新入部員
昨日の事件?があった後俺は一日中憂鬱としながら学校を過ごす。
「はぁぁ……俺の居城が……」
ため息をつき机にうつ伏せしていると、俺の頭の上に何やら紙が置かれる。
少しムッとしつつ紙を取り起きて見ると、クラスメイトの星野由奈が短いスカートを揺らして、俺を見向きすることもなく、いつもの陽キャグループに戻っていっているのが目に入る。
おそらくクラスの役割でプリントを俺に置いたらしい。
「……おっかねぇ」
俺は片目でクラスの陽キャグループを見る、俺が一番理解できず苦手な人種だ、オシャレはいいとしても、わざわざマウントを取ったり、クラスを仕切ったりしようとするのは謎だ。まぁ、このクラスだけだと信じたい……俺は陽キャは陰キャにも優しいって信じてるんだっ!
それはいいとして、輪の中に星野由奈が戻ると、人が変わったように笑い、そして、グループを盛り上げる。
「ま、目をつけられないようにっと……」
俺は目線を戻し、頭に置かれた紙を見る。どうやら入部届らしく、名前は冬月恋雪と書かれていた、どうやら昨日の奴らしい。
まさか本当になるとはな……あとで顧問のおじいちゃんに持ってくか。
俺はそう思いつつ、再びうつ伏せになり寝たふりをする。
◇
放課後、俺は職員室に向かい、おじいちゃんこと数学の森和明先生に入部届を渡す。
「お疲れ〜おぉ、新しい部員が増えるんだねぇ……」
先生は嬉しそうにシワのある顔を綻ばせる。
「はい、なんか昨日急に来て入るって言ってたんですよねー」
「ははは、面白い子だね……でも、君のいい話し相手になりそうでよかったよ」
「それは先生もでしょう??」
俺がそう言うと和明先生と目を合わせて笑う。
この和明先生は再雇用の数学の先生で、文化研究部の顧問という接点で、数学が苦手な俺に放課後教えてくれたり、色々お世話になっている。
「それもそうだねぇ……じゃ、早速新入部員歓迎会でもしようか!」
「っ!そ、そうっすねー」
そうして俺と和明先生はゆっくりと文化研究部の部室に向かう。
正直歓迎会って言ってもあいつは部活動しないとか言ってたし……ま、まぁ、俺もしてないから言えないけど!
そして、部室に着くとすでに冬月は居て、椅子に座り静かに本を読んでいた。
彼女は俺たち……いや、和明先生に気づくと如何にも人懐っこい表情を作り微笑むと、ぺこりと一礼する。
「初めまして、冬月恋雪です。よろしくお願いします」
「おおー、君が恋雪さんだね?はは、よろしくねぇ……わははは、な、龍一、良い子が入ったねぇ」
和明先生はそう言うと俺の背中を優しく叩く、や、やめいっ!それ老人のやつだって!
「はははっ、そ、そうですねー」
「ふふっ、よかったですね、葛木くん?」
冬月はそう言うと全く目が笑っていない微笑みを見せながら俺にそう言う。
「……はは、じゃあ、龍一も恋雪さんもほら、ゆっくり歓迎会でもしようか」
「ふふ、ありがとうございます、先生♪」
冬月はそう言うとキビキビと部室を動き何故か俺と先生しか知らないはずの給湯ポットの場所や茶飲みを取り出して3人分準備する。
は!?こいつやばっ、なんで熟知してる――っ!?てことは、まさか俺のあの隠し本をみたってことかっ!?
思わず俺は頭を抱える。
「……はい先生♪」
冬月は和明先生に優しく微笑み、お茶の入った湯呑みを渡すと、俺を冷たい目でジロッと見てくる。そして、背後に回ると耳元で「……ほら、……へんたいさん…………」と囁き、テーブルに強めに湯呑みを置く。ひ、ひぃぃいい……背筋が凍るぅ……
「はは、恋雪さんは気が効くねぇ……龍一はもっと頑張らないと」
「……は、はぃ」
先生は不思議な顔をしながら微笑んで肩を叩く、本当、面目ないです……先生…………泣。
◇
そして、そのあとは新入部員歓迎会(茶会)を行う、冬月は和明先生と主に話していて……いや、なんとなくわざと俺を輪に入れないようにしてる気が……そして、仲和明先生を懐柔しようと仲良さそうに話をしている。結局俺は三人しか居ないのに大人しく一人せんべいを齧る。
いや、先生……俺にも話題振って……泣
「はは、そう言えば小説が好きなんだよね?じゃあ龍一くんとも……」
「……ふふ、と言っても一人でゆっくり読むのが好きなんですよ〜♪ ねえ、先生はどんなのをお読みに……?」
和明先生も俺に話を振ろうとするが、そのたびに冬月が俺から話題を逸らし、結局俺はまともに輪に入ることはできなかった。
しばらくすると。
「おっと、もうこんな時間なんだね……ふふ、孫を迎えに行かないといけないね……恋雪さん、これからよろしく頼むよ。」
「はい、ありがとうございました……ええ、お孫さんお迎え頑張ってくださいね♪」
冬月はそう言うと微笑み、立ち上がると部室のドアを開け、先生に向かって可愛らしく微笑む。
その表情は不覚にも胸がときめくほど……って、いかんいかん、こいつまさか自分の可愛さを……許せんな!
「おっ、ありがとね〜じゃあ二人とも帰りは気をつけるんだよ?」
和明先生はそう言ってゆっくりと廊下を歩いてゆく、うーん、どうしよ……これじゃ、こいつ……いや、冬月と二人っきりじゃねぇか!!
俺はチラリと冬月を見ると、さっきまでの表情から一変して、腕を組み冷たい目で俺を見ていた。
「……なんだよ、部屋の温度が下がるぞ……」
軽く冗談を飛ばしてみたつもりだが、返事がないどころか彼女の目が一瞬だけ鋭く光った……うん、穴があったら入りたい。
俺が内心悶えてると、冬月は無言で後片付けを始める、ここは一応俺も黙って手伝いをする。
「は、はは、和明先生いい人だったろ?」
「……そうね」
雰囲気を変えるためにそう言うものの無事撃沈、そして片付けが全て終わると、優等生の皮を脱ぎ捨てたのか、制服を着崩す。
スタイルの良い彼女が着崩すとどことなく大人の色気があって思わず顔を逸らす。
そして、冬月は我が物顔でソファーに座りそのまま横になると、持ってきた本を読む。
え、ええ、なにこの裏表っ!?……俺いるけど?って、これ絶対俺モブ認識されてるよね!?
「……なによ、そんなジロジロみて……へんたいさん?」
恋雪は細く微笑み、冷めた声で話しかけてくる。
「は、はぁ? 変態なんかじゃ――っ!?」
俺が言い返そうとすると、おもむろにソファの下に手をやる。まさかっ、やっぱり……俺のバニーちゃんの薄い本が……ぅ!今一瞬、心臓止まったって……!
「ふーん、ツンデレ逆バニーねぇ……なんか現実にはありえない要素しかないわ……ふふ」
恋雪はペラペラ薄い本をめくりながらくだらないものを見たと言わんばかりに冷笑する。
「げ、現実にないわけないだろ!世の中には40億人ぐらいの女性がいるんだッ!」
あ、やべ、早口なっちまった……
「……きも」
恋雪は俺を蔑んだ目で見るとそのまま俺に背を向けて自分の本を読む。
う、ううっ、あんまりだぁ……そうして俺はツンデレ逆バニーで全てを失った……
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