モアイ像に似た顔の君へ
北斗光太郎
章タイトル未設定
第1回
「私の顔って、モアイ像に似てる?」
と言ってきたのは、
私と同じ、G大学の1年生。
真理恵は、私が所属しているミステリー研究会の部室に、ノックもせずに入ってきたかと思えば、いきなりモアイ像の話だ。
私は、ただ呆気に取られただけである。
真理恵は、さらに、「ワー!」と泣き出してしまい、困った私は、
「大丈夫よ!」
私は、真理恵の肩を叩きながら、「よく分からないけど、真理恵はたしかに、私の次かその次くらいにかわいいから」
と、正直に言ってやった。
「ーー私は、三世より下なの?」
と、真理恵がしゃくりあげながら言う。
三世というのは、私のことだ。
ただ今、サークル活動中なのだが、他の部員からの、突き刺さるような視線が痛い!
「ーーそうよ、何か問題でも?」
「うーん、別にいいけど……」
「大分落ち着いたみたいね。ーー何があったのか説明してくれる」
「今日って、彼が私に告白してくれた日からちょうど1年の記念日なの」
「そう」
だから何、という言葉を飲み込む。
「彼とのなれそめ、訊きたい?」
「必要だと思えば訊くから、今はカットして」
「それで、彼ーー
と言って、真理恵は茶封筒をとりだした。
私は見せてもらったが、ごく普通の封筒である。
真理恵が中を見たのだから、封は開いているので覗くと、四つ折りされた紙。
手紙だろう。
「ーー読んでいいの?」
と、私が確認すると、真理恵はコクリと肯く。
「ーーモアイ像に似た顔の真理恵に……」
私は思わず、「何これ、ひどい!」
「そうでしょ」
真理恵は、半泣き状態で、「シュンさん、これ渡してくれた時、『今日は告白記念日だから、君へラブレターを書いたよ』って言ってたのに」
縦書きの便箋に、直筆で書かれた手紙だが、おおよそラブレターなどと呼べる内容ではなかった。
〈モ愛像に似た顔の、真理恵へ。
僕が君に告白してから、ちょうど1年だね。
後悔死かない1年だったっテ、日々なげいて今す。
僕のことを、わスれてくれ。
もううんざりって子と、いい加減気づいてくレ。
自分には可なり、ハイらンクすぎる人だったと。
おもってくれて、モちろんかまわない。
予く我慢したよ、ありがとう。
そう言ってくれるだロ、はっきり市っかり。
君のことなんかもう見た区ないんだ、僕は。〉
「ーー何これ!」
手紙を読み終えた私は、ワナワナ震えると、「こんなのラブレターじゃなくて、別れの手紙じゃない」
「やっぱり、そう思う」
真理恵が、グスリと鼻をすする。
「しかも何? あんたの彼って、どこかの国の王子様とでもいうの!」
「まあ、落ち着いて三世!」
と、真理恵になだめられ、
「ーーごめん。あまりにも頭に来たから……」
「ふだんの彼は、こんな言い方しない。だから、何だかおかしいの」
「馬鹿ねえ! ふだんは、猫かぶってるのよ」
「違う! シュンさんは、そんな人じゃない」
「ーーちょっと失礼!」
と、言って自分の席から立ち上がったのは、丸メガネをかけた
このミステリー研究会の4年生部員だ。
謎を解くのが趣味。
花田先輩は、私の席にやって来ると、
「その手紙、僕にも見せてくれる?」
私は、真理恵の顔を見た。
真理恵が肯く。
「どうぞ!」
と、私は手紙を花田先輩に渡した。
ーー手紙を読み終えた花田先輩は、
「真理恵さんでしたね! あなたは、彼から愛されてるんですね」
と、微笑んだ。
「どこが!」
私は、カーっとなり、「こんな、ナルシストの勘違い野郎のどこに愛なんてあるんです」
と、花田先輩に噛みついた。
花田先輩は、メガネを外しレンズを拭き始めた。
この間の意味がよく分からないが、メガネかけ直すとニコリと微笑み、
「それは、手紙をもらった本人が考えないと意味がないですよ」
「私ですか?」
真理恵が、目をパチクリさせると、「私には、よく分からないんです。どういう事なのか、教えて下さい」
「先ほど言った通り、これは、君自身が考えないと意味がないですから」
と、花田先輩は譲らない。
「ーーねえ、私にも見せて!」
と、声をかけてきたのは、
このサークルのトリックの女王である。
トリックを考えさせたら、右に出るものはいない。
花田先輩と香里副部長は、幼なじみである。
「どうぞ」
と、真理恵が手紙を渡す。
「ーーなるほど」
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