第8話

それは一体、と私は彼女に問いかけた。

「全部、全部全部。あの男が悪いのよ」

「あの男?」

「私たちはみんな指示を聞いて動いてた。

ただの遊びだと思ってた」

彼女は感情を放棄するように声を荒げた。

ただの遊びとは一体どんな遊びだ。

なんて私は考えてしまった。

「みんな簡単、最初は簡単だって」

何の話をしているのか私にはわからなかった。

簡単とは。

「私も夫も、そんなことに

手を貸すつもりはなかったの」

「誰の指示で」と私は隙を見て問いかけた。

それは、と彼女は口を開こうとしない。

「とにかく私たちはゲームをしていたの」

また振り出しに戻ったと私は肩を落とす。

「仕返しのつもりで、爆弾なんて

聞いてもいなかった。

実験場所がアパートだったの」

「どうして、私には何も」

と声にならない声をだした。

「あなたが占い師だったからよ」

はて、と私は再び頭を悩ませた。

「あなたは事件が起きたあと、あなたはきっと

必ず事件を追うことになる。そうあの人は」

「だからあの人って」

彼女を遮るように私は言う。少し考えた後に、

「岩本さんよ」と彼女は言った。

私は少しばかり黙っていた。

何が目的で、どうではなく、

何故、教員である

彼がそうなってしまったのかと。

どんなことが彼を変えてしまったのか。

「ではどうして、大学で」

私は考えた上で発言した。

「そう、それが本番なの」

何か大学に対して恨みでも

あるのかと私は思う。

実験としてこのアパートで行われたゲーム。

その本番が大学で?

ますます謎が深まっていった。

「安村くんは執拗にいじめを受けていた」

いじめ?安村くんとは18歳の彼のことだろう。

「方言で、彼はゼミの

グループ内で虐められていた」

「方言で?」

「東京人ばかりだったからすごく

目立ってたんだろうね。ゼミの先生が岩本さんだったそう。彼らはとても話が合ったようで」

そんな背景があったとは思わなかった。

そう言った事例は数多く存在するのは知っていた。しかし、こんなにも身近で起きるとは。

そうだ、と彼女は思い出すかのように言う。

「あの警察官2人、タクシーに乗ったわよね」

ああと私は答える。

「どうしてあんな場所にタクシーがとか、

不自然に思わなかったかね。かなり怪しいと思うけど」

ん?と私はまだ見当がつかない。しかし、現場からほんの少し離れた場所でハザードランプを焚いていた。

確かによくよく考えてみると怪しい。

怪しいタクシーであった。

「あのタクシーの運転手は私の夫で、

あのタクシーには爆弾が積んである」

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