第7話 御伽組コラボ③

 一度真面目な相談に答えた後、阿久良さんはかぐやさんに順番を回し、それからは一つ答える度に次の人に来ていた相談に答えるという形で企画は進行していった。


 各人によって来ていた相談の気色は違っていて、阿久良さんはやっぱり殆どが大喜利、かぐやさんは人付き合いとかの人間関係について、綿摘さんは人生相談、姉羽鶴さんは夕飯の献立が決まらないとか貯金が貯まらないなんかの比較的軽い物が多く来ていた印象だ。最初に意気込んでいた分他三人との差で腑に落ちない表情をしていたのが印象深かった。


 私も呼ばれたからにはと出来る限り真剣に答えるようにしたけど、"私"は転生なんていう摩訶不思議な体験以外彼女達ほど濃い人生を歩んでいないから、ちゃんと普通に答えられたかは不安だ。

 ブラック企業を辞めるか悩んでいるという人には経験者として実体験も交えて体を壊す前には辞めて下さいと諭したけど……その人含めて少しでも誰かの助けになれたのなら、呼んでもらったことにも意義があったと思う。


 さて。大体一時間が経過した辺りでリスナーさんからの相談に答えるのは一区切りつけ、それからは四人それぞれが自分の悩みを相談する時間に。

 そのトップバッターは、これまでの流れ通り阿久良さんとなった。


 彼女が相談した悩みは、『AsterLiveがボケに対してツッコミ役が少なすぎる』というもの。

 どうも本気で悩んでいる訳では無くネタとして言ってみただけのようで、どちらかと言うとボケ側な三人が軽く流して『なぁこのボケ三銃士頼りにならんのやけど』とツッコみコメント欄を賑やかせていた。


 二人目のかぐやさんの悩みは、『進学が近づいてきている妹の学費の為に母親が働き始めようとしていて、自分が払うと言っているのに、母親のVTuberへの理解が浅くて金銭面を心配されて受け入れてもらえない』というもの。

 他人事とは思えないその話には少し驚いたけど、依頼も貰っていたとは言え稼いでいたとはお世辞でも言えず結局就職を選んだ俺と、ライバーとして活躍して妹の学費を負担できるほど稼いでいる彼女とじゃ、まさに雲泥の差。

 そんな私じゃ良いアドバイスは出来そうに無いと思ったけど、かぐやさん以外の三人は全員一人っ子か末っ子かつ両親共配信活動に理解があるとかで、あまり良いアドバイスが浮かばず。


 最後にアドバイスを求められた私は、悩んだ果てに自分にも妹が居ること、同じように学費を捻出するために母親が働こうとしていたから自分が就職してその費用を出したこと、その結論に至るまでにはやっぱり揉めたけど、結局は地道に説得するしか無かった、と伝えた。……視聴者の人達に隙自語ウザいとか思われてないかな。

 ……それと、母さんも。俺が死んだのが自分のせいだ、と思い込んでいないと良いけど。


 俺のアドバイス……というか身の上話? を聞いたかぐやさんは、始めは自分と境遇が似ていたことに驚き、最後は『やっぱり、地道に説明と説得を続けようと思います』と言ってくれた。私の話が何か助けになれたのなら嬉しい。



 そしてその後。綿摘さんの『甘えられてばかりなので〜、たまには誰かに甘えてみたいですね〜』という悩みに『さっきお姉さん担当言うとったやろ』『言うほど甘えられてるか……?』と二人がツッコみ、『葡萄ママなら甘えさせてくれると思います』と無茶振りしてきたかぐやさんに少し狼狽えて「マ、ママですよ〜……?」と口走ってしまい、直後羞恥心に襲われて数十秒間顔を覆って。


 『怖がられないのは良いンだが、事務所行く度にスタッフと同僚達からお菓子とか渡されまくるのが複雑』と話す姉羽鶴さんには、『小動物みたいに思われてんのやろ』『餌付けですかね』『今度の差し入れは何が良いですか〜?』と自由に返答する三人。

 最早アドバイスでも何でも無いけど、阿久良さんと同様アドバイスを求めて相談したという訳でも無いようで、綿摘さんに『事務所前に新しく出来たケーキ屋のショートケーキが食いたい』と答えていた。




 ▽



『さて、夕莉の番も終わったことやし……最後に、葡萄乃樹さん。今回相談役として呼ばせていただきましたけども、何か相談事とかあったりします?』


「俺、ですか……」


 四人全員が悩みを話し終えて。話す悩みが無い、若しくは言いたくなければそのまま流して締めに入れる、絶妙な塩梅のタイミング。阿久良さんが訊いてきたのはそんな時だった。


 さっきかぐやさんの悩みに答えていた時、私も咲希のことを……そして、現在の咲希との関係を思い返した。相談役として呼ばれたのだし、この配信中は考えないようにしようと思っては居たんだけど。

