第39話 折れた彼女にかける言葉Ⅰ
由姫の部屋は階段を上がってすぐ右だったか。
階段を上った俺は、部屋のドアをコンコンとノックした。
しばらく待ったが返事が無い。
もしかして、寝ているのだろうか。もう一度ノックをして、返事が無かったらメールを残して帰ることにしよう。
急ぎであるのは間違いないが、彼女の体調が回復しないことにはどうしようもない。
と、その時、ガチャリとドアが開き、パジャマ姿の由姫が出てきた。
「兄さん、なに? 食欲無いから、晩御飯はいらな……」
熱で寝苦しかったせいだろうか。パジャマのボタンが胸元まで空いており、下着を付けていないせいで、白く滑らかな胸元とほのかに膨らんだ胸が見えていた。
「え」
彼女は俺の顔を見た途端、固まった。俺も同じく固まり、お互いの目を至近処理で見合う形になった。
三秒、いや、五秒くらいだろうか。
「っーーーーーー!」
状況を理解したのか、熱のせいで赤くなった彼女の頬が更に赤く染まる。彼女は慌てて胸元を隠すと、もう片方の手で勢いよくドアを閉めようとする。
ガッ。
「いっ…………!」
どうやら、足の小指をはさんでしまったらしい。由姫はバランスを崩し、そのまま床に背中から倒れた。
「だ、大丈夫か」
「っーーーーーーー!」
あれは痛そうだ。由姫は苦悶の表情を浮かべつつも、俺にパジャマ姿をこれ以上見られたくなかったのか、ベッドまで這って移動する。そして、布団に包まると、ごろごろと転がって悶絶し始めた。
とりあえず、彼女の痛みが治まるまで待とう。
彼女の部屋は、思ったより女子っぽい部屋だった。
薄い桃色のカーテン。フローリングの床にはクッションが三つほど散乱しており、座布団代わりにしているのが分かった。
勉強机には参考書の山と、ルームフレグランスが置かれており、ラベンダーの仄かな香りが部屋を埋め尽くしていた。
「……………………それで、なんでいるの?」
痛みがようやく治まったのか、くるまった布団の中から彼女のくぐもった声が聞こえてきた。
「いや、お見舞いに来たんだけど……」
「ここまで来たってことは、兄さんの仕業ね……。相変わらず人の嫌がることを……」
布団の中から、ブツブツと彼女の声が聞こえてきた。姿は見えないが、彼女が頬を膨らませている姿は想像できた。
「体調はどう?」
「もう熱は下がったわ。明日には治ってると思う」
「そうか。良かった」
軽い風邪で良かったと俺は胸をなでおろした。
「あのな。若葉祭のことだけど、良い案が浮かんだんだ」
「……………………」
「絶対に上手くいくという確証は無いけど、試す価値はあると思う。ただ、これは俺だけじゃ駄目だ。俺と有栖川、二人の力を合わせないと駄目なんだ」
「……………………」
「有栖川?」
返事がない。どうしたのだろうか?
「ねぇ、もう諦めてもいいかな……」
「………………え?」
彼女の声は弱弱しく、今までの彼女とは大きく異なるものだった。
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