第7話 レクサス男と私の非常識な恋愛劇





「ねぇ、今日は来てくれる?」

画面に表示されたLINEメッセージ。送信相手は、例の"レクサス男"。背筋を伸ばし、私の手は自然とスマホを握りしめる。


彼の名は「レクサス男」。私が心の中で密かにそう呼んでいるだけで、本名を知っているわけじゃない。でも、彼が乗っている高級な車、レクサスがあまりにも印象的だったから、そう呼ぶことにしたのだ。だって、いつもカッコよく乗りつけてきて、ちょっと気障な微笑みを浮かべて現れるんだもの。まるで少女漫画の王子様みたいに。


でも、彼には一つ問題があった。いや、正確には"大きな問題"。彼には妻がいるのだ。そして、私はその事実を知っていながらも彼と会っている。これって、普通のラブコメとは違うけど、少なくともエンタメ要素は十分だ。


「ごめん、今日は仕事があるんだよ」と彼からの返事が来た。

ふぅ、まただ。いつも仕事、仕事って。それでも、そんな彼に振り回される私。まるでヒロインじゃないかって思いたいけど、現実は少し違う。でもね、私はそんな生活に、実はちょっとしたスリルを感じていた。


彼と初めて出会ったのは、半年ほど前のことだ。都心のカフェで、偶然にも隣に座った彼が話しかけてきた。彼のスーツ姿はどこか洗練されていて、話す言葉も大人の余裕が感じられた。それに、彼のレクサス。すぐに、「この人、絶対に普通じゃない」って思った。そして、その予感は的中した。彼の指には結婚指輪があり、彼の生活には私が割り込む余地は少なかった。それでも、彼の優しい言葉と、わずかな時間のために私はその道を選んだ。


ある日、私たちの関係に転機が訪れる。彼から久しぶりにメッセージが来た。「明日、ちょっと時間が取れるかも。会いたい?」

もちろん、「はい!」って即答した。だって、あの彼が"会いたい"って言ってくるのは珍しいんだから。それに、心の中では少しだけ、「もしかして、妻と別れるつもり?」なんて妄想を膨らませていた。


そして翌日、待ち合わせ場所に現れた彼は…やつれていた。いつものスマートな姿はどこへやら、目の下にクマができ、スーツもどこかヨレヨレ。「どうしたの?」と私が尋ねると、彼は困ったように笑った。


「実は、昨日から熱があって…」

え?まさかの展開。私が考えていたドラマティックなシナリオは、いきなりリアリティに引き戻された。会うのはやめておけば良かったのに、彼は「君に会いたくて無理したんだよ」と、少し弱々しくつぶやいた。


その後、私は彼を自分の家に連れて行き、看病することになった。おかしいでしょ?普通なら、彼の家族が面倒を見るべきなのに。私は「恋人みたいな存在」になりきって、彼にお粥を作り、毛布を掛けて、看病してあげたのだ。


彼は少し恥ずかしそうに「ありがとう、君には感謝しているよ」と言って目を閉じた。その姿を見て、私は一瞬、「これで良かったのか?」と思ったけど、答えはすぐに分からなかった。ただ、その時だけは、彼と二人きりの空間が心地よかった。


数日後、彼からまたメッセージが届いた。「ありがとう、もう大丈夫だよ。また、会いたいな。」

私は少しだけ戸惑いながらも、心のどこかで次の会い方を期待している自分に気づいた。これが私とレクサス男の非常識な関係の続きなのだ。


いつか、この関係が終わる日が来るのかもしれない。でも、その時まで私は、彼とのスリルに浸り続けるのだろう。そしてまた、次のメッセージを待ってしまうのだ。


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