最強を率いる最弱リーダー〜弱々な僕の周りには勘違いで最強が集まってしまいます

影崎統夜

第1話・舞い散ったのは桜じゃなくて校長のカツラでした

 桜が舞い散る四月の上旬。

 日本の中部地方の大都市・鯱海しゃちうみ市にある葉隠学園。

 ここは世界各地に存在するダンジョンを探索する冒険者を育成する学園なのだが、高等部の入学式なのに死んだ魚のような目を浮かべているやつ……窓ガラスに映る僕じゃん。


「相変わらず裕太ゆうたは目が死んでないか?」

「僕の目が死んでいるのは昔からだよ」

「確かにそうだった」


 ほんと晴人はいつも通りのテンションだな……。

 隣に座っているのは金髪サラサラヘアーでアイドル顔負けの顔面偏差値を持つ神阪晴人かみさかはると

 中等部自体の筆記・実技共に一のトップで学園や周りからは十年に一度の神童と呼ばれている。


「まあ、僕の目よりもなんで晴人が隣にいるんだ?」

「そんなの同じクラスで出席番号が隣だからだろ」

「ソユコトじゃないんだけどな……」


 壇上で行われている新入生代表の挨拶。

 本来であれば成績一位の晴人があそこに立つはずが、本人は僕の隣でのんびりしている。

 

「ん、ああ、新入生の挨拶は断ったぞ」

「それっていいのか?」

「中等部の時もそうだったし大丈夫大丈夫」

「だといいんだけどね」


 挨拶が終わった新入生代表の女子生徒が、コッチを睨んでいるんだよな……。

 火種が少ない方がありがたいけど多分無理そう。


 うん、嫌な予感がすごいする。

 弱者の自分が冒険者学園に進学できた理由の危機探知能力。コレがピキーンと反応しており頭がズキズキしてしまう。

 うん、気持ち悪くて吐きそう。


『新入生代表・炎城由香えんじょうゆかの挨拶を終わります』

「ああ、やっと終わったか」


 パイプ椅子に座りながら背伸びをする晴人。

 自由人のコイツに突っ込んでも仕方ないし、目立つことはしたくない。

 気配を消すように黙っていると、壇上にたったままの赤髪の女子がコチラを鋭く睨みつけてきた。


『本来であれば主席の神阪君がこの場に立つはずなのに次席のわたしが新入生代表として挨拶することになりました』

「な、なんかややこしいことになってない?」

「いつものことだろ」

「やっぱり……」


 嫌な予感が的中したよ。

 戦闘面の成績が下の中の僕には壇上に立つ赤髪女子の視線が怖い。

 ただ隣に座っている晴人はどこ吹く風と思っているのか上手く受け流している。


『神阪君は新入生代表の挨拶よりもの方が大切みたいですね』

「よし、アイツぶっ殺すわ」

「待って待って!?」


 殺気がヤバすぎるだろ。

 晴人から放たれた殺気に周りに座っている生徒達がガクガク震え始めるが、本人は獰猛な笑みを浮かべながら膨大な魔力を放ちながら壇上を睨みつけた。


「静粛に! 炎城さんは煽らない! 神阪君も魔力を放出しないでくれ!」

『わたしは正論を言っただけですよ』

「オレはたた魔力を放出したかっただけですよ」

「今は入学式だから互いにやめてくれ」


 教頭先生のお陰でなんとかなったのか?

 魔力放出をやめた晴人と悪魔のような笑みを浮かべる炎城さん。

 ほぼ初対面っぽい二人だが、今回の件で溝がさらに深まった感じがする……ん?なんか飛んでない


「わたしのカツラぁ!?」

「「「え?」」」


 空中に浮かぶふさふさの髪の毛。

 校長先生の頭がかわいそうになっている中、この場を建て直すために教頭先生がマイク片手に叫んだ。


「入学式を進めるから炎城さんは元の席に戻ってください」

『わかりました』


 持っていたマイクを近くの先生に渡して壇上から離れる炎城さん。

 その時に鋭い瞳で睨まれたので、思わず漏らしそうになってしまう。


「あのアマ、決闘になったらぶっ潰してやる」

「せめてルールは守ってね」

「もちろん」


 冒険者学園は戦闘力が重視される場所。

 戦う事が苦手な僕が見下されるのは理解できるが、それはそれとして炎城さんの言い方はムカつく。

 理解と気持ちが揺れる中、場を立て直した先生方が入学式を進めていく。


「あ、カツラが墜落した」


 校長先生のカツラはひらりと地面に落ち、そのまま近くの先生が回収。

 いたたまれない空気感が体育館を支配しているので、僕は頬をひきつらせながら目を逸らす。


 ーー


 多少のトラブルがあった入学式終わり。

 僕達は配属された一年一組の教室に戻り、担当の女性教師の指示で自己紹介が始まった。


「次は神阪かみさか君お願いね」

「はい。オレは神阪晴人、学年ランクはAで好きな物は相棒である裕太と勝つことです。これから一年よろしくお願いします」

「えっと、他には何かないのかな?」

「ないです」


 ちょい、その言い方だと誤解されるよね!?

 キメ顔で自分の席に座る晴人と、イケメンフェイスに頬を染める女子達。

 担当の女性教師は戸惑っているが、割り切ったのかため息を吐きながら言葉を発した。


「じゃあ次」

「は、はい。僕の名前は黒羽裕太くろばねゆうた、学園ランクはEです。好きな物は甘い物で、これから一年よろしくお願いします」

「じゃあ次」


 晴人の時と反応が違うな。

 まあ、金髪イケメンの晴人と黒髪モブの僕は激しいのは知っているが露骨すぎる。

 ただ言い返す勇気もないのでモヤモヤしながら、自分の席に座っていく。


「あんなやつが晴人様の隣にいられるのは羨ましいわね」


 クラスの女子が呟く声が胸に刺さってしまう。

 この言葉にクラスメイト達は頷いているが、晴人本人は呆れたようにため息を吐いた。


「こりゃダンジョンにいた方が楽だな」

 

 おおう、それをストレートに申すか……。

 確かにクラス内にいても神経を使うのは僕も同じだけど、露骨に嫌うのは相変わらずだね。

 そう思いながらコチラに敵意を向けている人達の顔を覚えながら、僕は警戒度を上げるのだった。

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