学校でも指折りの美少女優等生が俺だけに辛辣な件〜まじでなんで?

酸素缶

プロローグ



 十月、日ごとに秋めく季節の中、俺、葛木龍一は文化研究部の部室で一冊のSF小説をを読み終えた。


「……ふーーっ、やっと読み終わったー」


 物語を一つを読み終えると心にポッカリと穴が空いた気がするのは何故だろうか。

 そんなことを考えつつ、ふと部室に目をやる、秋の夕暮れに埃が煌めいていて綺麗だと思ったが、普通に埃っぽいからドアを開けて換気する。

 ここしばらくは俺以外の出入りがないこの部室、高三の先輩が夏後に引退してから俺が文化研究部唯一の部員となった。

初めは少し寂しさもあったがいまや、この静けさは俺の心のオアシスだ。

何故なら、俺にとって、この部室は何のルールもない、俺だけの居城なのだから――。


「……って、もう高一も終わりか」


 窓の外、夕日が街を橙色に染めている景色が少し切なく感じる。

 十月の夕暮れの風は冷たくなってきて、秋の気配がますます濃くなっている。

 それがなんだか心地よくて眠たくなる。俺は古びた3人がけのソファーに横になる。


「……寝るか」


 ソファに体を埋めて、ぼんやりとさっき読み終えた作品の回想をする、すると次第に高校に進学してからの記憶が思い浮かぶ。

 正直何もない高校生活だ、高一ももう終わるが、結局単調な日々。

 心の中でため息をつくと、心地よい秋風に頬を撫でられて重くなる瞼をそっと閉じる……

 

――――――


――――


――


 ……なんだか、甘い匂いがする……なんかこう……香水とかじゃない……抱きしめたくなるような。


「……いてっ!?」


 俺は寝ぼけて目を閉じたまま腕を伸ばすと、何か手に触れた感覚を感じるが、その瞬間手の甲を叩かれる。思わず目を開けると、ソファーで横になる俺を冷めた目つきで見ている綺麗な女がいた。


「……っ! え、だ、だれ!?なんだよ」


 俺は見知らぬ顔……それも、見たことのないような美しい……顔の……。彼女は俺の目を覗き込んだまま表情を変えない、思わずその茶色の瞳に引き込まれそうになる。

 け、けど、こんな奴が文化研究部の部室になんの用なんだよ。


「……なんだよ、ですか? ふふ、学校で無防備に寝るマヌケさんがいたので気になったのよ。」

「は、はぁ?」


 そいつは馬鹿にしたようにそう言うと、端正に整った顔で微笑む。

 俺は思わず顔を逸らしてドアを見ると部室のドアは開けられていて吹奏楽部の練習している音が聞こえてくる。

 しまった、換気でドア閉め忘れて……


「まだびっくりしてるんだ……見る感じ随分とここに入り浸ってるのね、部活動をすることもなく。」

 

 彼女は冷たくそう言うと微笑むが目は笑っていなかった。その顔に思わず俺は冷や汗をかく。彼女はそんな俺を見下すように見る。


「……別にしてないことない……だろ、そもそもなんだよあんたこそ……人の寝顔を覗き込んでなんの用なんだ?」


 俺は皮肉を込めてぎこちなく笑い返すと、彼女は表情を変えずに浮世離れした美しい顔を近づけてきた。

 思わずプルっとした妖艶な唇に目が入ってしまう。


「……あなた面白いわね……名前は?」

「か、葛木 龍一っす…………」


 無理無理無理無理、圧やばすぎだろ、やっぱ女子って怖い……

 俺は彼女の視線に耐えられず顔を背ける。


「ふーん、そ、じゃ、葛木くん……」

「はぃ」

「……人を覗き魔呼ばわりしていいのかしら?口は慎んだ方がいいわよ。……それに、脚チラ見しすぎだよ?」


 彼女が耳元で低く囁くと、思わず背筋が震える。

 彼女は不意に俺から離れると、挑発するようにスカートを悩ましく揺らし、目を細めて俺を見ると窓に手を置き外を見る。


「っ……な、なんなんだよ」


 俺はそう呟き立ち上がると、儚げに外を見つめる彼女から離れて帰る準備をする。

 チラリと彼女に目をやると、しっかりと校則通りに着こなした制服姿だがそれが逆に彼女のすらっとした長身とモデルのようなスタイル、そして、浮世離れした美しい顔を引き立てていた。

 くっ、何考えてるんだ俺は!確かに絵になるが、あんなことされた後じゃ心臓がもたない……こんな奴と一緒にいれるか!撤退だ撤退!!


「ねえ、葛木くん……?」


 俺がリュックをガサゴソしていると彼女は声をかけてくる。


「っす……」


「……この場所、私も使うわ。明日から、よろしくね」


 ………ん??


「はぁ、つまり部に入るって事……?」

「ええ、でも、あなたと同様部活活動はしないわよ」


 彼女は俺を見透かすように見ながらそう言うと、窓から少し体を乗り出して外を見る。

 いや待て待て、唐突すぎるだろ!?俺は思わず天井を仰ぐ。

 ふと、彼女に目をやると、ゆらゆらと外を眺めていた、どこか危なげで俺は思わず足が浮くような感覚になる。「ちょ……危ないって」思わず俺はそう口に出す。


「……怖がりなのね」


 彼女は馬鹿にするようにそう言うとさらに身を乗り出して外を見る。

 俺はその姿に思わず目を奪われる。なんとなく彼女がそのまま風に運ばれていくような感じがして。

 すると、少し強い風が吹く、彼女は片手でで目を擦るとふらっと体勢を崩してしまう。


「――っ!」


 気がつくと体が動き、俺は彼女を後ろから抱きしめていた、遅れて、ドサっと背後からリュックが落ちる音がしてくる。

 彼女の体は柔らかく、そして、しなやかで、さっきの良い匂いがした。


「……その……離してくれるかしら」

「……あ、はい」

 

 俺は素直に彼女の身体を離す、まだ手に彼女の感覚が残り心臓が高鳴っているのが分かる。

 彼女は俺を振り向き、少しムスッとした顔をすると、さらりと俺から距離を置く。


「……あなたって、大胆なのね……見かけによらず」

「……別に、気がついたら、わるい」

「………ほんと、変態ね。」


 彼女はそう言うとそのまま鞄を取って長い綺麗な黒髪を靡かせて部室から出ていった。

 俺は一人部室に残こされる。なんだかまだ彼女の匂いが鼻腔でくすぐり続けている。

 

「……え、えぇ……俺嫌われてる?」

 

 呆然と立ち尽くしていると、風で揺れるカーテンに顔を覆われた。

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