 そのせいか、阿久良さんは私が何かに悩んでいることを感じ取ったのかもしれない。


 勿論、配信者として撮れ高を求めているというのも有るだろう。けれど、その声色には多少以上に私への気遣いが含まれているのは勘違いではないと思う。


 それに、この配信中リスナーの人達から来ていた悩みに真摯に答えていた彼女達なら、もしかしたら私の今の悩みにも良い方法を考えてくれるかもしれない。


 

 ……でも、それは無理だ。


「……お気遣い頂きありがとうございます。でも、すみません。特に思いつかないです」

『……いや、全然気にせんでええですよ! 無いなら良かったです。いやぁ、相談乗ってもらってばかりで悪いかなと思ったんですが、突然無茶振りしてすんません』


 明らかに無い訳が無いのに、気を遣って何事もなかったかのようにすぐ引いてくれた阿久良さんには、感謝を抱くと同時に罪悪感を覚える。


 別に、この悩みは私個人の問題だから誰にも相談せず自分だけで解決したい、とか馬鹿なこと抜かしている訳ではなくて。

 ただ単純に、転生関係の話を介さずに私の現状を上手く誤魔化して伝えられるほど私の語力は高くないというだけの話。

 当然、転生関係も含めて話すなんてこと殆どの人に対しては出来る筈が無いので前提からも消している。

 ……そう言えば、若干一名、ネッ友の中にそう言うお話転生モノに詳しい人が居たのを思い出したけど……今は忘れておくとして。


『んじゃ、今回の御伽組定期コラボ、『御伽組お悩み相談会』はこの辺りで締めさせてもらうで!』

『また来月のコラボをお楽しみに!』


▶[楽しかった〜]

 [乙]

 [葡萄ママのママみが強かった……]

 [またどっかで出てくれないかな]


 そうこう考えている内に司会の二人が企画を締め、以前見たかぐやさんの配信での物とはまた違うエンディングを流してから配信を切り終えた後、通話を抜ける前に少し雑談をすることに。

 

『……ふぅー。葡萄ママ、今日はありがとうございました! 楽しかったです』

「俺も楽しかったです。呼んでくださってありがとうございます」


『ホンマ今日はありがとうございます……かぐやからこの企画提案された時は正直どうなることか思いましたけど、お陰で無事終われました』

『どういう意味ですか?』

「あ、あはは……」


『私も楽しかったです〜、悩みにも答えてくださりありがとうございました〜……もしまた会ったら、甘えさせてくれますか〜?』

「あ、甘え……俺でよければ……?」

『姉担当じゃ無かったンかよ?』

『姉もママには甘えるものですよ〜?』


 わちゃわちゃと配信外でも楽しそうに話す四人。それぞれ性格も全然違うけど、素で仲が良いみたいで安心した。……何だか保護者目線になってる気が。楽しかったけど、やっぱり疲れてるのかな。


 気付けばそろそろお昼も近いし、そろそろ通話から抜けると伝え、最後にそれぞれにお疲れ様ですと挨拶して貰った後、Thiscordの通話終了ボタンをクリックした。



「……ふぅー……少しは慣れてきたかな、配信にも」


 無いとは思うけど、かぐやさん含めて四人のうち誰かからまたコラボのお誘いがあるかもしれないし、慣れるに越したことはないだろう。

 少なくとも、かぐやさんにはまたどこかの機会で呼ばれそうな気はする。



 ……さて、と。

 元はと言えば、私が今回のコラボに参加させてもらったのは、私を親……というより兄の仇のように思っている咲希との仲を改善する方法が思い浮かぶかと思ったからだ。

 そして、今回お悩み相談会に参加して……それにも一応、目処は立った。


 私はハンサムじゃないから突如として良いアイデアが浮かぶなんてことは無かったけれど。かぐやさんの悩みに対して私が話した経験談……ただ只管に説明と説得を続ける、というもの。

 母さんにもそうして納得してもらったように、今回もそうするしか無いんだと思う。少なくとも私じゃそれ以上の方法は思い浮かばない。

 今回のケースだとその手法は悪手だったとしても、兎に角、悩んでばかりじゃ先に進まないのは確かだ。


「……よし」


 覚悟を決めて、パソコンのディスプレイに開いた『紫宮咲希』のDMに、手短に纏めた文を送信する。

 内容は、『来週の日曜日、あの喫茶店で待ってる』。

 

 『あの喫茶店』というのは、実家から少し離れた場所にある、俺の同級生の父親が店主をしている喫茶店だ。幼い頃は咲希が落ち込んでいる時とかに良く連れて行ったし、成人して地元から離れた後も、帰省する度にそこで一緒にオムライスを食べるのが習慣だった。

 ……帰省、と言っても電車で数時間程度の距離なんだけど。それでも帰省する頻度が低い理由は、まぁお察しというか。

 今私が住んでいる所も前世の住所と同県内でそう変わらないから、問題なく行けるだろう。



 ……ただ。只管に説明するだけとか言っておいて匂わせるようなことまで書いてるくせに、全然忘れられてたり、結局来てくれもしなかったらどうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る