだ、感触が同じだと思っただろう

つかまれたから、それが、人の手のようだと、そう思っただけだろう

それは、草木の根っこではなかったか

枝では、棒では

お前は、今、地面のコンクリートを、撫でて、相撲をしているだけじゃないか

そんな幻想など、はなから、存在していなかったんじゃないか」

べらべらと、人形の一人語りなど、しゃらくさい

無意味、無知魍魎

それは、間違いなく存在している

少なくとも、こんなに良く動く人工知能を搭載したロボットを、私は、聞いたことはない

居たとしても、軍の奥底で、封印されていて、庶民に下りてくるなんて、私が生きているうちにあるかどうか

なんて、どんなことを考えている間にも、奇妙なにおいが、辺りを深く濃く強く包んでいく

なんだ、意識がもうろうとしてくる

薬品か、それとも、田舎特有の有毒ガスでも発生したのか

彼奴は、全てが、私の妄想だと、決めつけたが、その本人はなんなんだ

もしも、全てが、幻覚、幻想、嘘っぱちだったとしても

だとしたら、残るのは、犯人の心情だ

どうして、こんなことを

都会の馬鹿を、騙す、ばかばかしい化かす行為だとでもいうのであらば

あまりにも、よくわからない

だとしたら、私が降参すればいいのか

泣いて謝れば、順次万事解決だとでもいうのだろうか

私は、その答え合わせに、何一つとして納得がいっていなかったにしても

それさえも、嘘だと言われてしまえば、もともと何も存在しない

小学生の肩書の方も方なしであることは間違いない

「お前はなんなんだよ」

私は、思いっきり、目の前の壁を、蹴とばして、後悔した

やはりそれは、コンクリートのように固い

銀杏の木の幹のように、ごつごつしている

何を、本当に蹴ってしまったのか

運動靴が、ボロボロになっていないかも気になって仕方がない

「情けない古井の人間にしては、弱すぎる

お前は、本当に古井なのか」

古井古井と古臭い奴に言われても、何の説得力もない

もともと何もないと言っている奴が

何の力を、信用して信じているとでもいうのか

私は、本当に、何が何だか

何を信用するべきなのかを惑わされている気がして仕方がない

「あのー誰かいるんですか」

「何言うとんねん」

肩で、巨大ロボットに乗った少年のように、髪をつかんで邪魔な、日本人形が、叫ぶ

お前はどこの奴なんだ

こんな奴だ、たらいまわしにされて

全国津々浦々を、島流しにされたに違いない

「お前が言うな、何かないのか、必殺の銃とか」

銃刀法違反やと、いう声が小さく聞こえる

「お前は、何しについてきたんだ、馬鹿

死んでしまえ、人形なんか、最初から、生きてもないか」

私の軽口は、髪を引っ張られ痛い

それ故に、案外、操作されているのではなかろうか

口をチャックされるように、何も言えない

早く、手を放してどこかに行ってはくれないであろうか

あのドラム缶風呂に入りたい

「風呂に入るのはまだ早いよガキよ

お前が、必要としなければならないのは

頭を、回らせることだよドリルのように、ミキサーのように

獅子舞の踊りのように

お前の十数年の短い時間の中でも、物事の本質とは、実に、あっけない

しかし、継続を、考えないのであれば

人間的本質とはそこにある」

急に、難しい、哲学っぽい結局意味のないような事を、横で、喋り始めたぞ

大丈夫かこの日本人形は

私の心配をよそに、その小さな白い口は、早口に、動き続ける

まるで、工場の流れ作業を見ているようである

むなしい、何がむなしいって、何の解決もしなさそうな意味を知っているような虚無、無意味

そして、絶望

この先には、歯医者でも待っているのであろうか

そう考えると、目の前の何かなんて

いや、この目の前のそれはなんなんだ

囲まれたように、段ボールに、押し込められたように

手を回せば、全てに、木のような感触が、伝わってきた

何なんだろうか、本当に

私は、木のうろの中にでも、閉じ込められたのであろうか

だとしてら、だれが何のために

何の目的がって、そんなことを

もしも、人とは違う

目の前の日本人形とは違うベクトルで、感情に誤差のある人間が

私を、木の中に空いた木の穴に押し込めたとしても

やはり、私には、その感情は、理解できないし

なんなら、すぐにでも、逃げ出したくて逃げ出したくて仕方がない

逃げ出す理由がなくても、感情が、生物的

いや、理性が、逃げ出せと、叫んでいるのだ

そんなんだから、どうせ、自然破壊をしても、とか思うのであろうが

今の私は、息苦しい中で、行動の理由を、考えるよりも先に、これは、自分にとって、どうも不完全な状況だと、そう叫ばずにはいられないのである

「これは、死んでしまうんですか」

叫んでも騒いでもどうしようもない時

その時間で精いっぱいは同じように流れていく

であれば、感情的に動く必要性もない

昆虫が最後まであがき続けるかのように

それは、対象物にかかわらず

機械的に、私は、ゼンマイ的に動くにしても

関節を、どう動かすかの設計は、まだこれからなのだ

だから、私は、頼りには先ほどから全くまだ何もなっていない

日本人形へと、言葉を発した

「あのすいません、出見グラスさん、何か、解決案はありますでしょうか

できれば、この場所から逃げて、風呂にでも入りたいのですが」

何とも間の抜けた、言葉ではあった

しかし、相手には、効果覿面であったらしい

後々から考えれば、それは、相手の名前を、言ってしまったからなんだろう

つまり、いくら何を言っても、無意味だったことになる

何という好い加減な、バカみたいな話ではないか

こいつ、子供相手に、相手に、何をされるかを、見ているだけだけだったのではないか

やはり、悪魔が、乗り移ったに違いない

日本であれば、付喪神

そこまで考えて、そういえば、付喪神を見たものは

死ぬんだったか

嫌なことを、思い出した

だとしたら、やはり、これは、彼奴が起こしている現象なのではないか

こいつはやけに、自分を特別視して

自分以外を、普通の物と、しようとしていた

何というやつであろうか

私は、睨む間に、横で

何かが光っているのを見た

なんだ

警察でも来たのだろうか

横を見ると

手品なのであろうか

日本人形が、扇風機でも当てたように、着物やら、髪の毛を、舞い上がらせて

袖を、左右に開くと、「ぱちん」と手を打った

その小さな手にかかわらず、それは、妙に、辺りに響いたように思える

ただ、その小さな音は、振動すかのように

辺りの、その壁を、バラバラに、砕いて消していった

何なんだ

やはり、こいつが、黒幕であったか

何というマッチポンプを歌うのであろうか

ぼろぼろと紙切れのように、消えていったそれは、人形を中心に、本当の夜の闇へと消えていく

事実の月の明るさの下

目の前には、見慣れた人物を、私は見えていた

「おじいちゃん」

本当の敵は、見方だなんて、遠まわしな言い方があるが

この場合、わたしこそが、それに値するのであろうか

「気をつけろ、俺が守れるのは、ここまでだ」

こいつにもし性別があるとすれば、おかまなのだろうか

最近では、ジェンダー差別を、中心としたハリケーンが回ってはいるが

どちらにしても、騒がしいのは嫌いである

それを言うのであれば、子供という特権を、ふりかざしてやろうか

優しい正解とは、時として、自然の猛威を感情論で受け流してしまう

私の視線の先

そこには、昨日、探しに行ったままの格好で立っている男の姿が、そこには陽炎のようでありながらも、実体を持って、そこには存在していた

しかし、さっき人形は何と言った

守っていた、何から

というか、先ほど、こいつは、私に、囲むように、あらわれていたものこそが

こいつが、起こしていたとすれば

私はとんでもないことをしたのか

何に

「おじい」

私は、何も、返答のない相手に対して、さらに、返答を、求めようと、相手の名称を、呼ぼうとして

やめた、相手の手に、何かが握られている

それは、出ていくときには、手に持っていなかったように思える

「おい、どういうことだ、やっぱりすべては、嘘だったのか」

日本人形からの返答はない

「お前が、全てを、解除させたんだからな」

やっぱり自分が何かをしたらしいが

それもこれも、こいつの説明不足が招いたのではなかろうか

いや、それよりも、問題は、そこではない

こいつは、全てが、仕組まれているようなことを言っていた

つまりはすべては人為的行動だ

だとすれば、この人形の行動以外は、ごく現実的に、説明のつくような行動だということになる

じゃあ、人形がしゃべる以外

四人の人間が消え、目の前に、一人もどってきた

娘と友達女二人

そのうちの父親一人とその父親一人と妻一人

娘二人が、逃避行し

それを、父親が、追いかけているというのはどうであろう

田舎とは、嫌に、世間体を、重要視するというから

それは、きっと間違いではないはずである

老婆も、村中を探し回っているのではなかろうか

神隠しが、通用する程の時代なのかは、分からないが

私の知らない土地で、私の住んでいる土地さえさして知らない私が、早合点するほど、総計な結果を求めるのはまだ早い

しかし、それでも、確実に、祖父は、こちらへと、近づいてきており

私の答え合わせは、迅速に、早急さを、求んでいる

先ほど、この人形は、古井古井と、過去を、待ち望む、古典主義のようなことを、言っていたが

もし、それが、関係を、強く望んでいるのであれば

私の家は、こんな、くそ人形があるくらいであろうから

きっと、何かいわれがあったに、違いない

私に、隠しているだけで

父母も、ひどいことをするものである

そして、これから、何らかの、私の力を目覚めさせる荒行が行われようとしているのではなかろうか

目の前の老人が、十メートルの範囲内に、入ってきた

いや、ちょっと待て

そういえば、もしそうだったら

「お前、何やってんねん、はよ、逃げぇや」

こいつが、妨害していた理由が、私を殺しそうな、物から守っていたら、話は、逆に回転する

何かのいけにえに、あの四人は、殺されたのだとしたら

そして、私が、次だとしたら・・・・いやいやいやいやいや、だとすれば、やはり、この日本人形が

ここに連れてきたので

やはり、安心させておいて

私が横を見ると、きっさいたような笑みを浮かべて、こちらを日本人形が見ている

裏切りだ

私は、とっさに、後ろに、走ろうとするが

先ほどのあれが、行く手を、大波のように覆っている

あれを上れる自信は、私にはなかった

しかし、目の前には

横を見ると、微妙な、根性の悪い(確定的)が、そこには、存在しており

足音の先にいる老人は、ゾンビのように、ゆっくりと確実に、目標へと、近づく

死んでしまえ

何という現状だ、状況下だ

私は、周りを見るが、何もない

鉄の棒でも、落ちていれば

しかし、落ちぶれた、朽ち果てるのを待つかのような

この学校に、そんな建設財は、残ってなどいない

きっと、鉄屑やも寄り付かないだろう

仕方がない

私は、周りを見渡さなくても、そこに、ちょうどいい具合に、浮かんでいた

日本人形を、手に持つと、思いっきり

老人へと投げる

人形のくせに、それはずっしりと中身が詰まっているかのような

重い感覚が手に伝わっていた

まっすぐに、闇夜を、彗星のように、飛んでいく

その赤い日本人形の着物は、「カポーン」と老人の頭に当たって、もろくも、地面に、突っ伏している

相変わらず、老人の動きは、変わらずに、前進を続け

私という存在を、追い詰める後ろの塀は、気が付くと無くなっていた

やはり、彼奴のせいだったか

私はそのまま、家に帰る道を、走りながら

少し立ち止まる

ちょっと待て、私はどこに帰るんだ

あの家が、安全ではなさそうだとわかった今現在

私は、このまま家に帰るのは、ヤマネコが、人間を食べるために化けた口の中の料理店に入ってしまうに違いない

しかし、暗い中、それはより心細く

私の心情を言い表して見せてくれるようであった


「あのーすいません」

三十分ほど、歩いて、私は、何とか交番へとたどり着いていた

「どうかされましたか」

私は、先ほどの内容から

「実は、祖父が、学校にいまして、一応、確認してもらえませんか」

私が、あの家だということは、すぐにわかったらしい

だとしたら、どうして私が、老人と一緒ではないかについて、考えを、持たなかったわけではないだろうが

何か別の理由があるのかもしれないと

さすがは、田舎もど田舎である

そういう応用力は、権力が届きにくいゆえの行動か

「パトカーで、一緒に行きましょう、帰りに、家に下ろしますので」

本当に、大丈夫か

いや、家に帰されることを、忘れてはいなかったが失念していた

それに対して、この交番に、縋ってみるべきかもしれない

そう頭をよぎるが私はそう行動に移せずにいた

なぜなら、私は、あれが何なのか、いまだに、確かめたかったかはどうかにしても、分からなかったのである

もしかすると、この人たちも、グルの可能性がないわけではないかも知れないが

パトカーの中

先ほどまで苦労してきた道が通り過ぎていく

いくらたどろうとも、それは一瞬で塗り消されていくようだ

「君はちょっとここで待っててくれないか」

目の前を、二人の警官が、歩いていく

老人の保護でもしようとしているのであろうか

車内で、それを、覗いていた私は、黒い闇が、やけに、濃いことに気が付いていた

それは、すぐにあの警官の二人の姿を、闇の中に、まいてしまうように、見えなくなった

「おい、えらいことをしてくれたな、お子ちゃま」

私はその不快な音程に、聞き覚えがあった

あの日本人形だ

一応ドアは、閉めている

しかし、鍵はかけていなかったような気がする

パトカーは自動でカギは内側からしまらないものであろうか

「これは、日本人形さん、良い夜で」

ナニガヤ

それは、ガラガラとしたハスキーボイスであった

恐ろしいものである

私の気苦労とは別に、何かの音がする

それは、何かを、叩くような、こつくような

それは人形からではない

顔を、窓へとむけて固まる

おじいちゃんが、ナイフ・・いや、包丁を、持って、そこに立っていた

何かをしでかそうとしているかのように





私は、ゆっくりと、ガラスに手を当てる

扉を、早く開かなければ

しかし、ドアは、手を向けても開きはしない

横で、にほんにんぎょうが、何か、花歌なんぞを歌っている

この人形に、呼吸器官があったとしても、どう言う理屈だ

なぜ、こいつは、楽しそうに、そんなことをしているのであろうか

窓ガラスには、わざわざ、刃物の向きではなく、柄の木の部分で、ノックを繰り返す

それは、ガラスに、小さな雪の結晶のようなひび割れを

徐々に、暗い背景に、白く蜘蛛の巣のように、大きく広げていくのである

私は、どうすることもできず、ただ、ただ、ドアノブを、必死に、開けたり開いたりするが

開こうとしない、ロックがかかっているのか、分からないが、現状、開かないことを考えると

そうなんだろうと、予想はつく、しかし、これは、よくよく考えてみれば、普通の車両ではなく

パトカーである、あの警官たちが、万一を考えて、ドアをロックして表に出た可能性もあるが

それよりも、あの警官は、大丈夫なのだろうか

暗闇の中ひかる、包丁は、いつも料理をしているのだろうが

こういうとき、その魚のような刃物は、非常に、なまめかしく恐ろしく見えた

幸いにして、血のようなものの付着は、確認出来てはいない

「ねえ、一応聞くんだけど、あんた、何もしてないよね」

鼻歌が、わざとらしく聞こえる

やはりこいつの仕業だろうか

私は、ぼんやりと、車の前に移動して、ここからの脱出を図ろうとするが、

後方で、ガラスの砕ける音とともに、老人の腕が、こちらへと向いていることに気が付く

「おい、あんた、これ何とかしなさいよ、あんたが、やっているんでしょ」

相手は、何も答えない、まるで、人形のように、動かず

バックガラスに、安全を見守るように、座っている

「使えない奴だ」

私は、そう思いながら、窓ガラスに、思いっきり、手をたたいたが、パトカーの窓ガラスが、上部に特別出来ていなくても、十分にそれは、硬かった

そうでなければ、しょっちゅう割れて、車屋は、儲けることになるだろう

どちらにしても、今の緊急事態に対して、私は、後ろに少し下がる

足を折り曲げて、思いっきり、それをそろえて、前方へと、突き出す

ザラメのように、はじけるガラスの中

私の足は、少し、向こう側に、飛び出すことができたようである




ぬるりと、蛇か、何かのように、表に、抜け出そうとした時、私を、止める物が、服を、引き留めた

ガラスか何かに、引っかかったのではないかと、振り返ると、白い小さな手が、パーカーの袖をつかんでいた

「離せよ」

私の言葉に、相手は、拒否を示すように、その手が緩むようなことはなく

それどころか、草を踏むような音が、反対側から聞こえてくる

屈折するガラスの向こう、何者かが、こちらへと、進んでくる

いや、それが警官や、それ以外の事は、あるのだろうか

老人の姿を、私は、見ようとしたが、向こうに、見える姿に、違和感を覚えた

見慣れているが、それは、老人が着るような服装でも、また、がたいも、全く違うものであった

「これは、何なんだ」

私を未だに放さない

さらには、向こうからくる、失踪していた親戚の姉の姿を、聞くために、日本人形の出見へと移したが、それは、さらに、車の奥へと強引に引き込んでいく

私は、視線を、戻すと、そこには、人形の姿の代わりに、白いカッターシャツから、こん棒のように

太い褐色の腕が、代わりにつかんでいる

まずい、こんな狭い車の中に、ひきづりこまれては、逃げようもなかろうに

私は、振り払うように、パーカーを、脱ぐと

道路へと逃げる

ゾンビ映画であれば、何かしらの、損壊を、するのであろうが、それが、親戚であれば、その腕も、鈍るどころの話ではない

それどころか、あれが、何なのかは、私には、理解できない範囲に達していた

いや、最初から、おかしかったのだ、人形が、喋るわけもないし

人間が、こんな数日のうちに、消えること自体が、不明だ

親戚がだ

サイコロを連続で、同じ数字を出すような、奇跡を、起こしているにしても、それは、少なくとも、バッドであるし、さらには、偶然か必然かも分からない

「おい、聞いているんだろ、ほくそ笑んでいるのだろう、そこで何をしている、聞け、これは、どうすればいいんだ」

それはさらなる泥沼だったのではなかろうか

そんな場所に、さらなる深みに誘う、蝶のような存在に、わざわざ、向かって、手を伸ばしたって

ろくなことにはならない、どうせ、気が付けば、奈落の岩肌へと、足を踏み出しているに違いない

私は、それでも、相手へと、声をかけた

この狂ったような場所で、唯一、分かりやすい変なもの

そして、意思が通じそうなやつが一番狂っていそうだ

実に、おかしい、実に、変だ

それでも、私は、むなしく、そんなことを、叫んでいた

「呼んだか、人間」

それは、実に間抜けで、何一つ信用でいない

それこそ、騙される可能性のほうが、高そうである

それでも、私は、そんなことを、相手に臨むかのように、叫んでいた

「これは、何なんだ」

何も分からない

暗中模索の中にあるにもかかわらず

その声は、さらなる深淵へと、巻き込むように、声を紡いでからめとろうとしているように思える

「単純な話だよ、こんなものは、何もない、全ては嘘だ」

私は、それを確信をもって、思う、嘘だと


「おいおい、そりゃないぜ」

何か気取った声がするが、私は振り返ることもなく、あの親戚から逃げるように、学校の門へと走っていく

捕まれば、何をされるかもわからない

二度あることは三度ある

あやうきには近づかず

「おいおい、せっかく親切に、言ってやったっていうのに、お前は、無視するのか」

虫のいいことしか言わない奴の事を、なぜきく必要性があるのか、それこそが、真実への回答のように思われる

嘘つき村の住人ほど、正確な答えを言うこともないだろう

不明りょな世界を、鮮明にするなんて、狂っているのか、神のしもべだとでもいうのか

「俺のどこが、信用できないって言うんだよ

俺ほど、信用に足りる物もいないだろ、それこそ、子供よりも」

この世の中で、こいつは、何を、確定しようとしているのであろう

私は、ぼんやりと、相手の奇妙さに、首をかしげる

このまま何処へ行こう、家に帰るのか

それとも、交番にでも

「お前は、一つ、勘違いをしている、あのお前の家族は、俺に、操られているわけじゃない

そして、呪いの訳でもない」

何処から聞こえてくるのか、良くは、分からないが

しかし、振り返るのももどかしい、一秒の遅れが、とんでもないものを引き起こすのであれば、それは、振り返らなくてもいいのだ

先ほど聞いたことだって、正直、何のためか、今一つ、理解に苦しむ

相手の信用度のなさを、確認するためか

それとも、相手が味方の可能性を、見ていたとでもいうのであろうか

「お前、何がしたいんだ」

家が、まばらに出始める

地面も、コンクリートへと変わり始める

そんな中、道に、人形がまるで、捨てられたように、置かれている

「おいおい、そんなに、何を、俺に聞きたいんだ」

聞きたいことはないが

聞きたくないこともまた不明だ

「先ほども言った通り、俺は何もしていない、ただ、そこにいただけだ

そう、そこにいただけ

ただ、お前も、そこに、居ただけだ

何かできたか、何をしていた、逃げただけだ

何もできない、何もなかったも同然だ

お前はな」

何を言っているのか、私に何ができたとでもいうのだろうか

私は何かをするべきだったのか

いや、したはずだ、いや、そういうなら、しようとしていたはずだ

そうだ、はざだざ、この、呪われたような人形に、わざわざ、暗闇の中に、聞きに行くほどに

そして、学校まで、家族を、探しに行ったではないか

私は、何もしないも同然だったのだろうか

成果を出さなければ、それは存在しないとでもいうのであろうか

実際問題、だれかが、死んだらそうかもしれない

それは、自分の無力さだ

しかし、これほど、奇怪な状況を、状態を前に、それは、何が正解かも、分からない

自分は、どうすればいいのか

それを図る物はしもないのであれば、私は、何をもって、満足するべきであったのか

「何を困っている、嵐みたいなものだ

過ぎ去るまで、人間ごときが、何かできる分けないだろう」

首を引っこ抜いてやろうか

私は、そう思ったが、それ以上に、今の自分に、何の行動ができるのか

それもまた、不明なこと、この上ないのであろう

もし、それが、本当に、風を、手で押すようなことであったら

私の意味を、私は、見いだせないでいることであろう

それが意味だと言ってしまえば、それはそれで、おしまいであるが

とぼとぼと、ゆっくり私は、足を止め始める

背後からは、普通の家が広がり

何か奇怪なところはない

あれが、まるで、切り離された非現実でもあったように

本当に、それは、そこに、存在したのであろうか

夢のようなものではなかっただろうか

ただ

「おい、きょろきょろとして、どうしたんだ

何か、賽銭でも落ちていたか」

私は、首を振りながら、相手を見据える

「どうすりゃいいんだよ」

私の声に、相手は笑う

さもおかしいだろう、手の上で、転がせるおもちゃが、そこでこうているのだ

それに対して、その小さな口は

人間の脳みそほどの体のくせに

それは、私に、わざわざ、教えてやるとでもいうかのように

「簡単だよ、さらに、大きな力で、嵐を、風に変えてしまえばいい」

私はぼんやりと、そよ風が、爆風に、変化するのではと、狂気する

本当に、それは、合っているのか

「ああ、簡単な話だ、物理だよ物理」

本当に、それは物理か

量子力学でも、持ち出してくるんじゃなかろうかと思ったが

そういう話ではなさそうだ

相手は、ゆっくりと、向こうに、指さす

「目標も、見たことだし、本陣に行きますか」

そのまま帰ってしまったほうが、余ほど良いと思いながら

やけに速足の

この日本人形の後に続く

続いて行っていいのか

私には、分からなかった

それこそが、最も問題だったのであろうか

私の足取りは、重いながらも、相手の歩幅にせかされるように、どんどんと、また、森の中へと進んでいるようであった

暗闇の中、足音を頼るように、私は、前に進む

この妖怪は、私を、どこへと連れていくつもりであろうか

私には、その先が、分からずじまいにもかかわらず

ころころとした鈴の音のような足音は、暗闇に、響き続ける

私は、その足音を、失なえば、闇から抜け出せなくなるような、恐怖がある

それは、暗いせいか、あの日本人形といるせいか

黒い道に、赤い着物は溶け込み

ぼんやりと、ちらりちらりと、白い手足が浮かんでは動く

「どこに行くんだ」

この日本人形は、もっと大きな何かをぶつけるようなことを言っていた

しかし、問題は、それは、こいつが、面白半分に、何かの封印を、全く別の理由で、解き放とうとでもしているだけなのではなかろうか

私は、足音がいつの間にか聞こえなくなり

それを探るように、足を止めた

聴覚は、合っていたようで、先ほどまで動いていた人形は、そこに、立ち止まっていたのだ

顔を上げた私は、そこに、木で組まれた、建物を見る

ログハウスのように、太い木が、箱のようにくみ上げられたそれは、私の身長よりも大きい

と言うことは、目分量でも二メートル程であろうか

その存在を前に、人形は、しゃべる

「これを、壊せ」

帰ろうと思ったが、単純に、これが、壊れるとは、到底思えない

「どうしろっているんだ、斧でもあるのか」

相手は、きざに、指を振る

「その、荒縄を、切ってくれるだけで、全ては、十分ですよ」

私は、ぐるりと、回っている縄を見て、止まる

「どうやって」

下で、何かが光る

「どうぞ」

刺されるかとも思ったが

それは、したにはが向けられており

丸い持ち手が、二つの穴をかけた

鋏が、向けられている

「・・・」

受け取ってみたが

何か、嫌な感じがある

本当に、これは、切るべきであろうか

私の答えを出してくれるのは

自分か、この森の生物か、土か、空気か人形か

私は、ぼんやりと、手元のはさみを見る

大丈夫であろうか

逃げることが、最善に思えるも

思えない可能性もある

もし、これらが、全て、嘘であれば

何も起きない

ただ、神主のような役職に、怒られることが考えられるであろう

しかし、もし何かあっても、そんな、非現実的なことが、本当に、起きるのであろうか

非現実などそこには存在しない

なれば、そんなことは

目の前で、人形の微笑みが、見える

藁が、下へと落ちる中

人形の笑みを見る

「おめでとう、地獄へようこそ」

まるで、目を覚ますと、エイズの世界へと、真っ赤な口紅で、壁に描かれたような気分であった




それは奇妙な音であった、何なのかは分からない

しかし、ろくでもないことだけは、私の意志の中に刻まれた危険な音として私は認識していたように思える

何だろうか、それは、幾億の小さなさざ波が、声を出して泣いているような

何だろう、振動が、私と言う小さな存在を通り過ぎていく

そこに私の意志などはなから存在などしていないように

それは、つまり、どういうことかと言えば、私の体は、宙に浮いていたことになる

地面が、割れたことに気が付いた時には、私の体は、下へ下へと引き込まれていく

それが、一体どういうことなのか、どうしてそんなことが起きたのか

私は、理解できない

しかし、下へと、それは落ちていく

きっと、あの人形の切らせた、あの縄が、何かの意味を持っていたに違いない

しかし、だからと言って・・・・いや、あの根性の悪そうな、日本人形でさえ、きっと、こんなことを起こせるわけがない

多分、これは、幻覚か、穴が開いていたか、それとも、爆弾でも仕掛けられていただけなのかもしれない

私は、ぼんやりと、落ちていく感覚の中で、あの日本人形に、今度会ったら、びりびりに、粉々にしてやって、粗大ごみの袋に入れることを、強く夢見ながら

目をつむる

短い人生に、私は、何を思ったのであろうか

さして大きくもない体は、バラバラに、砕け落ちるのではなかろうか

それにしても、深い、亀裂のようなものである

「おい、いつまで、クロールみたいなことをしているんだ」

私が、目を開けると、目の前には、私の視界よりも高い、位置に小さな人形の顔があった

「あれ」

何だろうか、私は、あまりにも疲れによる疲労に、こんなことをしてしまったのであろうか

それは、記憶の改変か、単なる夢であったのか

「寝ぼけている場合じゃないぞ、もうことは、始まろうとしている」

私は、ぼんやりと、にじむ視界を、先に進める

それは、何かがあるとは思えなかったが

それでも、一番先に目についたのが、それであったから仕方がないのだ

「何があったんだよ」

私の声に、相手は答えない

ただ、先ほどまで、目の前にあったはずの、あの建物は、跡形もなく

ただ、私と人形が、山の中で、取り残されたように、立っていただけなのであろう

「何がったんだよ」

答えにはならず

「もう始まっていると言っているんだよ」

何の答えにもならないその答えを前に、私は、ようやく、埃を落とすように立ち上がった

「何が」

その答えは、立ち上がって、木立の向こうに、わずかな明かりを見たことで、答えを得た

向こうのほうに、ぼんやりと、燃えるような大きな明かりが見えた

それは、火事などの類には思えなかった

「私いつから寝てたんだろう」

そう声をかけようとしたが、返答はない

「あれ」

振り返ったが、あの人形はどこにもいなかった

あれ・・私が、辺りを見ているときに、足元に、何かが当たる

石かと思ったが、下を見ると、人形が、転がっている

いつの間に、こんなところに、そう思ったが、それは、身動きせずに、そこに、突っ立っている

「・・なに」

私の返答に、相手は答えることはなかった

ただ、そこに、それは存在している

何か、辺りが先ほどよりもやけに静かだ

急に、今まで、あれがいたからか、怖くなかった感情が、辺りを徐々に染み出すように見たし、気温を下げているような気がした

太陽が沈んでいくらばかりの時間が流れたのであろうか

どちらにしても、山の中は涼しい

私は、こつくように、その人形に、手をかける

ゆっくりと、指先で、その人形を押すと、それは、嫌がるように

手をどける

「止めろよ」

急に、人形にでも戻ったのかと思ったが

そうではなかったらしい

「口数が、少なくなったけど、疲れたの?」

しかし、本当に、その人形は、電池でも切れたかのように、動かなくなった

これも、先ほどと同じような、幻覚であり、幻想であり、夢なのであろうか

私には、それを考えることは、難しい

暗闇は、怖いし、あの明かりは良く分からないが

私は、忙しく、人形を、手につかむと、坂道を下るように山を下りる

切り裂くような山の風を、肌に受けながら

こんなところから、早く脱出したいがために、足早に、森を抜けることばかり、切羽詰まるように、去ることに、執心していた

「おい、そろそろ、起きたらどうだ」

あの何かよく分からない出来事が、全てを、吸い取ったかのように

人形はしゃべらない

ただ、それでも、明かりによる虫のように

私は、あの場所へと進んでいく

徐々に、家の中を抜け出していくうちに、それがどこなのかが、徐々にわかり始める

もしかして、あれは、学校だったのであろうか

それを、現実として、認識する前に、私の足は、その校門の前にいた

そこには、以前とは違い

赤々と思えた、パトカーが、燃え盛り

それを取り囲むように、数人の人影が見えた

ただ、違うのは、二人増えていたことくらいではなかろうか

私は、距離を、ゆっくりと置く、なぜ、こんなところに、来ていたのであろうか

私は、意味を見出す前に、走り始めた

やはり、同じようなことを、繰り返しているような気がしたが

それが、よろしいかどうかを、探す前に、逃げてからでも遅くはないだろう

「早く、逃げろ」

手元で、船酔いしたような声を聴いたが

それは、嘘つき村の住人の言葉ではないことを、刹那に願うことはできたのである



「右に曲がれ」

うなだれたような声を無視するように、左に曲がり、そのままもと来た道を巻き戻るかのように、

私は、あの家に向かおうとしていた

今まで、この人形が、ゼンマイのうちの一つかと思ったが

どうも、全く違う部品のひとつでもあったのではなかろうか

「おい、家に帰ってどうする、初めに、逆戻りであろうよ」

何が、問題なのであろうか、事件は最初の場所へと戻るという

その場所で、休んでも罰は、当たらないだろう、それとも、何か不都合なことでもあるというのであろうか

「おい、私は、お前、どうすることがいいと思う」

私は眼光鋭く、手に持った人形をにらむ

「睨んでも、答えは同じだ、私は、私であるが、それ以外の何かを変えることはできない

私は、どうしようもなく私なのだから」

何の話をしているのか、何処かのねじか、何かを、狂わせているのではなかろうか

磁場か、磁力が、あまりにも振ったものだから

私は頭を指でこついてやろうとしたが

それは、いやいやをするように、手でのけるので、振袖を引っ張って、止めさせながら、更に詰問を繰り返すことにした

「で、お前は、何ができるんだ」

相手はそれに対して、何も言わず、それどころか、落ち着いたように、座って、くつろいでいるように見えた

「何をしているんだ」

手には、急須と、茶壷を、持っている

小さいが、その大きさは、ちょうどであり、どこに隠していたのかの謎は、手に持っているそれが証拠として現実的なものとしている

「日本人たるもの、いつもお茶の道具は持ち合わせているのだよ」

聞いたこともないことを、言いながら、私は、勝手に、お湯を求めて、広いお勝手へ行こうとする

人形を、あきらめの眼で見送っていた

こんなことをしているだけ時間の無駄なのではないだろうか

この人形は、所詮この現状を、ひん回して楽しんでいるだけではないだろうか

私は、それに、軽い、眩暈と、安堵を覚えていた

案外、この状況は、どうでもいい

それこそ、夢のようなものであったのではなかろうか、私は何も心配することはなく

そして、何だったら、これは、今いる自分の座っている、この場所に行く前

あの狭い、マンションの一室の自分の部屋の布団の中で、目を覚ますことから、始まった、ただの、その前段階の一部に過ぎない、夢でしかないのではなかろうか

日本人形が、喋ることも、家族の失踪も、それで、全ては、説明が付く

いつの間にか、湯気の立った、急須の口をもって、畳の上で、お茶を入れ始めた、人形も、そのせいだ

しかし、日本人形の夢を見るようなことが、私は最近あった記憶がない

これは、何かの深層心理であろうか

夢など、現実に起きたことの整理でしかない

無いものは、存在しない

それは記憶であったとしても、夢の中であったとしても、そこに存在するのは、必然だ

しかし、目の前の、その存在は、悠々と、せんべいのようなものを、口にしている

その非現実的光景こそが、それを、夢である証拠に思わせたが

しかし、実際問題、何か、その日現実感が、私の夢には到底思えない、そんな、リアリティーを思わせる

私がこんな夢を見るとは思えない

これは別の夢の世界ではなかろうか

だとすれば、私は、はじめから、存在していない

それは、酷く楽である

私など、初めから、居ないのであるから、この物語の決着を、私が決める必要性は、何一つ存在是せず、その責任も何もないのだ

それを見る人間が悪い

私は、ただ、そこにいるだけだ

ただ、バリ掘りと音を立てて、何かと食べている

その人形のいやらしいこと、私は、一つ、トンカチで、頭をぶってみたら、面白いのではないかという妄想にとらわれたが

そんなことをするほど、私は、その時は、あまり面白みがないのである

そんなことをしたところで、中から、お菓子があふれることもないだろう

逆に、パンドラのように、妙なものが、あふれ出ないとも限らない

こんな悪意の塊のようなものである

まだ中にはとんでもないばねが仕込まれているとも限らないのである

私は、ぼんやりと、握りこぶしを緩めながら

人形を、見ていたが、その耳に、背後で何か物音を聞いた

何だろうか、そう思う前に、答えなどは決まっていた

誰か来たことの危険性を、考えることが、余ほど重要だ

手に持った湯呑を、置いた人形を、手につかむと

私は、後ろを振り返る

さて、どうしたものか、次は、どこに、逃げようか

そう思う、私の視線の先にはとんでもなく、見慣れぬものが、こちらに向かって、進んでいる

「あの、止まってもらえませんか」

相手は、それにこたえてはくれない

ただ、進んでくる、その姿は、私のよく知る

祖父母の姿に、酷似していた、服装が、それなのであろうが、どう言う訳か、首から上に、何も存在していなかった

何なんだよ

私の漏れ出る、言葉に対して

人形はただ

「ぐえ」と空気の漏れる人形としての意見を、体内からあふれ出した

実に無様だが

この状況を、言い表す、現実的、現象のように思えなくもなかった

こいつはやはり肺呼吸のような機関を有しているのかもしれない

ただ、人形を解剖する気もない私には、どちらにしても、この状況を判断するような、材料にはなりえないのである

人形を、握りしめたまま、私は、祖父母のような服を着たその存在から、距離を、取りながら、

畳を歩く

老婆は、靴を、脱いで、中に入ってくる

意識があるのかは、どうかはわからないが、どちらにしても、面倒だ、まるで、昆虫のように、こちらに意識をルールに変換したのちに、来てくれるのであれば、それほど、考える必要性はないのかもしれない

