強面王子からの謝罪
(ん……ここは……?)
エリザベスがアクアマリンの目をゆっくりと開くと、見慣れない
「リザ、目が覚めたんだね。良かった」
「もう、心配したのよ、リザ」
エリザベスの両親であり、リーズ公爵夫妻はエリザベスが目覚めたことに心底安堵していた。
ちなみにリザはエリザベスの愛称である。
父であり、リーズ公爵家当主アランは赤毛にエリザベスと同じアクアマリンのような青い目。母であり、リーズ公爵夫人へスターはタンザナイトのような紫の目に、エリザベスと同じブロンドの髪である。
「お父様、お母様……
エリザベスは目覚める前のことをゆっくりと思い出す。
(
エリザベスはそこで第四王子ウィリアムが鬼の形相で自身を睨んでいたことを思い出した。
「
エリザベスの顔は真っ青になった。
「ああ。リザ、お前はウィリアム王子殿下の顔を見た瞬間気絶するというとんだ失礼をやらかした」
アランは呆れ気味にため息をつき、苦笑している。
「確かにウィリアム王子殿下は顔が怖いと言われているけれど、気絶することはないでしょうに……」
へスターは頭を抱えていた。
「……申し訳ございません」
相変わらず青ざめたままのエリザベスは、ただでさえ華奢で小さな体を更に小さくしていた。
(気絶してしまったことも失礼だけれど、殿下はもしかして、
昨日の夜会のことを思い出し、エリザベスはガタガタと小刻みに震えていた。
「ところで……ここはどこなのでしょう?」
やや震えながら、おずおずと聞くエリザベス。
するとアランが「王宮の客間だ」と答えた。
「
やや呆れたようにため息をつきながら、どこか優しげな笑みのへスターだった。
どうやら一晩経過したらしい。
その時部屋の扉がノックされ、王宮の使用人が入って来た。
朝食を運んでくれたようだ。
エリザベス達は王宮で出された朝食に舌鼓を打ちながら、今後のことを話していた。
「リザ、朝食後ウィリアム王子殿下がお前に謝罪に来るそうだが、お前もウィリアム殿下に謝罪をしなさい。殿下の顔を見て気絶するという失礼をやらかしたのだから」
「……はい」
アランの言葉に、エリザベスは俯きながら返事をした。
生糸よりもか細い声である。
(ウィリアム王子殿下への謝罪……。殿下、相当怒っていらしたわよね……。他の方々がいる中、キャロットケーキ三個は食べ過ぎだということよね。他の方々のことも考えろと……)
エリザベスは昨日のウィリアムの表情を思い出し、小刻みに震えていた。
パンもスープも喉を通らなかった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
朝食を終え、エリザベスが覚悟を決める前に扉がノックされた。
「入っても良いだろうか?」
扉の向こう側から聞こえたのは、低く重厚な声。
その声にエリザベスは震え上がる。
(ウィリアム王子殿下だわ……! きっとキャロットケーキの件、相当怒っていらっしゃるのね……!)
エリザベスは青ざめ、その場から逃げようとする。
「リザ、逃げるな」
アランが呆れながらエリザベスの首根っこを軽く掴む。
その隣でへスターは頭を抱えていた。
扉がゆっくりと開く。
相変わらず眉間に皺を寄せ、悪魔よりも恐ろしい表情、鬼のような形相のウィリアムが入って来た。ウィリアムの後ろには護衛も控えている。
エリザベスは今日命が終わるかのような絶望感を覚えた。
目の前にいる熊のような大男に睨まれているエリザベスは、まるで震える子うさぎのよう。
しかし、両親が礼を
ウィリアムから「楽にして良いと」声がかかり、エリザベス達はゆっくりと姿勢を戻す。
やはりウィリアムはエリザベスを睨んでいた。
「リーズ嬢」
「は、はいっ!」
エリザベスは声が裏返ってしまう。
「昨日は驚かせてすまなかった。これはせめてものお詫びだ」
相変わらずアメジストの目はギラリとエリザベスを睨んでおり怖い顔だ。
ウィリアムはエリザベスにあるものを差し出した。
「まあ……!」
エリザベスはアクアマリンの目をハッと大きく見開く。
ウィリアムから手渡されたのは、透明な袋。
中には色とりどりのマカロンが四個入っていた。
三度の飯より甘いものが好きなエリザベスは、一瞬にしてウィリアムへの恐怖心が吹き飛んだ。
「殿下、こんなにも美味しそうで素敵なマカロンをありがとうございます」
パアッと明るい表情のエリザベス。
ウィリアムは思わずエリザベスから目を逸らしてしまった。
背後からアランの咳き込む声が聞こえ、エリザベスはハッとする。
「あの、殿下、
エリザベスはシュンと肩を落としてウィリアムに謝罪した。
背後からへスターが「全くリザは、食べ過ぎよ」と呆れながら言ったが、エリザベスは聞こえていないフリをした。
「いや、君が謝ることではないし、俺は怒ってもいない。……まあこの顔だからいつも怒っているように見えて怖いと
ウィリアムは困ったように苦笑しているが、やはりその表情は凶悪そうだ。
エリザベスはそんなウィリアムにほんの少し怯んでしまう。
「俺はただ……リーズ嬢がキャロットケーキをあんなにも美味しそうに食べるものだから、気になって声をかけたんだ」
ウィリアムは少しだけ表情を和らげた。
そして次の瞬間驚くべき言葉を放つ。
「あのキャロットケーキは俺が作ったものだからな」
「……え?」
エリザベスはアクアマリンの目を零れ落ちそうなくらいに大きく見開いていた。
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