第31話 生徒会長との食事
どうしてこうなった……。
昼休み。俺は学食の一番奥のテーブルに座っていた。このテーブルは学食の中で最も目立つ場所にあり、あまり使いたがる生徒はいない。
じろじろと周りの生徒からの視線が向けられているのが分かった。
それは、この目立つテーブルに座っているせいだけではない。
「それで、お話ってなにかしら?」
俺の向かい側には生徒会長、御神静香が座っていた。
癖毛一つない長い黒髪が静かに揺れる。
和服の似合いそうなおしとやかな胸には二年首席を表す金の七芒章。
彼女の前にはピザトーストとサラダとコンソメスープ。
俺の前にはカツカレーが置かれていた。
「少し話がしたいと言っただけなのに、何故昼食を一緒に食べることになってるんですか」
「あら、ごめんなさい。今日はお弁当だった?」
「いえ、そういうわけじゃないですけど。話なら、生徒会室で出来たじゃないですか。何故、わざわざ学食でなんか……」
「貴方とは、こうして一対一で、ゆっくりお話をしたかったの。前から気になっていたから」
会長はまっすぐな瞳で俺の顔を見ながら、にこりと笑った。
彼女と一対一で話すのは、未来でも無かったことだ。
理由は由姫が嫉妬するからである。彼女と話すときは必ず由姫と三人で話をしていた。
「静香さん。き、気になるって言ったぞ!」
「おい。あの男、一年の首席だぞ。胸に金バッジ付けてる」
「やっぱり頭の良いやつが好きなのか!?」
「たしか、生徒会に入ったやつだろ。たしか名前は……鈴原だ!」
周りの先輩方の嫉妬の声が聞こえてくる。
どうやら、彼女は二年生の中のアイドル的存在らしい。
これは夜道に気を付けた方がいいかもしれない。
「気になるって……誤解を招く言い方しないでくださいよ」
「だって本当のことですし」
「俺のどこに惹かれる要素があるんですか? 顔も普通ですし、首席合格もまぐれみたいなものですよ」
「外見なんてどうでもいいんですよ。私が気になったのは中身のほうですから」
顔を近づけてくると、俺だけに聞こえる声でぼそりと言った。
「貴方、生徒会の仕事をわざと手を抜いていますよね」
「っ!」
図星だった。
俺は由姫の機嫌を損なわないよう、手を抜いていた。わざとミスもしたこともある。
由姫は優秀なほうだが、大人と子供では大きな差がある。俺が本気で仕事をこなせば、その差は明白となる。
「なんで分かるんですか?」
「女の勘です」
そう言って会長は小さく舌を出した。
「そのあたりをとやかく言う気はありません。仕事はきちんとこなしていますし」
「ありがとうございます」
「それで私に話があるんですよね?」
「はい。有栖川と……その兄貴……優馬先輩のことについてです」
周りに聞こえないように小さな声で、話をした。
由姫と優馬の確執。
今度の若葉祭を成功させ、去年の優馬に勝ちたいと思っていること。
そして、優馬の本性。
会長は黙って俺の話を全部聞いてくれた。
「―――。これが俺の知っている全てです」
俺がこの話をしたのは、彼女に味方になって欲しいと思ったからだ。
若葉祭は生徒会主導の祭りであり、新生徒会のお披露目の場だ。
しかし、その責任者は生徒会長だ。由姫がいくら頑張ろうとしても、彼女の許可なしには自由に動けない。
すべてを由姫に任せて欲しいとは言わない。ただ、由姫の頑張りが認められるような形にして欲しいとお願いした。
「なるほど。そんなことがあったのね」
「信じられないかもしれませんが、元会長の本性は……」
「知っていますよ。あの人の性格がねじ曲がっていることは」
「へ……?」
会長はお茶を一口飲むと
「だって私、あの人と一年間、同じ生徒会にいたんですもの」
と苦笑いを浮かべた。
「というか、前生徒会のメンバーは全員気づいていたと思うわ。特別悪いことをしていたわけじゃないから、誰も口を出さなかっただけで。あ、女癖が悪いところは、一度注意したことがありますけど」
「そうだったんですか……。アイツ、学校内でも女の子にちょっかいを……」
「えぇ。私も口説かれましたし」
「まじっすか」
「一途な人が好みだからって、角が立たないようにお断りしましたけどね」
会長がちょろい女性でなくて良かった。俺は心の中でほっと息を吐いた。
彼女は髪をかきあげると
「わかりました。私に出来ることでしたら協力しましょう」
「本当ですか!」
「はい。私も優馬先輩より、有栖川さんのほうが好きですし」
会長はにこりと笑って頷いてくれた。
「それで、有栖川さんとの仲は進展しましたか?」
「それ聞きます? とりあえず、連絡先を知れた程度ですよ」
「あら残念」
「残念って……会長は不純異性交遊容認派なんですか?」
「前にも言いましたけど、清らかな交際ならOKですよ。お似合いだと思いますし」
会長は善意100%といった笑顔を浮かべる。
こういう顔は見たことがある。若い子同士をくっつけようとするおせっかいなお姉さんだ。
俺は苦笑いを浮かべると
「もしかして、仕事を頼む時、俺達を一緒に行動させたがるのって、わざとだったりします?」
「さぁ? どうでしょう」
しらっとした顔で会長はナイフとフォークで、ピザトーストを切り分け始めた。
俺の手抜きを見抜いたり、すぐはぐらかされたり。
この人は由姫のように、手のひらで転がすのは無理そうだな。
そんなことを思いながら、俺はカツカレーを頬張った。
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