第6話 一軍女子からのお誘い
入学式の後、クラス分けとオリエンテーションがあった。
「っし!」
クラス分けの表を見た俺は、心の中でガッツポーズをした。
由姫と同じクラスだったからである。
俺は窓際の前から三番目。由姫は教室の中央の最後尾だった。
隣の席だと更に嬉しかったが、そこまで願うのは高望みというものだ。
「はい。それでは明日からよろしくお願いします」
担任の笠間先生の挨拶が終わり、今日は解散となった。
明日からは通常授業が始まるという。
「ねぇねぇ、鈴原くん。メルアド交換しよー」
配られた入学生ガイドをぺらぺらとめくっていると、女子が二人話しかけてきた。
「え」
突然話しかけられ、面食らった。
ルックスと雰囲気からして、明らかに一軍女子だ。
たしか、篠崎と小林だったか。自己紹介の時、そう名乗っていた気がする。結構可愛いなと思っていたから、印象に残っている。
俺が面食らっているのを察したのか、篠崎は慌てて
「私らね、クラスみんなのメルアド交換しようと思ってるの。せっかく同じクラスになったんだからさ。全員と仲良くなりたいじゃーん?」
嘘だ。
もし、クラスメイト全員のメアドを交換したいなら、なんで一番遠い俺のところに、真っ先に話しかけに来たんだよ。
それに、彼女達の目。社長になったばっかりの頃、合コンで積極的にアプローチしてきた女の子と同じ目をしている。つまり、そういうことだ。
つーか、学年主席ブランドすげぇな。
前の高校では、女子高生からメアドを聞かれるイベントなんて発生しなかったぞ。
可愛い女子高生のメアド……。要るか要らないかと言われれば、超欲しい。
だけど――
俺はパンと手を合わせると、残念そうな表情を浮かべながら
「ごめん。実は今日、携帯忘れちゃってさ。入学式の挨拶で緊張してたのかも」
「そっか。残念。というか、緊張してたのに、よくすらすら喋れたね」
「てか、緊張してたんだ。ちょっと親近感湧くかも」
「明日は持ってくるからさ。その時はよろしく」
「あいあい」
よし。無難な感じで断ることが出来た。
可愛い女の子のメアドはたしかに欲しい
だが、一番最初に欲しい女子のメアドは決まっているんだ。
俺はその女子の方を横目で見た。
「ねぇねぇ、有栖川さん。メルアド交換しよー」
篠崎と小林が、由姫のところへ行っていた。
それにしても現金なやつらだ。今度は次席の由姫か。クラス全員メルアド交換作戦はどこへ行ったのやら。
一軍女子は、同じ一軍同士で群れたがる。
容姿、学力共に揃っている由姫は、一軍と認識されたらしい。
「銀髪とか初めて見た。すごいサラサラ―」
「ハーフなんだよね。自己紹介で言ってたっけ」
小林が、由姫の髪を触ろうとする。
「触らないで」
由姫は小林の手を振り払うと、氷のような目で睨みつけた。
「え……あ、ご、ごめん」
思ったより強く拒絶されたのに驚いたのか、小林は顔を引きつらせて後ずさった。
「携帯なら持ってきてないわ」
「え。忘れたの?」
「忘れたんじゃないわ。勉学をする場に、不要ってだけ」
「へぇ。でも無いと不便じゃない?」
「別に」
帰り支度が済んだのか、由姫は鞄を閉めると帰ろうとする。
「あ、ちょっと待って。ならさ、この後、一緒にカラオケ行かない?」
小林が慌てて引き留めた。
「カラオケ……?」
「そう。親睦もかねてさ。色々聞きたいこともあるし」
「行かないわ」
バッサリと切り捨てるように、由姫は首を横に振った。
「帰り道に娯楽施設への寄り道は、校則違反よ」
淡々とした冷たい声で、由姫は言う。
「校則違反って……別にそんなのびびんなくていいでしょ。バレなきゃ大丈夫だって」
「びびるとかびびらないとか、そんな子供染みた理由じゃないわ。この学園の生徒として、決められたルールはしっかり守る。それだけよ」
「そ、そう……。じゃあ、また今度……」
彼女達はそそくさと教室を出て行った。
また今度と言っていたが、彼女達は二度と、由姫を誘わない気がする。
「なるほど……これは……中々だな……」
彼女達のやり取りを見ていた俺は、苦笑いを浮かべた。
これが十五年前の由姫。
彼女自身が黒歴史と言っていた理由も分かる。中々の拗らせっぷりだ。
だけど、そんな彼女がデレた顔を見てみたいとも思った。
大人の由姫と違って、きっと落とした時の反応も違うはずだ。
「楽しくなってきた」
現在の好感度はゼロ。
攻略難易度は最上級。
俺の武器は一つのみ。
【成長した彼女のことをなんでも知っていること】
さぁ、二度目の青春を始めよう。
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