《未来》とある新婚夫婦の日常

 俺の嫁は青春ラブコメが好きだ。


 今日も家事を一通り終えたあと、居間のソファでくつろぎながら、アニメ化が決定した人気ラブコメ漫画を読んでいた。

 漫画だけではなく、アニメやドラマ、時にはライトノベルも読む。


 俺はその様子を少し離れたところから眺めるのが好きだ。

 にまーと笑ったり、真剣な顔つきになったり、はらはらした表情になったり。

 普段はクールな彼女が、この時だけは表情豊かになるからである。


「なにじろじろ見てるの?」


 俺の視線に気づいたのか、彼女は顔をあげて頬を膨らませた。


「いや、随分と面白そうに読んでいるなと思って」


「そう! すっごく面白いの! 今まで読まなかったのが勿体なかったくらい! 特にヒロインの感情描写がとっても上手くて……」


 彼女は目を光らせて、読んでいた漫画の内容を熱弁する。

 そして、ため息を一つ吐くと


「あーあ。私もこんな学生生活を送ってみたかったなぁ」


 とがっくりと項垂れた。


「高校時代、そんなに酷かったのか?」


「前にも話したでしょ。私にとって一番の黒歴史」


 彼女は頭を抱えながら、苦笑いを浮かべた。


「あの時の私は無駄にプライドだけ高くて、勉強ばかりして……。青春らしいことを何一つできなかったんだから」


「でも、そのお陰であの七芒学園を首席で卒業出来たんだろ」


「そうだけど、今思い返すと他にやるべきことが沢山あったと思うわ。彼氏を作るとか」


「凄くモテてたのに、全部断ったんだっけ」


「だって、あの時の自分には男子が全員幼稚に思えたんだもの。今思い返すと、幼稚だったのはどっちって話」


 高校時代の記憶がフラッシュバックしたのか、彼女は近くにあったクッションに顔をうずめると、足をパタパタさせ始めた。


「俺は君が暗い青春を送ってくれて、良かったと思うよ」


「はぁ? なんでよ」


「だって、そのお陰で俺は君と結婚出来たんだから」


「っ……!」


 真剣な顔でそう言うと、彼女の顔が赤くなった。


「急に格好良いこと言うな、馬鹿……」


 彼女は俺にクッションを投げつけると、天井を仰ぎながら


「あーあ。高校生の時に、貴方がいてくれたらなぁ」


 と呟いた。


「もし、高校生の俺が告白したら、付き合ってくれた?」


「ないわね。即答でフッてたと思う」


 酷い。俺が落ち込んだふりをしていると、彼女はくすりと笑って俺の方へ歩いてくると


「だからさ。もしも、過去に戻るようなことがあったらさ」


 そして、横髪を掻き上げると、俺にキスをした。


「何十回でも何百回でも私に告白して。それで、私に青春を教えてね」

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