第2話・天才幼馴染(男)の距離感はバグってるよね

 自己紹介や必要な連絡などが終わった放課後。

 葉隠学園の敷地内にある食堂に移動し、とんかつ定食を頼んだ僕と晴人は壁際の二人席に座った。


「しっかし入学式から面倒なことが増えたよね」

「まあ、中等部の時も大して変わらなかったし今更だろ」

「そうかい。って、コッソリと僕の大根おろしに自分のトンカツをつけないでよ」

「なら堂々とつければいいんだな」

「そゆもんだい?」


 何もないよりも許可をとってくれるのはありがたいけど。

 晴人はとんかつソースで僕はおろしポン酢なので、互いの味を楽しみながら食事を進めていく。


「でだ、本題に入ってもいいか?」

「ん、もしかしてあの赤髪の事?」

「ソッチもあるけど今は高等部ここにあるダンジョンだ」

「あー……」


 世界各地に点在している資源採掘場ことダンジョン。

 タイプは洞窟もあれば光がある草原もあり、葉隠学園・高等部にあるダンジョンもその例に漏れず特殊な場所みたい。


「すげぇ嫌な顔をしてどうした?」

「いやだってココのダンジョンには虫タイプの魔物グリードも出るらしいよ」

「ま、まじかよ」


 互いに虫が苦手。

 小さい頃に晴人の姉がデカい蜂に刺されて入院した事があり、その時に僕達は青い顔をしながらお見舞いに行った。

 その時に苦しむお姉さんを見て互いに冷や汗を流したんだよな……。

 

「調べた限りだと幼虫型が浅瀬にいるらしいよ」

「そ、そうなるとソコはショートカットしたいな」

「同じく」


 マジで嫌なものは嫌だ。

 嫌な記憶を思い出して気持ち悪くなっていると、頬をひきつらせている晴人が一言。


「大技をぶっ放して階層ごと破壊するか?」

「そんな荒技は聞いたことないけど晴人ならできそうだね」

「流石に無理だぞ!?」


 ですよねー。

 ダンジョンの地面を掘りまくった人がいるらしいけど、一向に次の階層に繋がらなかったのは学科の教科書に乗ってたな。

 互いにアホな内容で笑い合いつつ、適当なタイミングで会話を戻す。


「ダンジョンの話に戻るけど、最近は大当たりが出てないらしいよ」

「ほう、そりゃいいことを聞いたぜ」

「ははっ、まあでもコレ並はあまりなさそうだよ」

「逆にある方がすごいだろ」


 僕の右腕についている白銀のブレスレット。

 中等部二年の時にダンジョンの隠しエリアで手に入れた・銀鎖の腕輪ことシルフィリス。 

 能力は僕の周りに超頑丈な白銀の鎖を作り出す能力で、コイツのお陰で晴人は攻撃に専念できている。


「だねー。っと、そろそろダンジョンに行こうか」


 直感で嫌な感じ。

 おそらく面倒ごとが起きる合図で僕達は食べ終わった食器を返却口に返していく。


「「ありがとうございました!」」

「いえいえ!」


 早めに抜け出した方がいいな。

 厨房で働くお姉様方に挨拶をした後、僕達は足早に食堂から離れる。


「でだ、今回は何を感じたんだ?」

「うーん、たぶん生徒同士の喧嘩っぽいよ」

「なるほど……。って、ほんとお前の危機管理能力は高いよな」

「そりゃコレがなかったら僕は生きていけないからね」


 力のない弱者の僕が磨けたのは危機管理能力と探知系。

 このおかげで最悪な未来を避けているが、たまに逃げられない現実もあるので晴人の手を借りて強引に突破したことがある。

 それにこの能力は急な不快感に襲われるから、今でもなれない。


「その能力はほんと羨ましいな」

「僕からすれば君の方が羨ましいよ」

「そりゃ隣の芝生は青いと思うやつだろ」

「かもね」


 自分の持ってない能力は羨ましく感じる。

 小さい頃から神童と言われた晴人の能力が輝かしいのはいつものこと。

 それが頭ではわかっているけど悔しいのは別なんだよな……。


「まあ、そんな事よりもこれからどうする?」

「この口ぶりだと大体確定しているよね」

「まあなー。てな訳でココのダンジョンにいくぞ」

「ですよねー」


 学園の廊下から玄関口に移動する間に話がまとまった。

 僕達は外靴に履き替えた後、本題であるダンジョンに潜るために学園内にある受付に向かう。


 ーー


 葉隠学園のダンジョン出入り口は鋼鉄の門に閉ざされており、近くには万が一のために守衛さんがいる詰め所がある。


「入学初日なのにダンジョンに潜るんだな」

「先に現場を知った方がいいと思いまして……」

「そりゃいい心がけだな!」

 

 はい、入場許可はおりました。

 守衛さんからコチラの学園証を返してもらうと、目の前の鋼鉄の門がゴゴゴと音を鳴らしながら開き始めた。


「さあ派手にいってこい!」

「「はい!」」


 本当はダンジョンに入りたくないけど相棒晴人を悲しませたくないから頑張るか。

 ガチガチと震えそうな気持ちを受け入れつつ、笑みを浮かべる晴人と共にダンジョンの中に入る。


「ここのダンジョンも明るいね」

「うーんでも、中等部のように天井は明るくないぜ」

「あー……」


 高等部のダンジョンは洞窟タイプ。

 中等部の時は草原タイプで天井が明るかったが、ココは壁際にある石が光っている。

 この差で戸惑っていると、洞窟の奥からカサカサとした後が耳に届く。


「さっそく魔物グリードのお出ましか」

「えっ」


 まだ入って五分も経ってないけど?

 本人の背丈ほどある両手剣を勢いよく引き抜く晴人と、反射的に腰から短剣を引き抜く僕。

 二人で奥を警戒していると、出てきたのはガイコツ……理科室とかに置いてある骨格標本みたいなやつ。


「あれは有名なスケルトンだね」

「ほうほう。あ、シャインボルト!」

「……魔法を使うなら武器を抜く必要はなかったかな?」

「それオレも思った」


 やっぱり。

 せっかく武器を抜いたのはいいけど、晴人の光魔法の弾丸でスケルトンは粉々に砕け散る。

 地面に落ちた骨は煙になって消え去り、地面には紫色の石・魔石がコロリと落ちた。


「とりあえず回収しておくよ」

「おう!」


 この魔石だと三百円くらいかな?

 初手としては悪くないので、僕は拾った魔石を素材袋に入れて腰に戻す。


「この程度の魔物ならガッツリ奥に進むか?」

「いや、まだ初日だし現場の情報を集めたいかな」

「了解」


 晴人がいれば戦闘面はなんとかなる。

 僕がやることは情報集めと警戒なので、僕達は中等部時代と同じ役割をやっていくのだった。

 


 

 



 

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