第6話 集団の習性
人間という生き物は、集団で生活する事で生き残ってきた。
だからかな。人間は集団で何かをすると、心の中でさえも【集団】になる。
……一応言っとくけど、良い悪いの話じゃないからね? そういう習性だって話よ。
んで、犯罪組織カリウドの連中は、犯罪組織らしいことをずっとしてきた。
そしてその中で、より心が【集団】になった者を幹部にしてきた。
ボスが影虎に双子の子守と、片方の殺害を頼んできたのは、秀でた魔法の才を持つ者且つ忠誠心ある者を幹部にする為だった。
双子と共に過ごし三年間は、ボスの試験だったんだ。
影虎は泣いていたよ。
俺が乗っ取った後もだし、仲間と一緒に犯罪してるときもだ。
子供の誘拐はきつかったらしい。子供の首を絞めることも。
潜入任務が終わってからの今も、ずっと泣いている。
そういや俺は、結構な時間影虎と共にいた。
人間味を出す為にちょいちょい手伝ってもらっていた。
双子の子育ても、影虎の経験に助けてもらっていた。
それでまあ、俺はその時こう思った。
影虎に免じて、ボスを捕まえてあげよう、と。
命令外のことだった。
ドッペルゲンガーとしても、組織の一員としても、本当に本当に珍しいことだ。乗っ取った人間の気持ちに寄り添って、目的にないことをするなんて。
やり方? 簡単さ。
ボスは俺の叫び声と爆裂魔法の音を聞くと、ノコノコと部屋に入り込んできたんだ。そんで半身が吹っ飛んだ俺を見ると、驚いた顔をした。どうやら泣き虫ちゃんにやられたのかと勘違いしたようだな。
そこには俺とボス、二人だけしかいない。双子は、片方は死に、片方は消えた。
それなら俺はドッペルゲンガー種特有の魔法、すなわち原初の魔法を思う存分使える。
そういや最初にアンタに言ったよな。
俺達ドッペルゲンガーは、魔術耐性のない者をふるいに掛ける使命を授かった影の天使だと。
だけど俺は組織に首輪を付けられた存在。原初の魔法にも特別なチューニングがされてある。
・周りに自分とターゲット以外、誰も目撃者が居ないとき
・相手が拍子抜けしているとき
この二つの条件が揃うとき、俺の瞳はどれほど強固な魔術耐性であってもすり抜けることができる。
ボスと目を合わせて、パチリとウィンクをすれば。それが最悪と呼ばれた魔法使いであったとしても、眠らせることができる。
普通のドッペルゲンガーならその後ゆっくり体と魂を頂くんだが……。
俺はそいつを縛り上げて自分の本来の巣に持ち帰ったよ。
何故そんなことをしたのだろうか。
今でもたまに、不思議に思う。
だけどさ、さっき言ったろ、人間は集団で何かをすると、心の中でさえも【集団】になる、って。
俺は人間じゃないけど、もしかしたら俺は、影虎を乗っ取ったんじゃなくて……俺は逆に、影虎に乗っ取られたのかもしれない。
俺の心は二つになって、俺達は【集団】になって、だから、こんなことしちゃったのかもしれない。
【どんな気持ち】
……んー、どんなって聞かれてもな。
人間の社会じゃ一応善行らしいが、そのせいで俺は組織からも天からも懲戒処分だぜ? 命令に無いことをしたのと、災いかもしれない存在を逃がしたことで。
だから次に指令がくるまで、ずっとこの海の見える家で静かに暮らしている。悲しいよ。暇で暇で仕方ないし、気になることもちょいあるし。
ボスをある日突然失ったカリウドはどうなったかとか。
あと、片割れを失った彼女とか。
……あーははははっははは。いひひひひ……ごめん、違うんだよ。笑いたくて笑ってるわけじゃあ……。ぎゃははっはははあああははは。
……。
……。
……はあ。
【教えようか】
え?
――そこで、俺はインタビュアーの顔をしっかりと見つめた。
奇妙な夢を見ているようだった。
亡くなった同僚マゾラムドゥの娘。ほぼ他人。知らない顔。知らない声。知らない匂い。
なのに、知っている気がした。
……元気ちゃん?
「正解」
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