《未来》好感度メーター上昇中Ⅱ
土曜日の昼。駅から少し離れたところにあるイタリアンに私は来ていた。
私の正面にはスーツを着た黒髪の女性が座っていた。
彼女の名前は御神静香。
私の一歳上で、私が一年生の時の生徒会長。高校時代から付き合いのある数少ない友人だ。
「忙しいところすみません。今日も仕事だったんですよね」
「いえいえ。お昼までに終わりましたから。可愛い後輩の相談ですもの」
そう言って彼女は優しい笑みを浮かべた。
気品あふれる佇まい。元々大人びていて奇麗な女性だったけど、ここ数年で更に奇麗になった気がする。大人の色気と言うものだろうか。
容姿端麗で頭脳明晰。なのに性格は謙虚で、どんな人にも優しい。
高校時代から、私の憧れの人だ。
「それで相談って、お父さんの会社のことよね……。でも、私で力になれるかどうか……」
「あ、えっと、そちらは解決しました」
「あら、そうなの?」
静香先輩は驚いた顔を浮かべた。
「リングレアードっていう会社が出資してくれたんです。そのおかげでなんとか踏みとどまったって感じで……」
「そう。よかったわね」
「はい。それで、私、その会社の社長と結婚することになったんですけど」
「え……」
静香先輩の表情が固まった。
「そ、それって政略結婚ってことよね!?」
「はい。まぁ、そうなりますね」
「っ……………………」
静香先輩は下唇を噛み締めると、やるせない表情で私の手を握ってきた。
「ごめんなさい。部外者の私が言っていい事かわからないけど、会社の為に貴方が犠牲になる必要はないのよ」
彼女は私の目を見ながら、真剣な声で言う。
「貴方の人生は父親のものじゃない。貴方の人生は貴方のものよ。それだけは忘れないで」
あれ。もしかして、私が嫌々政略結婚することになったと勘違いしている?
「その、別に嫌と言うわけではないんです。一緒に暮らし始めてもうすぐ半月になるけど……その、意外と悪くないというか……」
「え、そ、そうなの?」
静香先輩は勘違いしたのが恥ずかしかったのか、かぁと頬を赤らめた。
「政略結婚ってその、私、あまり良いイメージが無かったから」
「はい。私もそうでした。自分でもびっくりしているんです」
「結婚相手ってどんな人なの?」
「えっと、優しい人です。初めてあった日も真剣に私の事を心配してくれたし」
「優しい感じのおじさんなのかしら?」
静香先輩は首を少し傾けながら、考えるような表情をした。
「あ、いえ、歳は私と同い年です」
「え。そうなの? 社長って言うから、年上だと……」
「なんでも父親が早くに亡くなって、その会社を継いだそうで」
「へぇ……。なら、すごく良かったんじゃない? 歳も近くて、性格も良い。収入もばっちり。すごく好条件じゃないかしら」
「は、はい」
正修さんのことを静香先輩に褒められ、少し嬉しくなった。
「苗字は変わったの?」
「はい。今は鈴原由姫です」
「鈴原由姫……。うん。良い響きね」
静香先輩は小さく頷いた。
「結婚式はするつもり?」
「あ、いえ、結婚式はしないつもりです。父との仲は悪いままですし」
「そう。じゃあ、代わりに今度、旦那さんに挨拶させてね。可愛い後輩を頼みますって、お願いしたいから」
「はい。ぜひ」
「それで、相談って何なのかしら? いまのところ順調そうに聞こえるんだけど」
「あ、えっと、それは……」
私は指をもじもじさせながら、か細い声で言った。
「同棲を始めたんですけど、その……日常生活で恥ずかしいと感じる事が多くて……つい正修さ……夫の事を避けてしまう事があるんですけど……どうしたらいいですかね……?」
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