第22話 二人きりの放課後Ⅴ
「ふぅん」
俺を値踏みするかのようにじろじろと見た後
「はじめまして……かな? 俺、コイツの兄の優馬」
とやけに丁寧に挨拶してきた。
「鈴原正修っす。元生徒会長ですよね。離任挨拶で見ました」
優馬は俺の金の七芒章をちらりと見ると
「ってことは、今年生徒会に入った学年主席って、お前?」
「はい」
「へぇ。友達っつーことは、休みの日、一緒に遊びに行ったりする仲なのか?」
「それは……」
「まだだろうな」
優馬はにやにやしながら俺の背中をポンと叩くと、由姫の方を振り返り
「由姫。生徒会で会うだけのやつは友達とは言わねぇぞ? 生徒会が一緒なだけの同級生って言うんだ」
「っーーー!」
図星を突かれ、由姫の顔が真っ赤に染まる。
なるほど。こうやっていつもからかわれてきたのか。由姫が優馬のことを嫌っている理由が理解出来てきた気がする。
「や、約束してるわよ……」
「あ?」
由姫はぷるぷると震えながら、涙目で優馬を睨みつけ、叫んだ。
「今度のゴールデンウィークに、一緒に遊びに行くって約束してるの!」
俺は絶句した。
嘘だ。
そんな約束なんてしていない。
「……………………。って言ってるけど、どうなんだ?」
優馬の疑惑の目が俺へとむけられる。
「っ!」
その後ろで由姫が涙目でキッと睨みつけてきた。話を合わせろってか。
俺は声が裏返らないよう、こほんと咳ごみすると
「本当ですよ。今度一緒に映画を見に行く予定なんです」
と嘘をついた。
「マジか? 由姫のやつ、「映画とか興味ない」って断ると思うんだが」
「何度も断られましたよ。恋愛ものは興味ないとか、アニメ映画は子供っぽいとか。選ぶのが大変でした」
「ふぅん」
こんな雑な嘘で大丈夫か? とっさに出た映画を見に行く約束をしたという言い訳。
優馬の目はまだ疑っている風だったが、ふぅと息を吐くと
「いやー。悪かった悪かった。そうだよな。まだ入学して一か月だしな。これからか」
とあっけらかんと言った。
「しっかし、GWは混むと思うぜ? 他のデートスポットを教えてやろうか?」
「で、デートじゃない! ただの男友達だって言ってるでしょ!」
「はいはい」
優馬は由姫の大声に怪訝そうな表情を浮かべた後、俺の肩をポンと叩くと
「鈴原クンだっけ? ちょっと耳貸して」
彼女に聞こえないような小さな声でぼそりと言った。
(嘘つきに合わせるのは大変だな)
俺の頬を汗が伝った。
バレてら。まぁ、そりゃバレるよな。
優馬がこれ以上追求しなかったのは、そっちのほうが面白そうと思ったからだろう。
ヴ―ッ。ヴ―ッ。
と、優馬の携帯が音を鳴った。
「お。柚希ちゃんか。やべ。そういや、約束してたんだった」
優馬は駅の方へ歩き出した。
「それじゃあな。二人とも遅くなる前に帰れよ」
「遅くなる前に帰れって、自分のことは棚に上げて……」
由姫はぶつぶつと呟きながら、だんだん小さくなる優馬の背中を眺めていた。
「あのさ。さっきの休日に遊びに行くってやつだけど」
「あ、えっと、あれは……その……」
慌てる由姫に俺はくすりと笑うと
「この前俺が誘ったの、覚えててくれたんだな」
と嬉しそうに言った。
「はぇ?」
なんのこと?という顔をする由姫。
「先週の放課後だったかな。『GWに一緒に映画でも見に行かないか』って誘ったじゃん。無視されたから、ずっと断られたものだと思ってた」
「え、えっと……」
もちろん嘘だ。そんな提案はしていない。
だが、このチャンスを逃す手はない。
彼女のついた嘘をそのまま利用させて貰おう。俺は心の中で悪い笑みを浮かべたのだった。
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