いや、それが、巨大な昆虫であれば、私などは、ただの餌以上に、何も存在意義を、得ることはできないのではなかろうか

昆虫は、繰り返す、行動に、忠実であるが、それ以上に、その肉体の方さは、強さは、いかんせんともしがたい、物を、有している

それが、同等の大きさになれば、人間では、到底太刀打ちできることもおこがましい

最強的肉体的機能を、有しているのは考えるに難しくもないのではなかろうか

しかし、問題は、それは、人間のように靴を脱ぐ程度には、人間っぽく私には見受けられた

つまり、平然と、毒を、スポーツドリンクの入っているペットボトルに、注射器で、穴をあけるくらいやられたら、私は、平然と、死の中に、溶け込むことになりかねない

つまり、人間の真の恐怖などは、しょせん、駆け引きの中で、おぼれるに違いない

一つだけならまだしも、私のような子供では、二本三本と増えれば、私のようなものでは、対応のしようもないのではないだろうか

「なんだ、冷や汗なんてかいて、答えを得たから、走っているんじゃないのか」

小さな民家の中で、走るなんて言う言葉が当たっているとは到底思えない

畳を滑り込むようにいくら走ったところで、その答えが、見つかるとも思えない

だからこれは、ちょっとした、逃げだとでもいう事であろう

しかし、それでも、小さいと言えども、それは、思っただけで、実際問題、十二分にひろいと言ってもやぶさかではなかったのではなかろうか

畳や、柱を、通り過ぎるたびに、後ろでは、その騒がしく慌てた、私の行動を、あざけわらうかのように、それは、鼓膜から、存在を伝えているのではなかろうかと、私を惑わせていくのである

「ねえ、おばあちゃん」

その言葉に、意味は、あるのであろうか

逆に、声を頼りに、進んでいるのではなかろうか

私は、息をひそめて、立ち止まった

ゆっくりと近づいている老婆の横には、きらめく、銀色の刃物が、木の柄に握られ

隠すように、横に、潜んでいた

私は、顔がどこにあるのかは知らないが、ゆっくりと、距離を取ることに、専念しようとした

「しかし、あれも、馬鹿だな、ねえ、おばあさん」

私は、いつの間にか、喋りだした、あのバカ人形を前に、口を、何かで、縫い付けられないものだろうか

そんな思案をよそに

目の前の人形は、サッカーボールのようなものと、会話を繰り返してる

「なんだ、それ」

私の言葉は、その目の前の、サッカーボールの会話により、途中で、途切れることになった

「はやく、こっちに来なさい、ここにいますよ」

それが、人形による、腹話術でもないのであれば、実に奇怪な、そのボールが、喋っていることになるが

私は、どうもその後ろ姿に、意味を見出し始めていた

それは、到底、ボールでは、無い、球体状を、していないことはもちろんのこと

何やら、髪の毛に見えている

それよりも、人形が、私の向こうを見ていた

その黒い瞳が、普通に、怖く

それが、どうしようもなく意味を、含んでいるように思われるのである

私は、距離を取るように、体をひねりながら振り返る

目の前には、鈍く光る銀色の包丁を前に、後ろに這うように、私はまた逃げることを、繰り返す

しかし、視界の横で、てとてとと、私と同じような、速度よりも、いや、それよりもよほど早く、人形の

その小さな足が、私の先を歩いていく

「実に無様ですな」

その口から出る言葉に気を使う必要性はない

私は、すぐに、手をついて、立ち上がると、相手から距離を取るがために、老婆が脱いだ、靴を、逆にはくと、表に飛び出した

果たして、そのあと、おばあちゃんが、靴を、はいて出たのか、それとも、そのまま歩いてきたかを、知る由はないが、私は、逃げるように、家を出たのは、まさしく逃げていたからに他ならない

私の息遣いは、さらに過熱し、普段の運動不足を、露呈させる

いい機会に恵まれて居たが、だからと言って、どれがどうなるというのであろうか

火事場の馬鹿力とは、言いようで

後先考えない

このマラソン大会は、私以外に、どんな観客が、いや、競争者が、居たとしても、そのゴールがわからない以上

それは、元から同じ場所であった可能性だって否定できない

私のこんがらがった思考は、この日現実が、ナポリタンの赤い糸のように、脳内で、こんがらがり

それを、医者が、分解しているのだとしたら、いい笑い種である

老婆のこんがらがった毛糸を特に似ているのではなかろうか

どちらにしても、今この時そんな思考が、役に立つわけもなく

私の、こんがらがった行動原理は、ただ、あや取りを、さらにこんがらがらすにまかせるように、走るに任せるのである

それに意味など分からない

何だったら、そこら辺のポストの陰にでも、うずくまっていても大して変わりはないかもしれない

しかし、こうなってくると、もう行く場所はここしかないような気もすれば、そこら辺の民家にでも行ったほうが百倍い道順にも思えなくもないのが現状であるにもかかわらず

繰り返される道順の行ったり来たりを繰り返す、この反復において、私は、あの学校こそが、何が意味を見出す場所なのではないかともそう思い始めた

どこまでが、現実か、それとも、夏休みに、祖父の家に行くためのストレスによる

悪夢だとでも言うのであろうか

そいえば、奇妙なことが、先ほど起こったことも、あれはあれで、どう説明するとでも言うのだろうか

「おまえもそろそろ、あきらめて、俺に頼ったらどうだ」

どの口が言うかはさておくにしても、私の信念は、寝曲りだけのように、表面上を、覆いつくすが、その信念から生まれる、葉っぱは、まっすぐに伸び、さらには、光合成を、柔和な物腰で、されど、力強く行っている、しかし、それは、この奇怪な生物こそが、私の上に立つ、奇妙なまっつぐな存在だとでもいうように

正論を言うが、その正しさが、正しいかどうかを、私は、すべからず、疑念を、抱いては、困難に、相手を見据える

「おばあちゃんと話していたの」

相手は小首をかしげた

「さあ」

何とも、憎たらしい態度で答えであろうか、この人形は、馬鹿なのか

徹頭徹尾、つま先から、どうせ、空洞の体で、冷やす機械か何かなのではないだろうか

「あっ、あんたのせいでしょ、どうせ」

子供よりも、さらに小さな、赤ん坊のような人形の

襟首をつかむようにしながら、私が叫んだところで、それは、どうしようもない弱い者いじめの格好のように見えて、事実、私がひどく弱いことを、さらしているような気がして、酷くいたたまれない気がする

それは、こいつに私の弱みを、握られているような

どうすればよかったのか

・・・いや、よくよく、考えてみれば

私は、言葉に出すために、口を開く、そうだ、そう考えると、物事は、つまらないほどに、どうしようもなく、理由があったはずだ

そうだ、そういえば、こいつは何か言っていたはずだ

それは、私の倫理ではない

こいつの法則にのっとった会話だ

「おいデミグラス」

ゆっくりと、その顔が、こちらを向いた

私は、その時、主導権でも握ったような気がしたが

その人形は、木製で出来ているとは、到底思えないような、動きをして、その白く塗られた貝化粧のような顔の中で、口を、動かす

「良いのかい、俺に、そんな口の利き方を」

私は、さっさと言う

面倒は、早いほうが良いのではなかろうか

「現実に戻すにはどうすればいい」

「ひとまず逃げろ」

それが、正しいかどうかは、私にはわからない

しかし、少なくとも、今現在、私が知っている法則にしたがい

私は、人形を、手の前に、突き出すように、走る

気が付かなかったが

後ろに誰かがいたらしい

私が振り返ると、そこには、警官が二人、こちらを見て、何かを突き付けている

法治国家

その言葉が、私の耳元に響く爆音で崩れ去る

「ほらな、いっただろ、逃げろって」

その減らず口で、私を救うことはできないのであろうか

非現実的な方法で、銃弾でも、それさせたり消してくれれば、いいが

どんな、対価を請求されるか分からない上に、良く分からないことだ

イノシシの首ならまだしも

私を生贄にしろなんて言って来やしないとも思えないのが恐ろしさを考えさせた

しかし、私が何か言う前に、私の耳元で、正確に的確に正しそうな声が、私の鼓膜を正しく揺らす

「逃げろ」

これほど、いわれる筋合いが無いような言葉は、久しく聞かない

何だったら、こいつの、全てが、問題が、私をこのような状態に、直しているのではなかろうか

そう思わずにはいられない

悪態へと直すなど、実に、悪く、邪悪であるように思えて仕方がないのである

私は、本当に、存在しているか、その間も、汗を流しながら、さらに、この人形を、抱いて走っているあたり

メリーさんの電話よりも、幾分優しいというべきか

それとも、これは、未来への伏線でもいうべきなのであろうか

私はどちらにしても、逃げることに、専念する

それこそが、私の行動を、球から逃げさせる意味へと、直結

(おまえ、何言ってるんだ)

言われない、正論に、私は、その数十秒前から、行動しているのだから、やはり、徹頭徹尾、言われたくもない現実であると、相手へと突き付けたくて、うづうづしているが、それさえも、息をくるしませるので、ヘンと、口をまげて、ただ、足を、地面にけらせて、走らせることに、ただただ、没頭し繰り返す機械に、私は、なることに、やはり、専念するだけの

