第4話 原初の魔法

【ボス】


 カリウドのボスにお初にお目にかかったときは、まさしく魔法使いの格好をしていたなぁ。


 対魔法防御術式が組み込まれた、多分高級品なんだろうテカテカした漆黒のローブ。これが高身長のボスの体をすっぽり覆っててね、多分オーダーメイドだなありゃ。

 これまたお高いんでしょう、かなりの年月を掛けて編みこまれたことを思わせるツルの杖。これもまた他の魔法使いの杖よりも長いんだわ。

 顔は幻覚魔法が掛かっててよく見えなかった……と言いたいところだが俺はドッペルゲンガー、影の天使。よく見通せる目を持っている。

 

 ボスは女だったよ。

 彼女の背丈や肩幅は男のようにデカかったんだが、それはコートの中に体格を誤魔化すことができる物を入れてたからだ。シークレットシューズとか肩パッドとか。


 そういえば、影虎はボスに憧れを抱いていた。なんでもすごい武勇伝をいくつも持っていたとかでね。

 後でウチの組織に確かめてみたら、そんなの大体嘘っぱちなんだってさ。馬鹿を集める為の餌だよ。

 ははは。


 ああそれと、ボスの身体を組織が魔術的解剖をした結果なんだが。

 ボスは禁術に手を出していたらしい。そう、『原初の魔法』に。


【原初の魔法】


 ……え? 聞いたこと無い? お嬢さん、父君から教わってないのかい。え、教わる前に死んだ? ごめんね何か。

 ええと、そう、原初の魔法とは、ありとあらゆる生命に関わる魔法だな。その種族にだけ使える魔法とも言える。


 そうだな、例えば……。

 なぜ産まれたばかりの子鹿がすぐにその四つ足で立つことができるのか? 

 なぜ鮭は遠くの海から故郷の川まで里帰りができるのか?

 そもそも我々生命体は何故自身の遺伝子を受け継いだ持者、子孫を作ることができるのか?


 それらの不思議は全て神が生命に与えたもうた原初の魔法のおかげ、とされている。


 ちなみにドッペルゲンガーの原初の魔法は天から使命を授かっただけあって結構特殊だ。『変身能力』『乗っ取り』『ウィンクで睡眠魔眼発動』とかね。


 んでもって、全ての魔法使いはけしてこれを研究してはいけない、というルールがある。研究=悪魔と契約、だからな。


 稀にいるんだ。死んだ子供を生き返らせろとか、自分の生まれ持った身体や魔力をもっと強くしたいとか願う魔法使いが。

 で、悪魔はそこに付け込んで契約書を差し出すわけだ。


 身の程を知らない人間ほど、ズルをしたがるもんだな。


 【悪魔】


 ん? 悪魔がいるのかって? おいおい、俺がさっきからこう名乗ってるだろ、ドッペルゲンガー、影の天使って。天使もいるなら悪魔もいるよ。天から見放された天使の成れの果てが悪魔なんだからよ。


 悪魔と契約するということはすなわち、元々あった運命を無理矢理変えることであり……運命を変えるとはつまり、神の意に反することであり……大抵神罰が下る。つまり俺の組織だ。天は普通直接は来ないからな。来るとしたらハルマゲドンの時ぐらい。


 けれどボスはそれを無視して悪魔との契約に手を出した、らしい。


【らしい?】


 らしいというのは結局のところ、彼の成果物が発見できていないからだ。

 ボスの身体には確かに禁術に関わった形跡があった。両手の甲に悪魔を呼び出す魔方陣の刻印が彫られてたんだ。

 だがそれで何をしたのか、何がしたかったのか、何もさっぱり掴めていない。


 言っとくけど、体格を誤魔化す為に禁術を使ったわけじゃないぞ。あれは誤魔化し用のアイテム。彼女が寝てる間に触った俺が言うんだから間違い無い。


 話が聞けたら良かったんだけど、調べている最中に死んじゃったからね。ぼおっと燃えちゃったんだ。


 ……ああ、話が聞けたらといえば。

 あの子は今どこにいるのだろうな。

 死んでいないといいな。

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