第2回

読み終えた香里副部長が、ポツリとつぶやいた。 

「どう思います、副部長は?」

と、私が訊くと、

「慶次と同意見よ」

「ラブレターですか?」

「紛れもなくね」

と言うと香里副部長は、花田先輩と顔を見合わ微笑んだ。

私のほうは、真理恵の顔を見て肩をすくめた。

「ーーねえ慶次!」

香里副部長が唐突に、花田先輩に呼びかけ、「私、喉が渇いた。飲み物買ってきて!」

「いいよ」

と、花田先輩が軽く応じる。

 香里副部長の頼みは、何事においても最優先、それが花田先輩である。

「この子たちの分もね」

香里副部長が、私たちのほうを指さす。

「わかった。ーー君たち、何かリクエストがある?」

と、花田先輩に訊かれたが、私たちは、ただ呆気にとられ、

「何でもいいです」

と、揃って言った。

ーー花田先輩は、部室のドアを出ようとした時に立どまり、こちらに振り向き、

「ーーでも、君の彼、すごいよね。たとえラブレターを書いたとしても、僕だったら、渡す相手に面と向かって『ラブレター』なんて恥ずかしくて言えないよ」

花田先輩が出て行ったあと、香里副部長は、クスリと笑みを浮かべた。

「彼、あれで精一杯、ヒントを出してるつもりよ」

と、香里副部長が言ってくれたが、相変らず意味がわからない。

「ラブレター、ですか……」

真理恵が首をかしげる。

「じゃあ、あなたはどうして、うちの峰さんみたいに、怒りまくらなかったの?」

「それは、この手紙、言い方とか全然彼らしくないと思って」

「そうよね、それでいいのよ」

香里副部長は、微笑み、「峰さん、あなたの反応もそれでいいのよ」

「どういうことですか?」

私は、キョトンとなる。

「彼女以外の人には、あなたのような反応をしてもらいたかったのよ、彼は」

私は、ムッとして口を尖らした。

「ーー真理恵さん、その手紙、もう一度読み返してみて、何か気づくはずよ」

真理恵は、香里副部長に促され読み返していたが、

「ーーこの子どものいたずら書きのような、文字の使い方が、まるで彼らしくないです」

真理恵が、香里副部長の顔を見ながら、「〈モ愛像〉の〈愛〉とか、〈後悔死か〉の〈死〉とかーーえっ?、」

「気がついたようね」

香里副部長が、笑顔で肯いた。

「はい」

真理恵がうれしそうに、手紙のいたずら的文字をまるで囲った。

〈愛・死・テ・今・ス・子・レ・可・ラ・モ・予・ロ・市・区〉

「愛しています、これからもよろしく」

と、真理恵が読みあげた。

「それくらい、メールでいいのに」

と、私が言うと、

「彼にとっては、1周年を記念する大事なイベントなのよ」

と、香里副部長が微笑を浮かべた。

ーードアが開き、花田先輩が戻ってきて、

「分かった?」

と、訊きながら、私と真理恵に缶の緑茶を渡した。

缶コーヒーを受けとった香里副部長は、

「半分までね!」

と、言った。

「えっ?」

真理恵が、目を見開く。

「そうか」

花田先輩は、ニコっと微笑み、「まあ、すぐ分かると思うよ」

真理恵が、手紙を手にとる。

「まだ何かあるの」

私は、ダメだと首を振り、「本当、めんどうな男ね」

「そういうことを言わない」

と、香里副部長に、にらまれてしまった。

「はいはい」

私は、缶を開けて、お茶をがぶ飲みした。

「ーー読点が、1行につき、必ず1つしかないのは偶然かしら」

と、香里副部長が言うと、

「ダメだよ、言ったら」

花田先輩は、大げさにため息をつき、「彼に申し訳ないじゃないか」

「ーー分かった!」

真理恵は、嬉しそうに、「1行を、読点を境に2つに分けるんですね。その上で、いたずら文字が全く入ってないくくりを読めばいいんですね」

「ーーちょっと見せて」

私は、真理恵から手紙をひったくると、「真理恵へ、僕が君に告白してから、ちょうど1年だね、僕のことをおもってくれて、ありがとう、僕はーーそうか、いたずら文字とつながって、僕は、愛しています、これからもよろしく……」

「ところで、真理絵さん! ラブレターの意味は分かりましたか?」

と、花田先輩が訊く。

「それでしたら、私が、三世のように、別れの手紙と勘違いしないように……」

「それもそうですが、もう一つ」

花田先輩は、人差し指を立てると、「ラブレターと言えば、『愛』ですよね」

「そうか!」

私は、ポンと手を打つと、「愛の文字に注目させたかったんですね」

「彼は、『モ愛』以外には、「あい」をいっさい使ってません」

「例えば、『僕をおもってくれて』のところ」

香里副部長が、口をはさみ、「『僕を愛してくれて』でもよかったのにーーむしろ、そっちの方がしっくりくるのに、あえて使わなかったのよ」

「私がすぐ分かるように、気を使ってくれたんですね」

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