そんな子供の機械式人間こそが、私であった


路地裏で、私の生体的

汗の流れを、そしらぬように、私に持ち運びされていた敵は

汗一滴、気にすることもない機械仕掛けの日本人形のその表面は

呪われたように、粉をたたいたように、汗の断片さえ、きっと、顕微鏡で見たところでないだろう

大学に、預ければ、きっと、心行くまで、分解され

輪切りにされ、分析され、これが、無機物か、生物か、それとも、この世のものかあの世の物か

きっと、分析して、とんでもなくつまらない成果を、発表してくれることであろう

きっと、体内には、安物のマイクが仕掛けられており

単純な行動だけを、操作するだけで、案外人間は騙されてしまうかもしれない

ぴこぴこ赤く点滅するだけで、その機械に感情があるように思えてしまうくらいの馬鹿か

または、馬鹿になれるだけの容量を揺らぎを持ち合え褪せているかいないかは知らないが

どちらにしても、騙されやすくはあるだろう

つまりは、私は、ちょっとした、ドッキリに、最悪、付き合わされているだけかもしれないということを、サイドストーリーとして、再度認識していく必要性も、考えながら

その後ろでは、拳銃を持った、警官が、一体どんな天気で、市民に、発砲するに至ったのかの経緯を考えつつも、果たして、あれは、交番だったのかという疑問さえ浮かび始めた

あの場所には、二人しかいなかった

二人くらい平気で用意できるかどうかはさておき

居るのであれば、居るのだから、仕方がるまいが、それが、本当にコスプレをした

おじさん二人だという証拠も

拳銃さえも本物かそれと同等か

または、空砲であるかは知らないが

何か、音を立てて、撃ってくる

頭のおかしい、大人であるのであるから

それはとんでもなく、弱い私のような子供には恐怖である

なまはげや、着ぐるみの狂気は、その匿名性か、または、教育にかこつけた、虐めであろうか

私の脳内は、委縮したように、冷や汗をかき

先ほどから、凝り固まったづ骸骨の中で、小さく

ジーンと、音を立てて、震えて居るように感じられて仕方がない

「おーい」

やまがりでもしているような声が、向こうのほうから聞こえる

ただ、距離は遠いらしい

「こっちだよー」

うるさい人形に今度、アロンアルファを、飲ませることを、考えつつ

口に手を当てる

人の口に、戸は立てられないというが、人形であれば、何という事ない

ナイフ一本で、木製そうだから、唇を、そいでしまえば、そこに何もないはずだ、

発声する穴や物を食べるそれがないことが、前提であるが

しかし、病気の中には、鼻が落ちる病気があるというが

こいつは・・いや、これは人為的行動だから・・まあ、どちらにしても、悪徳そうではある

手の中で抑えたそれは、頂上的概念ではなく、口をもごもごと、動かして、いるらしく、こそばしい

しかし、つまり、こいつは、腹の奥からでも、空気を出して、発声行為をしているということになりそうであるが、本当であろうか、私には、分からないが、現状、声が、手の中で、跳ね返る程度なのだから、こちらに越したことはない

しかし、何処かに、こんな深夜に、開いている、お金の後払いかいらない文房具屋はないだろうか

少なくとも、コンビニは、車で三十分は、走らないと見つけることは、かなわないと思われたのだる

というか、現状、行で見た、車の中で、それくらいの距離感であるし

実際、おぼろげな記憶の中での、車に設置されている

ちいさな、電気時計の明かりの黒い数字は

そう告示されていたのを、私は、逆算して覚えていたことを、考えていたが

そんな暇も、手を振動させる

この奇怪な日本人形の前

私は、逃げることを、こよなく選択し

そして、そうすべきだと思い起こさせる程度に、気持ちが悪いのであった

それは、つまり、そういう事であろう、この嫌な気持ちにさせることで、目的を思い出すという行為を再現したのであるとしてさえ、それは、この人形の浅はかな策略なのではないだろうかというのが私の心に一瞬よぎってはいたが

よぎるだけで、こいつに何か意思があるのかさえ分からなくなっていた

まるで、磁石を向けた方位磁石のような無意味さ

そして、テレビに磁石をくっつけたような、無慈悲な物理法則を、そこに写し、ているようである

世界を壊すような、この存在であるが

それさえも、物理法則のいったんだとでもいうのか

それこそ、自分の知識の浅はかさであり、それは、大学でさえ破れない放置された知識の吹き溜まりがあるのであろうか

自殺や、自然破壊が叫ばれても、学者がやっているのを何一つ私はしらない

所詮は、会社の末端でしかないのであろうか

グレーな気持ちを考えたところで、物事が割り切れる分けもなく

されど、物事は決定していく無常さ無慈悲さを考える間もなく、私の足は前へ前へと進ませるしかなかった

現実問題、あの警官につかまっても面白いことはないし

それに、今更ながら、この人形を、ここで、思いっきり、地面に投げつけたら、見んながら、クラッカーを、パンパン鳴らしながら、拍手でもしてにこやかに登場して、何事もなかったかのように毎日がまた始まるのではないかという

淡い期待が、これほど奇怪な物事が起きてしまった以上

無いのではないのではないかと、そう思わずにはいられないのであろうが

しかし、だからと言って、それが、取り返しのつかない、とんでもないことであって、気が付いたら、それはすべて失われていたなんて言う、公共事業みたいのも、また、めんどくさい事例である

私は、ぼんやりと、手の中の、もごもごを、むししながらはしる

しかし、いったいこれは、何なのであろう

何がしたいかと言えば、それは、悪意に違いない

しかし、物事を、そんな単純に割り切ってしまっていいのだろうか、よろしいのであろうか

悪意に満ちたものに、悪意を

いや、ここまで私は、慈愛をもって連れてきているのであるから、それは一行の猶予を持ってくれても良いのではなかろうか

良くは知らないが

どちらにしても、私が、これを、持っている理由が、良く分からない

これが居たところで、何か、これから私的に有利になることが、何か一つでもありそうかと言われれば、私には、首を振る疑念材料を、山のように、ゴミ箱五味山の中から、次々に提供できそうだ

しかし、それが尽きたときそれは何だったのかと言われれば、やはりそれは、哲学的堂々巡りを見るような

仏教と精神科の狭間を揺れるような、物理と哲学の変革を見るような

私は、ぼんやりと、町の疎外感を醸し出す、家の明かりと、ぽつんぽつんと、忘れたように立っている

明かりを見比べるように

その縞模様に彩られた道を、一人、走っていく

この人形は、一人か、それとも、一匹なのであろうか

遠くのほうで、何か音がする

不意に、手から声が漏れた

私の手が、発声器官をもちえない限り

あの人形であることは明確の事実であると思われた

「おい、そっちは、あぶないぞぉいう」

手が、邪魔で、それは、隙間から、扇風機から喋っているような、奇怪な音声を、私には聞こえさせているのは

走っていることも、加味されていることである

「危ないからと言って、後ろからの追手のほうがもっと危ないことも加味しなければいけないだろ

第一、危ないと言ってとまるような状況なのかが、私には、第一に、分からないのだ

お前は、一体、第一に、何が奇妙で、止まれというのだ」

私は、そう叫び声をあげたかったが、そんなことを、無視するかのように、私の前方にあったであろう何かが私に、ぶつかった瞬間

いや、私のほうが、正確には、ぶつかってしまったのだから、相手のほうが飛んだいい迷惑であることは間違いない事実であることは間違いなく動かない現実的状況だろうが

「すっすいません」

吹き飛ばされるように、転がる私の前に立っていたのは、いとこの姉と友達である

しかし、その時間の間、この人たちは、何処にいたとでも言うのであろうか

私は、これが、ドッキリなのか、それとも、何かの儀式なのか、改めて、詮索しようとするも、この金箔的状況に、そのまま、また、クランチスタートを切るように、こけた体を、起こして、走り始めることにした

地面を、ぎりぎりと、足が、こすれ、それが、とんだゴムのように、ポーンと、先へと進ませる

相手は、若者とは思えない、鈍足で、それでも、何か、私が、悪いことをする、それに対しての、正義を持つかのような、何か、確実なあゆみで、後ろを追ってきているのである

本当に悪いのは、誰であろうか、私のような、一般市民に、拳銃を、銃口を向けていて、さらには、破裂音を繰り返す、あの警官二人組であるか

しかし、日本の警察が持つような拳銃は、どれほどたまの段数があるのであろうか

それとも、何個も銃弾を持ちあるいているのであろうか

それとも、猟銃を、持っているような人間が、仲間にいて、私は、かられる対象として、ここの人間に、広く知れ渡っているとでも言うのであろうか

どちらにしても、私という存在を、私が、定義づけせずに、どうして、私としていられるのであろうか

それとも、私以外の実情が、それを私以外の物として、定義づけしてでもいるというのであろうか

私は、ぼんやりと、肺から贈られる酸素の供給でも、熱しられた心臓は、どくどくと、意味もなくからかいてんを、繰り返しているような、実情でさえも、それを止めることを、出来ないと、余儀なくされているのである

何処まで行けばいいんだ、そんな不満も不平も、へとへとの口から出ることなく

ただ、下で、人形が、ダンベルのように、上や下に振られながら

「もう諦めたら、どないです、人間は、いつか死ぬんだから、今死んでも、さして変わらない

虫けらのように、どうせ、地面にも帰らない癖に」

私は、自分の人生を、否定する、この人形に、果たして、どう説教するべきかとも考えるが、

考えたところで、この地球で人間が必要かどうかは、子供から見ても、あまりにも不要に思えなくもなかった

ロシアの原発事故の跡地では、野生動物が、楽園を気付いているというし

所詮、人間の行動など、物理が行った、人海戦術の跡地を、軽く押し流すだけ

革命が、何も文化を守れず

そして、また、一からやり直しをする馬鹿のように

どうしようもなく、無意味に思われるが

しかし、この人形に言われる筋合いだけはなさそうである

「お前はどうなんだ、何か役に立っているのか」

二酸化炭素を、はかないだけましかも知れなかったが

しかし、息も絶え絶えの私の答えに

「しーらね、ただ、そこに、存在しただけだよ」

と、馬鹿みたいな答えを出してくる

今度大学で、aiと、会話させて、頭をおかしくする実験をしてみたいものだ

人形だから、疲れるということも、睡眠も必要としないのではないだろうか

「でも、何か、何か、解決する方法が、あるんじゃないの」

私は、ここまで来て、これが解決できる内容はあるのかさえ、疑問に思えてきた

これがもし、病気だったら、私は医師でも何でもない

ワクチンとか薬を調合することもできない

なまじ、出来たとしても、その調合率や、それの副作用、または、量なんて言うものを、上手く相手に伝えられるかも不安が残る

いや、大体において、これが、人間が解決できる内容かどうかも怪しい

まるで、自然災害のようではないだろうか

台風や、地震

そういうものだったら、私1人が、どうこうする場合ではない

すぐに、もっと大きな場所へと、通報することが、私に課された、出来事として最も有効だったのではないだろうか

しかし、ポケットを、探したところで、何かあるとも思えなかった

小銭を入れる趣味は残念ながら持ってはいない

交番に戻るか、そこら辺の家に、入って、電話を貸してもらうか

私は、ぼんやりと、行動することを、酸欠か疲労している頭で考える

「お疲れのところ悪いけど、君は、もうそろそろ、頭をよく考える必要性があると思うのだが」

頭の悪そうなことを、日本人形が言う

物事とは、千差万別である

されど、名コーチ 師匠は三年かけても選べとでもいうかのように

また、そういう事も、あるわけだ

私は、ぼんやりと、相手の事を、見る

相手は何かを言っている風ではない

先ほどから、悪意を持って、何かを言っているのかと思ってもいたが

それ以上に、これは、不確定な、好い加減な

何だったら、意味のないことばかりを、鳴いているだけなのではないかとも思い始めた

それとも、やはり、音声に、反応して、決まった単語を、繰り返し、言っていて、それが、何時間も収録されているだけなのかもしれない

だとすれば、そのうち、一番最初に聞いた言葉が、繰り返されるかもしれないが

「お前の名前は」

「何回聞くんだ馬鹿」

どうやら、受け答えの単純思考はできるらしい

出来たからと言って何の役にも立たなさそうである

認知症の老人に与えたら、きっといい会話ロボットの役目を果たしてくれることである

少なくとも、今の私には、何の役にも立たなさそうであるが、これを量産して、売り出せば、私は、それなりの金持ちとなり、窓やりんごの会社を、買収も夢ではないかも知れない

夢な話はさておいておくとしても、私は、そこで、奇妙な自室かんに襲われた

私のこの会話こそが、無意味なのではないか

私などは、最初から存在せず、このロボットも、また誰かの会話の一部だったのではないだろうか

私は、それに対して、何の答えも出せず

ただ、手の下で鳴いている

この、猫よりも質の悪い存在に対して、どうしようもない、怒りと、そして必要もなくそして所在の分からない罪悪感を備えている

この罪悪感は、何であろう、この人形に対して、私が何も愛情を抱けないことか、それとも、この後この人形をバラバラにして辱めてやろうという、友情分解行為のせいだろうか

私の思考を、読み取ったかのように、人形は、口を開く

今私はどこを走っているのであろうか、それに足しいて、誰かが、答えてくれることはなく

なおさら、人形は、私にあるい油をさして、そのうえで、オーバーフローした

その油で滑らそうとでもしている魂胆に私は見えた

しかし、なぜ私とこの人形は、二人で行動しているのであろうか

この二人の登場人物と

そして、その周りにいた、様々な人物は、出てきては消え出てきてはまた幕を去っていく

それに意味があるのかどうかさえ分からないし、何だったら、この奇妙な出来事が、本当に、先ほど思った通り、この家族とそのっ周辺だけで終わっているのかさえ謎だ

劇の登場上仕方なくこの人数に縛っているのであれば、納得は行くし

もしかすると、テレビをつければ、そこには、街を闊歩する

あの集団が見れるかもしれない

ラジオをつければ、それがどこで起こり、そしてその存在を、おぼろげながらに、断定している可能性もなくはないのであろうか

私は、その存在を、把握することが、出来ることを、祈りながらも

人形の曖昧な嘘に、耳を貸してやろうとも思っていた

その声は、やけに甲高く、耳に、支障をきたせかねない

「お前は、やみくもに走って逃げているつもりでも、結局は、この狭い街の中を、ぐるりと、回っているに過ぎない」

こいつが、どれほど、外の情景に詳しいのか分からない

外の人間模様の一端を、知っているような、のぞき見多様な、聞いているようなことを、言っていたが

その実情、あの狭い蔵のさらに狭いガラスケースの中で、一体どう言う情報を得て知多というのであろう、この情報網はきっと、かなり昔で止まっていてもおかしくはなく

さらには、ガラスの中から見たのかは不明であるが、この町の地図にまで詳しいとは、私には、到底理解ができなかった

しかし、それでも、それなりに、知っている風でもあり、この奇怪な生命体かなにかはわからないが

それが、こんな事を言っていることを考えるに、それは、気に留めても、気にしなければいいだけなのかもしれない

回ると言っていたが、確かに、回っているのかもしれない

しかし、未だに、何か、見知った道に出た記憶はないが、それでも、直線に走っているわけではなく

逃げるに任せて逃げている現状は

つまりは、いづれ、私は、どこかに出ないとも限らないことを、十二分にしさすらだけの

原材料を、持ち合わせている

悪魔の照明は、一体、何を照らしてくれるのであろうか

どちらにしても、解明できそうになさそうである

こいつの正体は

「それで、何を証明してくれるの、何処に行けばいいとか教えてくれるかどうかは、分からないけど、あなたは、先ほどから好い加減なことばかり、嘘策略陰謀悪知恵、こんなことを、いつまでも聞いていたくないから、そこら辺の用水路や、ごみ捨て場に突っ込んでおいていっても良いんだけど

それをしないのは、少なからず、お前がこれの物ごとに何かしら絡んでいるのではないかという私のとんでもないしそうなわけで、それで、あんたは、何なの、何をしてくれるというの」

人形は、手の中で、まるで、演歌歌手のように、両手を広げ

こちらを見る

聖母まりやか何かのまねであろうか

日本人形のこれまでの行いを思うと実にうさん臭く、それの恐怖的演出が、そのせいで恐怖にも満たないチープさを、恐怖的現状であるにもかかわらず、その裏側が透けてみてた

「何なのよ」

私は、泡立つような、感覚の中、そう言おうとしたが、それでも、何かを手の名が出言おうとでもしているのであろうか

辺りに気を付けながら、私は、ぼんやりと、その人形の白いお白いかそれとも、胡粉でも、貝を砕いて、にかわで、つけてでもいるのであろうか、そんなことを何度か考えた気もするが、そんなことはどうでもいい、人形の、良いわけでも聞こうじゃないか、そう思う心境も、極度の緊張と、それ以外を求める、私の何かどうしようもない何かなのではなかろうか、ただし、人形のことは、依然として、信用ならない

地獄の鬼が嘘を言うか、悪魔が契約を破るか

そんなことも知らないが、しかし、役職つきよりも、野良の魔物のほうが、そういうものには、曖昧さが、いや、古いがゆえに、そういうルールに縛られない格上の可能性も、なきにしろあらず

何にせよ、そんな、自然のルールや、または、人間の原始的視線を、この人形に向けたところで、自然とスマホであれば、スマホに飛びつく、子供位に、意味を見出すことは難しいのではなかろうかと、そう思うのである

「単純明快に、私が、導き出す、いや、常識は、逃げろだ」

最後の語尾ばかり、叫ぶように、日本人形が、何処からそんな声が出るのかという金切り声を上げた

私は一瞬、ということは、動かず逃げるなという事かと、考えたが、しかし、あまりの叫び声に、そうせずに、走ることにした

それも、私の意志の弱さによるものか

それとも、今度こそ、信じるに値する時が来たのかとそう思ったのであろうか

いや、そんなんじゃ全然なく、違うのだ

私が、求める答えは、人形からではなく、人形に、声を掛けられ、おびき寄せるように、向こうの角から現れた、また知り合いの服装の人物であった

それには、首がない

しかし、首のない人物も

そしてまた、その服装にも、非常に、記憶の中に存在する、人物であるのは、間違いはない

おばあちゃんである

私は、後ろに逃げようと、振り返るが、そこにも、見慣れた人影が居た

おじいちゃんである

何たる再開であろう

この町は非常に狭いに違いない

もしくは、この、ゾンビのように、のろのろと動くこの存在は、果たして、ゾンビではないから、私に、位置を知らせる機械か何か、BPSのような発信機でも、つけて、連絡を取り合って、密に、私を、追いかけているのであろうか、最近のゾンビは、走るという

意思疎通があっても決しておかしくはない

しかし、奇妙なのは、この存在が、ゾンビかと言われると、分からないという点に集約される

映画であれば、大丈夫だと思って、近寄って食われるか

食う前に、行動不能になるまで、部位損壊させるかのどちらかであろう

しかし、問題点は、そこでは全くない

ただの夢遊病患者の可能性はなかろうか

精神分裂でも、している可能性、多重人格

いや、洗脳だって

どちらにしても、これは、正当防衛とか、そんなことを言っている場合の話ではなく

それ以前に、そんな行為をするに足りる現状なのか

そこが重要なのではなかろうか

私は、何かされたか?

