第19話 二人きりの放課後Ⅱ
「よし。終わったわ」
夕陽も半分以上落ち、暗くなり始めた頃、由姫は完成した資料をざっと目を通した後、PCの電源を落とした。
「おー。お疲れ様」
俺はやることも無かったので、適当にネットサーフィンをしていた。
「何を見てるの?」
資料を棚に戻そうと、俺の後ろを通りがかった由姫が、訊ねてきた。
「ん? トゥイッター」
未来でも色々と有名なSNSサービスだ。去年日本でサービスが始まったばかりで、ユーザーはそれほど多くは無いが、あると便利ではある。
「トゥイッター? 何それ」
由姫は知らないのか、小さく首を傾げた。この時代じゃまだ有名じゃないもんな。
「リアルタイムで情報が共有される掲示板って言えばいいかな。これから流行すると思う」
「ふぅん。貴方、PCに詳しいのね。生徒会新聞を作る時も、すごく手慣れてたし」
お。感心してくれているのだろうか。
少しは見直してくれかもしれない。真面目に仕事やって良かっ……
「貴方のことだからえっちなサイトでも見てるんだと思った」
全然見直してくれてなかった。
あれ? 俺のイメージ、そんな感じなの!?
「エロサイトか……。さすがに、隣に女子がいる状況で見る勇気は無いな」
「一人でも見るな馬鹿。ウイルスでも入ったら、大問題になるわよ」
「安心しろ。そこは長年培った経験で、ウイルス対策はばっちりだ。スパイウェア、トロイの木馬、なんでも来いだ」
「貴方がPCに詳しくなった理由が分かった気がするわ」
由姫はあきれ顔でため息を吐いた。そして
「そういえば、兄さんも似たようなの見てたっけ」
と呟いた。
「それで、そのトゥイッター?で何が出来るの?」
「情報共有とか宣伝とか。有名なニュースがすぐに入ってくるから、色々便利だぞ」
「ふぅん。携帯電話でも見れたりするの?」
「携帯では……まだ無理だった気がするな」
たしか来年あたりにガラケー用のトゥイッターアプリがリリースされた覚えがある。
ちょっと調べてみるか。そう思い、PCのモニタに目を向けた時だった。
『西横線、車両故障で運転見合わせ。マジだるい』
という呟きがタイムラインに流れてきた。
西横線は、この学校の最寄り駅の電車だ。
「どうしたの?」
「西横線が運転見合わせだって」
しかも、この学校の最寄り駅から二駅先で起きたようだった。
俺は徒歩なので大丈夫だが、由姫は電車通学だ。
「そんなこともわかるの?」
「偶然、俺のフォローしてる人が呟いてた」
「復旧見込みとか分かる?」
「さぁ。でも、一、二時間は動かないんじゃないか」
時刻は十九時半過ぎ。もうすぐ強制下校時刻だ。
もう少し早い時間なら、生徒会室で時間を潰すこともできたのだが。
「仕方ないわね。瀬田線なら動いているんでしょう。少し歩くけど、池端駅まで歩くわ」
由姫はため息を吐きながら、鞄を背負った。
「池端駅か……」
たしかに。ここからなら三十分ほど歩けば、池端駅にいける。
ただ、あの駅の周りは治安が悪いエリアなんだよな……。
夜になれば、不良学生がたむろしていたり、悪質なキャッチやナンパ狙いの男が沢山いる。
そんなところに由姫を一人だけ行かせるのは……。
生徒会室の鍵を閉め、学校を出る。学校にはもう殆ど生徒は残っていないようだった。
「なぁ、やっぱ西横線の復旧を待たないか?」
「待つって、駅で? いつ復旧するのかも分からないのに?」
「じゃあ、時間つぶしにカラオケとか」
「寄り道は校則違反でしょ」
「じゃあ、俺の家とか」
「い、行くわけないでしょ」
デスヨネー。
「貴方さっきから変よ。どうしたの?」
「いや、だってあの駅の近く、治安が滅茶苦茶悪いからさ。危険だと思って」
「貴方の家にホイホイついていく方が危険だと思うんだけど」
なんてこった。ぐうの音も出ない正論だ。
何か他に良い案が無いか考えていると、いつも別れる十字路に来てしまった。
「それじゃあ、また明日」
そう言って、俺の家と反対の方向へ歩き始めた。
「…………………………」
あぁ! やっぱり不安だ! 俺はUターンをすると、由姫を追いかけ、横に並んだ。
「ちょっ。なんでついてきてるの?」
「いや、不安だから送っていこうと」
「ストーカーって、こうやって生まれるのね。勉強になったわ」
「有栖川、池端駅に行ったことないだろ? ほら、俺、この辺りの道詳しいからさ」
「携帯のGPSアプリを使うから大丈夫よ。ほら!」
由姫は携帯の画面を俺に向ける。ただ、画面は真っ黒だ。
「電源。落ちてないか」
「え。あれ」
由姫は電源ボタンを長押しするが、携帯はうんともすんとも言わない。
どうやら、充電が切れているらしい。携帯をあんまり使わないから、充電切れにも気づかないんだろうな。
「ここに充電不要の人間GPSがありますが、いかがでしょう」
「……………………」
由姫は少し悔しそうな顔を浮かべたが、背に腹は代えられないと思ったのか
「貴方が勝手に着いてきてるだけだから、お礼とか言わないからね」
と口を尖らせた。
むしろ俺の方がお礼を言いたいくらいだ。可愛い女子高生と二人きりで夜の街を歩くとか、金を払わないと無理だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます