天皇暗殺

私の名は白鷺凛しらさぎりん。天皇陛下を影で支える秘密結社「八咫烏やたがらす」の一員だ。普段は大手IT会社の社員として働いている。一部の者しか組織の構成は知らされず、私もまだ下っ端だから詳しい情報は与えられていない。今晩は天皇陛下と八咫烏の幹部たちが皇居の秘密の地下室で会合を行っていて、私は警護を担当していた。


ー鷹村が目を覚ます5時間前ー

「今回の会合、ずいぶん急に決まったよな。」

「そうだな、私たち下っ端には何にも教えてくれない。ちょっとくらい教えてくれてもいいのにな。」


私は組織唯一の同期、黒島朔くろしまさくとと二人で皇居別館の外の警護を行っていた。

「朔、フードをもっと深くかぶれ、この辺は人も多い、顔を見られたらどうする。」

「せっかくの満月が良く見えないじゃーん。」

八咫烏のメンバーは全員黒のローブを着ている。我々の存在は原則として一般人に知られてはならない。私たちに戸籍は存在せず、この名前も偽名だ。


「っっっっ!?なんだあいつ!」

朔が指す方向に目をやると右手に血を付けた黒いローブの何かが高速で皇居の外に向かい走っていた。


「あいつ、会合が行われている本館の方から走ってきたぞ、まさか陛下が!?」

私は一瞬で足に力を籠める。八咫烏は神武天皇がいる時代に発足した組織だ。その頃伝えられた呪術を我々は特殊訓練で習得している。その基礎が呪術による身体強化だ。


「凛!!!」

「私が追う、お前たちは周辺の警護を!」


本館の警護を任されていたメンバーも別館前に集まり始めるが、敵の仲間が潜んでいる可能性を鑑みて私一人で追うことにした。


私を凌駕する速さで皇居の塀を超える。


(っ・・・!?)


私が塀を超えて着地する瞬間、一瞬だが男に姿を見られた。歳はおそらく私と同じくらい。


(まずい、見られた!)


私は一瞬迷ったが、朔がこちらに来ているのが見え、敵を追うことにした。


「何なんだよ、一体・・」

「あ、見ちゃったか。ごめんね。」


私は敵を見失い朔と気絶している男の元に戻った。

「くそっ、見失った!」

「とりあえずその男を一目につかない皇居の一室に移そう、俺達がこの男に姿を見られたことを上層部に知られたら処分は免れない。凛ちゃん手伝って。」


朔が男を担ぎ、別館にある書斎に運んだ。

私は念のため男の口を塞ぎ、手足を拘束した。


「緊急招集、烏たちは本館ロビーに集まれ。」

外から招集の号令がかかる。


「この男はしばらくは起きないはずだ、ロビーに行こう。」

朔と共にロビーに向かい、顔が見えない幹部に私たちはこう告げられた。


「天皇陛下が殺された。」


私の頭はすでに一杯になっていた。

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