包丁を、持って近づけられたり

車のガラスを割られたり

警官が、私を打とうとするような近くで、発砲したり

どうにも、あれらを、信用にするに足りる物は、徐々に最初からなかったのかもしれないと思わせるに足りる値が増える

本当に、これらは、居たのか

現に、目の前に、歩いてきている

私は、それから逃げるを選択するべきだと、頭の中の、単純化されすぎた、指示の二択が迫る

「A立ち止まって、にこやかに会話を始める」

「B逃げる」

aを、極端に支持する人形を、軸に、私は、bに、踏み込んだ

そんな馬鹿な選択は、置いておくに限るのである

人形も、そのまま、置いて置いてもよかったが

私は、近くの塀によじ登ると、すぐそばまで来ている

老婆の手をよけるように、歩き始めた

「どうすればいい」

人形は、すねたように、答えない

最初から、答えたことは、無かったから、それが正しい見方かもしれない

しかし、それでも、この人形は、何かの役に立つとそう思って疑えないのは

私の罪なのであろうか

信じることが正しいわけではない

しかし、信じないことが、間違っているわけでもない

ただ、正しいわけでもないわけでもあり

疑いと、真実の狭間がないような気がする中

平均台のような、それ以上に不安定な気もする上を、歩くが

しかし、大きさは、さして変わりはないはずであるが、この平均台の下には、マットではなく

良く分からない、何か

親戚かもしれないものがいる

「ねえ、どうにかしたらどうなの」

どうにもならないかも知れない状況で、奴は、人形らしく、動かないふりをするようだ

口が笑いをこらえるように、わずかに歪んでいる

きっと、押さえるのに必死なのか

職人だったら、そんな顔なんて、絶対させないような、下卑た笑い方で、彫刻されているようであった、実に、私の癇に障る存在であった

それなのに、未だに、手の中にいる

こいつは、私にとって、何か依存性のあるものだとでもいうのか

だとしても、赤子が親を求めるのは、果たして愛に植えているのか、食べ物がほしいのか

それとも、本能のなせる業か

ウミガメが、生まれてすぐに海を目指すように

めざせないものが死ぬように

もしかすると、山の中に入ったウミガメがいたかもしれない

そういうのを、ヤマガメと言ったかもしれないが、そんなたわごとは、どうでもいいに違いなかった

私は、猫よりも、数段無様に、地面へと、落下すると、そのまま、道を、進もうと、頑張ったが、相手は、最終決戦でも、しているらしい

きっと、私のような子供には聞こえないブザーでもならされているのだろう

そのサイレン音に、ひきつけられたかのように、その前には、警官が、そして、その反対方向を振り返れば、警官が歩いてきている

逃げ場は、また塀の上か

警官の前には、私が来た方向から、老人たちが、次々と、歩いてい来る

なんていう事であろうか

私は、ざらついた灰色の塀を、手でつかむ

足元から何者かがつかむ

手足の長いいとこだ

これだから長身は嫌いだ

大人なんて、大っ嫌いなのであろう

私は、ぼんやりと、自分の存在を、ぶらぶらと、ちゅうにうかべたような残念な気持ちになりながらも

必死に、足をけるが

相手の信念は、私の体力以上らしく

それを数度繰り返すうちに、別の何物かが、私の別の足まで、つかんだ

ここで、自分の自衛を叫んだところで、誰かが助けてくれるとは思えない

何だったら、警官は、無意味そうだという感じがする

そう考えるのであれば、もっと、注意深く

いや、そうしてきたはずだ

フラグはすべて闘争に割り切っていたはずでもある

しかし、それでも、何かを間違えたのか

そう考えると、あの日本人形の言葉を、思い出す

あっちだったのか、正解ルートは

そう思う間もなく、私はずるずると、下へと引き戻きもどされる

食われるのであろうか

カニバニズムは、わが国では、骨かみという遺骨を食べる文化があるくらいには、普通であるが

しかし、同族食いは、時として、クルー病として

「何考えているんだ馬鹿」

不意に、私の足が、ゆるんだ

目線を、下げると同時に、上に這いあがる

反動は恐ろしく、両足から逃れるように、蹴っ飛ばすはずみで、壁の向こうに落ちていく

ただ、その足元、いつの間にか、日本人形が、私の足を、蹴っ飛ばすように、つかんでいた手を振り払っていた

何とも、心強いではないか

そんな思惑も、私は、やけに長い落下に気が付き

恐る恐る下を見て、疑問に思う

そこには、あの時見た

暗黒にも似た

真っ黒い世界が広がっていた

「っあ」

その言葉は、水に口の中が、沈むにつれて

口の中に、冷たい塩水が、空気の入れ替えのように、入り込んでくる

なんていう日であろうか

私の言葉に、悪びれた、口調を、返すものはなく

上の方から、赤いひらひらとしたものが、揺れている気がする

ここはどこだろうか

私は、おぼれまいと、上にむこうとするが

それは、粘り気を持ったタールのような物に思えてくる

上を向こうとするたびに、顔に水がかかる

ひらひらとしたものは、相変わらず、近づいてくる

あれは、人形に違いない

私を、私を、私を、馬鹿にしているのだ

コエダメに落とした、間抜けな騙され者だと、そう思っているに違いないのだ

それは、相変わらず、そこにいた、いや、目に海水が入っているせいだろうか、それよりも、大きくぼやけている

いや、確実に、視界に広がってはいないだろうか

私は、恐怖の中

不要な存在を、感じる

もしこいつが落ちてきたら、どうなるんだ

嵐の中に、板とは良く言ったもので

これに意味はあるかどうかは分からない

しかし、奴は、顔面に、不時着すると

ネズミのように、上に、這い上がり、ちょこまかと、檜舞台のように歩き始めた

なんて、邪魔な野郎だ

女かどうかは全く知らないが

無生物か、無機物か

「邪魔だ」

私の口に、その白い足が、歯ブラシのように突っ込まれる

邪魔だと言いたいのであるが

上手くしゃべることが遮られ中である

人形に、性別があるのであろうか

形は、人間そっくりであるが、その生殖形態は、無であり

もしかすると、増殖するかもしれないが

しかし、無でありそうだ

その中身は、いずれ、小さく、別の物になるかもしれない

しかし、これは、それに、分類されるものではないのかもしれなかったが

私は、どうしようもない存在を、前に、おぼれかけている現状の打破を考える

どうにか、なるのであろうか

「いやー、えらいこっちゃ、助けるはずみで、弾き飛ばされるとは、計画不一致とは良く言ったもので、面倒なことになったものだ

それもこれも、お希が、こんなところにいたから、問題が、増えたと、そう思わないか」

私は首を振って、人形を落とすと同時に意思表示に務めた

「お前、良くも、私を、騙したな」

相手は、何も言わない

ただ、人形然として

「何も言わない」と口走るのであった



助は結局は、来なかった

暗い海から、砂場まで、なんとか泳ぐことに成功したのは、あの人形がいくらか喚いたことでも

私が、方位磁石だったことでもなかった

遠くのほうに、車が通る道があるのであろう

そのライトに走ったのだ

私は、知らない間に、海辺まで、やはり、道をそれていたのであろうか

その塀を上って、わざわざ、下に落ちたのだ

幸いにして、したが、何もない海だったからよかったものの

地面だったらどうしようもないのではなかろうかと思わせる

ワカメのように、髪を、波打たせながら、私は必死こいて、張り付く髪を無視するように、海を泳いで泳いだ

ぶかぶかと重さをたたえる服を無視して

ただただ、波を漂う亡霊のように、私は見えていたかもしれないが、先に進んでいたのだ

あの崖が、陸であった場合、私はどうなったのか

高所から飛び降りると、高確率で、生きるという

体の重要部分が大破したのちに

どちらにしても、砂辺に、頬をついたとき、ほっと息をついたように、私は、ぼんやりと、にじむ視線を、上の道路を、走る車へとむける

動く東大とは、このことなのであろうか

私は、そのまま、ふらつく足を、先に進ませる

誰も助けてはくれない

暑い、気持ち悪い濡れている

という口うるさい人形を、胸に抱いているが、温かみは全くない

それどころか、わずらわしさしか存在しないのである

足は、濡れた砂を、ひきづるように、先に進める

多少冷えているようで、外の空気は徐々に温かみを海水温度よりも高いせいで、言い表し

それと同時に、塩分が、私にはひどいべたつきとして、そこに存在させてしまってきている

面倒だ、めんどくさい、どうしようもない

私の、うだつの上がらない、どうしようもない、この感覚を、動かすように、先に進む

いや、朝日まで、あの砂浜で、遊ぶように、体育座りで、待っていたほうが、きっと良いのではとそう思うのであるが

そうは、いかせないとでもいうように、私は、前に進んだ

何か、どうにかなるとは、そうは思えない

しかし、いかなければいけない

そんな気がしたが

しかし、どうも、手の中にいる人形がうるさくて、思考は邪魔され

それどころでは、到底、存在、いや、なさそうである

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破片 イタチ @zzed9

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