第2話 育児ヘルパー


 ある日のことだ。

 ボスからカリウドの組員全員に、魔力検査をするぞという通達が来た。

 魔力検査ってのはその名の通り魔力、そして魔術的才能があるかどうか検査することだ。

 やり方は簡単だよ。魔法使いが魔法の杖でぽんぽんと人の頭を叩けばすぐ分かる。


 その日俺達は横並びにさせられて、ボスに端から端まで一直線にぽんぽんぽんぽん叩かれたんだ。

 多分最初の方のぽんぽんは軽めだったんだと思う。でもボスも一々丁寧に叩いていくのは疲れたんだろうな。最後の方はすごいスピードとすごい強さでボンッ、だよ。あー痛かった。


 で、だ。知っての通り俺はドッペルゲンガー、影の天使。魔力は人間のそれとは比べものにならない。万が一バレたら大変だ。だから魔力をぎゅっと隠した。


【ぎゅっと?】


 いやだからよ、ぎゅっとてのは、ぎゅっとよ。


 おかげでボスに妙だなと思われなかった……はず。


 それから数日後、俺のアパートにガウガの兄貴がやってき……あ? 俺のではないだろだぁ? いやいや俺は影虎で影虎は俺。ってこたぁ影虎のものは俺のものだろ。細かいぞおい!


 ああいや、気にしないでくれ。発作なんだ。


 えーと、そんでなんだっけ。そうそう、ガウガの兄貴が子供を連れてやってきたんだ。


 カリウドのボス、又の名を最悪の魔法使いヘルオムの遺伝子を受け継いだ、可愛い可愛い双子。兄貴が言うには五歳だそうだ。


 俺は魔術的才能と耐性が高いという理由から、彼らの指導教官、家庭教師、お目付役に任命されたんだ。


 何でだ? と最初は思ったさ。だってボスの子供だぜ。人間は普通、自分の子供を大切にするらしいじゃないか。どうしてちゃんとした大人に任せないんだ? ベビーシッターとか、ナニーとか、育児ヘルパーとか、そういう名称の奴があるだろ。そいつらに任せりゃいい。

 俺のその疑問に、ガウガの兄貴はこう答えた。


「ボスからお前に、ガキ共を立派な魔法使いにしろ、との命令だ」


 その言葉とともに俺は魔術に関する学習本がわんさか与えられた。

 要はこれで急いで魔法使い見習いになってくれってことだ。だがまあ俺はドッペルゲンガー、影の天使。その道は並の人間より詳しい。本は枕にした。

 しかし双子の子守りと、魔法の先生。どちらもこなすのは影の天使でも難しかった。


 ああ、そういえば、二人の性格は真反対だったなぁ。

 いつも元気で笑顔な子と、泣き虫で大人しい子。


【名前】


 え、子供の名前はなんだって?


 あれぇ、何だっけなぁ。

 俺ァ昔の事にはてんで興味がないの。潜入捜査ももうとっくに終わったんだからさ。五年前だったっけか?


 じゃあこうしようよ。


 元気な子は元気ちゃん。

 泣き虫は泣き虫ちゃん。


 ずいぶん適当だって?


 しょうがないだろ、だって俺はドッペルゲンガー。人間を乗っ取るのは得意でも、人間の名付けにはてんで興味が無い。

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