第1話 ドッペルゲンガー
よう、どうも。俺に話を聞きたいってのはアンタかい。
茶でも入れようか? え、要らない? あっそう。
で、ええと、お嬢さんは誰の娘だっけか。へぇ、マゾラムドゥ。あいつ子供いたんだ。で、亡くなったお父さんの仕事を聞きたい、と。はいはい。え? ああ俺の仕事の話が聞きたいって? あっそう。いやいいんだけどね、俺あいつと全然仲良くなかったし。
仕事の話っつっても、俺ァ実質一回しか出動してないんだけど。それでもいい? ん、オッケーね。
じゃ、俺がこの海の見える田舎町に閉じ込められた経緯でも話そうかね。いいところなんだけど、暇で暇で仕方ないこの一軒家によ。
あ。そうだ。
まず、アンタにネタバレをしよう。この話のオチは、人間にとってはちょいと胸糞悪い。その上、その胸糞悪いことの当事者であるこの俺は生きている。なんつったかな、ええと、そうそう、悪役ね。俺がこれからする話では、どうやら俺は悪役に属するらしい。取り返しのつかないことを幾度か繰り返したしな。後悔がないってわけじゃないけど、まあ俺は人間じゃないから、良心を痛めることはない。
じゃあまずそうだな。初めに、ドッペルゲンガーとは何か説明しよう。
【ドッペルゲンガーとは】
もし、アンタに身に覚えのないことで知り合いから文句や怒号を聞かされたら。
居るはずのない時間と場所でアンタの目撃証言がポツポツ出てきたら。
アンタとおんなじ顔の奴が目の前に現れたら。
そう、それこそはドッペルゲンガーという怪物の仕業だ。
俺達ドッペルゲンガーは世間一般的には、怪異や超常現象としてみられている。
自分と同じ顔をした奴と出会うと死んじまう、入れ替わっちまうってな。それは間違いじゃない。
実際のところはというと、ドッペルゲンガーとは種族だ。民族だ。一族だ。
世界の至る所に存在し、魔術耐性のない者をふるいに掛ける使命を天から授かった、影の天使。
脆弱な魂を収集し、自身の死と共に天に持って帰ることこそが、ドッペルゲンガーの存在意義。
初めて聞いたって? そらそうだ。俺も初めて人に言った。だから秘密だぜ。
【影虎の目的】
ん? ああ、じゃあなんで俺は潜入捜査官なんてしてたかって?
俺は特別なドッペルゲンガーなんだ。他の同族とは違った使命を与えられていた。
すっごいざっくりいうと、怪物を捕まえて飼い慣らして、社会に役立てようっていう治安組織があるんだわ。で、俺はその組織に所属してた。本当は首輪を掛けられるなんざまっぴらごめんなんだが、天からの指示でね。
それである日、その組織は天から予言を頂いた。
近い将来世界にまあなんとも面倒くさい存在【災いの子】が生まれて、そしてそれの未来がかなりバッドな方向になっちゃうみたい、ってね。なんか曖昧な感じだよね。
そんで組織が科学的にも魔術的にも占術的にも調べたら、犯罪組織カリウドが関わっているらしいことがわかって、だから内部に入ってより詳細な情報を掴みましょうよってことになったんだ。
まさしく、この俺を使ってね。
誰の顔も借りれるし、もし相手を乗っ取ることができればそいつの性格や口座番号すらも分かっちゃう。それがドッペルゲンガーの恐ろしい能力。潜入捜査官にはピッタシだろ?
まず始めに俺は、組織に入ったばかりの若者・……そう、本物の影虎くん。彼の身体と魂を乗っ取って、十年二十年カリウドで愛嬌と忠誠心を振りまいて、立派な構成員になった。
敵対組織への妨害とか、金持ちの子供の誘拐……。本当に色んなことをやらされたなあ。でも俺はドッペルゲンガー、人の心は持っていない。大したことは無かった。
……えーと、何の話だっけ。
ああそうそう、立派な構成員になったって話ね。
そんで俺はようやくとうとう、問題のそれに出会えた。
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