第6話

調査?と私は眉を顰める。

第一、彼が通う理系の大学では

心理学のような学科はなく、不自然だ。

彼は大学で何を学んでいたのか。

私は外に耳を向けた。

大勢の人がこのアパートに集まる。

私は玄関の外を見に稲田を

少し外へと押しやる。

大学生の彼の部屋に

大勢の警察が捜索に入り込む。

外の人々といったら物凄く

あっけらかんとした表情の人々が

こちらを見ている。幾人かはスマートフォンをこちらに向けている。

「捜索が入り始めたな」

彼は部屋の方角を見て言った。

パイプ爆弾、人狼ゲーム。

今発覚しているその事実は

全く持って共通点がない。

私は再び自分の脳の中で確かめる。

何回か彼とすれ違ったことがある。

話したことこそないが、

二度ほどすれ違ったことがある。

どちらかというと無愛想で、

服装も伸び切ったTシャツを着ていたような。

犯人と決めつけられてもおかしくないほど、

怪しいと言えば怪しい。

「何か浮かんだ?」

と稲田は玄関のドアを押さえていてくれた。

ごめんごめんと私は部屋に戻ろうとする。

あ、と私は声を漏らした。

「トラブル、あった」

ほうほうと彼は言う。

「それはどういった?」

「いや、確かな証拠なんてないけどね、二階に住むカップルと彼が揉めていたのを見た」

彼は驚きもせず、「繋がったな」と言った。

彼の顔を見ると、

「彼本人も言っていた。

自転車置き場の使い方で少し揉めたらしい」

それはどんな、と彼に聞いた。

私は自転車を所持していない。

「自転車の向きだったかな、普通こう、

置き場があるとするだろ」と彼は不器用に手を動かした。

「普通ならハンドルを押して止めるだろ?

それが彼逆だったみたいなんだ。それでトラブルになったらしい」

「それは何故?」

「たまたまカップルの男の方が

隣に自転車を停めていて出る時に

自転車を倒してしまったらしい」

「それが原因で?」

「その件ではすぐに収まったらしいけれど、

男の方の言い方が気に食わなかったらしい」

私はほうほうと彼の話を聞いている。

「その、彼らは今どこに」

私はカップルの行方が気になった。

「それがまだ見つからない」

「はあ」

他の住人だ。そうだ。それと30代の女性、

40代の男性がどうかだ。

しばらく私たちは何も言わずに一点だけを見つめていた。私は群衆を見ていた。

私たちの前を通った捜査員が

稲田にこう伝えた。

「やはり見つかりましたよ。爆弾が何個か」

私はそれを聞いてしまった以上、この場所に住むリスクを全身に染み渡らせ考えた。

爆発物処理班を呼んでと声が聞こえた。

群がる人々は悲鳴のような声を上げる。

どこかから稲田さん、と呼ぶ声がする。

国平だ。彼は慌てた様子で

こちらへ向かってくる。

彼は稲田の耳元でこそこそとある事を伝えた。

私もうっすらと聞こえてしまった。

それは30代の女性"三浦"が警察署に自首をしたということ。


「どうして」と彼は国平に問う。

「18歳の彼じゃないと言い張るんです」

私と稲田は彼の部屋の方を見る。

「爆弾、見つかってるよ」

稲田は少し慌てた様子で身振り手振りをする。

「それがですよ、上層部の皆さんの考えではこのメゾン ド アベニューの住人全員がグループの犯行だと」

彼は私に聞こえるか聞こえないかほどの声で。

「お前犯人?」と稲田は口をぱくぱくしながら私を指さした。

私も自分自身を指さした。

また稲田の元に着信が来た。

彼は鳴る携帯を確認し、電話に出た。

私と国平は自然に目が合った。

よほど話すことがなかったのか彼は言った。

「絶対犯人じゃないと信じてますからね」

私は返答に困ってええ、と答えた。

稲田は電話の途中で国平にこう伝えた。

「東京実践科学大学にて同じ事例を発見」

国平は稲田に聞いた。

「そ、それって今ですか?」

「今だ。立てこもり事件発生。

犯人はこのアパートに住む岩本佑。

この大学の教員だ。講義室に生徒8人を集め、

人狼ゲームを行っている模様」

そう彼だ。強面の40代の男性。

繋がった。

理系だ。

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