第8話 ヒモくんの場合
ヒモくんの場合
年収200万。仕事はホテルの掃除。そして実家暮らし。彼のプロフィールを見たとき、特に期待はしていなかった。だけど、写真を見る限りでは、パッとしないけど、結構なイケメンだったから、やり取りを始めた。
「熟女が好きなんです」って彼が言うから、少し驚いた。前の彼女も熟女で、しかもエステサロンを経営していたらしい。
「え?それって、ママ活?」なんて一瞬思ったけど、どうやら違うらしい。彼の言い分だと、本当にそういうつもりじゃないとか。でも、デート代は当然のように全部私が出した。彼はいつも申し訳なさそうな顔をするし、ちゃんと事前にクーポンを調べて、無理のない範囲でお店を指定してくれる。その姿が、何とも可愛い。
「僕みたいな熟女好き、ってね、実は美魔女みたいな人が好きなわけじゃないんですよ。スーパーの袋を下げてそうな、普通のおばさんが一番いいんです」
そう言われたとき、私は思わず心の中で「それって、私をディスってる?」って突っ込みを入れてしまった。でも、不思議と会話は続く。彼の調子の良いトークもあって、食事中はそれなりに楽しかった。
しかし、ふとした瞬間に気づく。彼の素の顔、あの何とも言えない、死んだ魚のような目がどうしても好きになれない。それはまるで、フランスの画家が描くアンニュイな雰囲気、なんて言えば聞こえはいいのかもしれないけど、実際はただ気だるそうに見えるだけ。私が昭和の「24時間戦う男たち」にまだどこか惹かれているからかもしれない。
そう思うと、彼はどうしても物足りない。
これが今の若者なのかもしれない。そんなに頑張らなくても、適当に生きていける、そんな雰囲気だ。でも、彼の実家はそれなりに裕福らしい。だからこそ、余計にその気だるい感じが私には馴染めない。
「昭和のガツガツな女」として、私は彼のことをどう思っているのだろう?いや、むしろ、彼は私のことをどう思っているんだろう。お互い、まるで違う星から来たような感じで、出会った瞬間から少し戸惑っていたのかもしれない。
「ありがとう、楽しかった」
そう言って、会計を済ませて、私は店を出た。肩で風を切るように、一歩一歩、歩いていった。
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