第23話 白薔薇姫の後悔
「やっちゃった……」
自宅に帰ってきた私は前のめりに布団に倒れこむ。
そのまま枕に顔を当て、大きなため息を吐きだした。
ムキになると、後先を考えずに言ってしまう。私の悪い癖だ。
そのせいで、アイツと遊びに行くことになってしまった。
悪いのは兄さんだ。相変わらず私のことを馬鹿にして、子供扱いしてくる。
遊びに行くこと自体は嫌じゃない。私だって勉強より遊ぶほうが楽しい。
だけど、そんな時間は私にはない。そんなことをしていては、兄さんに勝てない。
「なんで私、兄さんに勝てないんだろ……」
寝返りを打ち、天井を眺めながら私はポツリと呟いた。
必死に頑張っているのに、遊びまわっている兄さんに勝てない。兄さん曰く、私は不器用らしい。
私も才能で劣っているのは分かっている。それでも、負けたくない。
私は壁に掛けられた制服に付いている銀色の七芒章をちらりと見た。まずはあれを金色にするところからだ。
中間試験ではトップになってみせる。
そのために、アイツに勝たないと。私はベッドから飛び起きると、机に座り参考書を開いた。
そういえば……。
今日は一つ、驚いたことがあった。
アイツが兄さんの本性を見ても、全然驚かなかったところだ。
学校では真面目で通しているから、皆びっくりするんだけど。まるで兄さんの本性をあらかじめ知っていたかのようだった。
「…………………………」
私がアイツのことが苦手な理由。
それは兄さんと似ているところが沢山あるからだ。
すぐにふざけるところ。
私のことをおちょくろうとするところ。
どんなことでも器用にこなすところ。
女好きでエッチなところ。
でも、兄さんと決定的に違うところが一つだけある。
「アイツ、なんだかんだ、優しいのよね」
私が教科書を忘れた時に、貸してくれた。
迷子の女の子を助ける時も、まず女の子の誤解を解こうとしてくれた。
今日も駅までわざわざ送ってくれた。
打算があっての行動かもしれないけど、今日の様子を見て、本気で私のことを心配してくれていた。そんな気がする。
今まで私に告白してきた男の子達の好意とは少し違う気がするのだ。
「そういえば、服どうしよう」
動かしていたシャーペンがぴたりと止まる。
休日に男の子と二人で遊びに行くなんて、初めてのことだ。というより、友達と外で遊ぶのが久々だ。
最後に友達と遊んだのいつだっけ? 中一の時、佳代ちゃんの家に行った時以来?
今ではもう遊ばなくなってしまった友人のことを思い出しながら、私はクローゼットを開けた。
一番前にあるのは、普段着ている地味な服だ。
この銀髪のせいで、周囲の目を引く。だから、普段は地味な服と帽子を被って外出する。
日曜日もこれを着ていこうか。
「有栖川って、私服は地味なんだな」
あぁ。見える。そんな感じで半笑いのアイツのムカつく顔が容易に想像できた。
「とりあえず、これは無しね」
地味な服をぽいと後ろに投げる。
他に良い服は無いかな。中学時代の服は、もう小さいから入らないし、それにガキっぽい。
これも駄目。こっちも駄目。ぽいぽいと服を投げ捨てていくと、クローゼットの中が空になってしまった。
「ぜ、全滅……」
あぁもう。なんで、外に出るだけなのに、なんでこんなに悩まないといけないんだろう。
これじゃあ、アイツのことを意識してるみたいじゃない。
決めた。明日の学校の帰りに、服を買おう。
地味すぎず、可愛すぎない。そんな普通の服を、店員さんに見繕って貰おう。
そう思いながら私は、散らかった服をクローゼットに詰め込み直したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます