第3話 俺ならこうする

【子供達との日々】


 楽しかったかって?

 ああ。断言できる。楽しかった。


 影虎には幼い頃、弟と妹がいた。だからかな、子供の世話をしていると暖かな感情が影虎の心を癒やした。


 人を乗っ取るとは、正確には、人の魂を取り込み支配下に置くことだ。


 ペルソナという言葉を知っているかな。

 大雑把に言うと、『人に見せる自分の性格』を指す心理学用語だ。親と先生と友達に見せる顔は、それぞれ別だろ?


 あるいはそう、多重人格。解離性同一症。人格が沢山できてしまう精神の病。頭の中にもう一人の人物が存在していること。それにも似ているかも。


 もしくはイマジナリーフレンド……いやでもフレンドって仲じゃないな俺達。そうだろ? お前俺のこと嫌いだもんな。

 あ、いやこっちの話。


 んで、俺達ドッペルゲンガーの乗っ取りは、ペルソナや人格を増やすことに近い。

 その者の記憶や思考を俺の中に入れて、馴染ませて、俺の過去にする。

 そうすると要所要所でこう囁く声が聞こえてくる。『影虎ならこうする』ってな。


 だから長く仕事をしているドッペルゲンガーはまるで精神の病に掛かったような状態になり、そして大抵その最後は、自我を見失い頭が狂って死んでしまう。いやまあそういう設計なんだけどね。


 幸いなことに俺は組織に所属してたからな。首輪を付けられるってことは、守られる代わりに攻めることも滅多にできない。

 影虎は、俺の初めての獲物だった。


 …。

 ……。

 ………。


 ……元気ちゃんは才能にあふれていた。なにより魔法を使うことが好きだった。

 宙に浮いたり、火を吹いたり。教えたことはすぐ使いこなし、教えていないこともいつのまにかできていた。

 泣き虫ちゃんは泣いてばかり。どんな初歩的な魔法でも怯えたんで、何も習得できなかった。ボスに『この子には魔法の才は無いと思われます』と伝えたんだが、構わないとだけ返された。

 アレにもアレなりの情があったということだろうか? それとも……。


【子供達との日々】


 ああ、そうだったな。その話をしよう。


 影虎は二人を、居なくなった家族の代わりにしていたような節があった。


 一人では広すぎたアパートが、三人だと狭すぎるようになって。

 でも、悪い気分じゃなかった。

 寝る前にはいつも本を読んでやっていたよ。あの子たちのお気に入りは『不思議の国のアリス』。もう寝ようと俺が何度言っても、彼女達は何度も続きを所望した。

 でも、悪い気分じゃなかった。

 ボスから金銭の援助を受けていたから、毎食美味い飯を食えたが……双子は好き嫌いが多かった。俺がいつも食ってたのはあの子達が残したものばっかりだった。

 でも、悪い気分じゃなかった。

 そういえば、生まれて初めて遊園地に行ったな。思い出すなあ、ジェットコースターに乗った後双子が吐いたこと。

 でも、悪い気分じゃなかった。


 ……、……、……。


 だけれども。

 潜入捜査官の俺としては、その子達こそが予言の子だろうという確信があった。いつか出てくるという、面倒くさい存在だろうって。

 俺はその二人の内、どちらがなのか見極めようとしていた。

 だから結構焦ってたよ。内心ね。


 殺害対象を鍛えなくちゃいけない、なんてさ。


【殺害対象】


 ん? そうだよ。殺しちゃうよ。

 だってそうでしょ。面倒な存在って予言されたんだよ。そんでそれが反社にいるんだから、もう、面倒すぎるでしょ。このまま育てば多分立派なヤクザ魔女になるよ。

 でもまあ一応? 俺には良心ってものがありますから? 見極める時間を持ちましたよ? 別にどっちも殺っちゃってもよかったんだけどね。

 俺の中の影虎が嫌だ嫌だと駄々を捏ねるんでね。


 とはいえ、ボスの方もあの子達をそうするつもりだったみたいだけど。

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