第8話 不幸せ


「騙したのか」


 職務に忠実なのが俺なんだ。知ってるだろ?


「……ああ、あの夜に知ったよ」


 さて、改めて自己紹介しよう。

 俺は影虎。今はもう無い犯罪組織カリウドの元組員。

 またの名をドッペルゲンガー。魔術耐性の無い者をふるいに掛ける影の天使で、怪物で怪物を滅する治安組織の一員。


 ああそうだ。懲戒処分になったとしても、まだ俺は成すべきことを成している。


 上層部は俺の潜入結果の顛末を聞いて、こう考えた。『もし災いの子が逃げた彼女で』、『もしもいつか我々に復讐しにやってくるなら』、『最初のターゲットはこのドッペルゲンガーだろう』、とな。


 つーわけで俺は人の少ない田舎町にて現れるかもしれない彼女……君を待つよう命じられた。

 もし現れたら、自動的に魔術耐性装備の特殊部隊が遠方から召喚され、この家を包囲することになっていた。

 で、そのマニュアルに従って、君が正体を自白した瞬間に、俺はここの「召喚ボタン」を押した。

 押すとすぐ、事前に用意していた召喚魔法陣に魔力が通って、特殊部隊が来るわけ。で、来たわけ。


「……では何故下がらせる?」


 その決定に、俺の中の影虎が猛反対、猛抗議、猛ブチギレしたからだ。『家族を奪われた彼女には復讐する権利がある』、とね。


 まあ確かに一方的な被害者ではあった。そこで俺は天と交渉した。結果、こう約束することになった。

 あの子が良い子に育ってたら神罰を与えない。その代わりちゃんとしたパパになるよ、ってね。

 

 さあ、良い子の良い子のお嬢さん。今度こそ幸せにしてあげる。

 お家を用意したよ。ウチの組織が運営してる孤児院で、そこには熟練の魔法使いも沢山いる。きちんと教えてもらうと良い。君の中の沢山の魂は回収させてもらうけど。


 おおい、ホプキンス隊長! 魂吸い取り機こっちに寄越して。





「……私はお前を殺さない。それは確かだ。私はお前とは違う。手のひら返しはしない」


 んえ?


「『幸せにしてあげる』? ふざけるなよ。お前の渡してきた幸せなんてもう二度と受け取るものか」


「お前の幸せを貰うくらいなら、不幸せを選んでやる」





 ばんっ




 と、乾いた音が鳴った。

 ……爆裂魔法の音だ。


 あ、

 彼女の胴体に、

 ぽっかりと、穴が、

 あの子の、前とは違う、見慣れない姿が、


 真っ赤に

 真っ赤に

 真っ赤っ赤赤赤赤赤あかかかkkkkkkkk



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