天津日高日子波限建鵜草葺不合命

伴天連(ばてれん)追放令

「恋話も結構だけど、わたし好きな時に斬りかかるからね! 維新志士の味方してるって事は、先輩目立つし時間稼ぎかもしれないし!」

 構えもせず、刀で右肩をポーンポーンと叩いてる桜雪さゆが非情な宣言をする。

「日本人の奴隷化行ったんだから、南蛮と手を結んでる奴は警戒されて当然でしょう! 『日本人の奴隷化』を食い止めた豊臣秀吉はマジ偉い! まじまんじ~

 豊臣秀吉が伴天連(ばてれん)追放令しなかったら、ポルトガルに裸に向かれた日本のお姉さんいたよ。ポルトガル人による奴隷貿易で5万人の日本人が国外に連行されたからね!


 なぜ熱心に日本の人々をキリシタンにしようとするのか。

 なぜ神社仏閣を破壊し、坊主を迫害し、彼らと融和しようとしないのか。

 牛馬は人間にとって有益な動物であるにもかかわらず、なぜおまえたちはこれを食べようとするのか。五穀野菜でいいじゃないか。

 なぜポルトガル人は多数の日本人を買い、奴隷として国外へ連れて行くようなことをするのか


 答えてよ、先輩。

 豊臣秀吉がガスパール・コエリョに怒りの表情でした質問、アンタも応えてよ先輩!

 でも追放令って言ってもやさしいけどね、ひでよしちゃん」

 雪女だからか、地上の地位など気にも留めない桜雪さゆ。

「交易やキリスト教の信仰自体を禁止したわけではなかった。

 宣教師たちを皆殺しにどころかまあ傷1つつけなかった。

 これ西洋の歴史みるとすごーいやさしいよ。

 スキタイなんてどれだけ暴れたか! ヘロドトスみてみなよすごい事書いてある。

 アッシリア帝国なんてこわいことしまくりだからね!

 ユーラシア大陸宗教で虐殺起きすぎだもん。

 日本はこんなにやさしい。

 西欧人たちが胸に秘めた日本侵略を豊臣秀吉は読み取った。

 まあ、コエリョが秀吉スペイン艦隊に乗せて

 『俺はスペインの無敵艦隊いつでも動かせるからな、どうなるのかな~無敵艦隊に囲まれた日本、どうなるのかな~ねえ秀吉ちゃん、どうなると思う~~~~っ』

 て恫喝ぎみに語った。この瞬間、秀吉はこいつら日本を植民地にするつもりだって見抜いたのよ。

 あと土地も奪われ始めていた。日本の大事な国土が西欧人たちによってね。

 キリシタン大名の大村純忠は自分の領地だった長崎と茂木を、有馬晴信は浦上の地をすでに外国人にあげちゃった。アホ。

 宣教師を送り、続いて商人、最後に軍隊を送って国を乗っ取ってしまうという西欧列強お得意の植民地化計画。それに気づいた豊臣秀吉の爪の赤でも煎じて飲めよ先輩!」

 雪女の二三枝ふみえは、言いたい放題いう桜雪さゆに肉食動物のような歯を食いしばった顔を向けている。

「まあなあ。オレは座学は苦手だけど豊臣秀吉とか徳川のいい所は頭に入れているつもりだぜ」

 永倉新八がうめく。

「日本人の貧しい少年少女が大勢、タダ同然の安さで西欧人に奴隷として売られていることを秀吉は九州遠征で知ったんだけどさ。アレひどかったらしいぜ?

 日本人数百人単位で、男女問わず南蛮船に買い取られ、獣のごとく手足に鎖を付けられたまま船底に追いやられた。

 蒸し暑いし体冷やすもんなんてないし。厠もないから男も女も隣同士でウンチしっこ垂れ流し。

 地獄よりひどいわ。

 その上、牛馬を生きながら皮を剝ぎ、宣教師も手を使って食し、親子兄弟も無礼の儀、まさに畜生道の様子……そりゃ豊臣秀吉も怒るわ」

 水鏡冬華も永倉新八に受け答えをする。

「永倉さん。海外に出た西欧の商人にとって有色人種の奴隷交易はなんら恥じることのない商取引らしいですね。

 わたしたちは豚と同じだと言われたことありますよ。わたしめんと向かって。

 腹立ったから海に突き落としたけどその外国人。

 これはそもそも、1452年にローマ教皇がポルトガル人に対し異教徒を奴隷にしてもよい、という許可を与えたことが根底にあると聞いています。

 豊臣秀吉にコエリョは『売る人がいるからしょうがないじゃーん』日本人豚と同じように売れるんだも~んっていったらしいです。

 こんなの怒らない方がおかしいですよね永倉さん」

「怒らなければ肝ったまねえよ」

 鼻で笑いつつ、永倉新八がうめく。

「で、答えは? 先輩」

 桜雪さゆが刀でポーンポーンと右肩を叩きながら再び聞く。

「結局色恋の事だけで頭ハートになっていいように操られているのが先輩なのよ、おわかり? 下半身でものを考える先輩?」

 グルルルル、と唸りだしそうな顔の雪女の二三枝ふみえ

「じゃあ、星見ほしみ新右衛門しんえもんさんは殺されて、それが正しい道っていうの!? 新選組に殺されてめでたしっていうの!? おかしいよそんなの!! おかしいよ!!」

 目に涙を浮かべる雪女の二三枝ふみえ

「いや…………、そういう観点で見ないで欲しいんだけど……。わたしそんなこと言ってない……何でもかんでも恋人基準で話進めないでよ…………」

 桜雪さゆが困ったように呟く。

「じゃあ、頭冷やすついでにちょっと運動しよっか先輩。わたしを八つ裂きにしたいって顔に書いてあるし」

 未だに構えもせず、刀で右肩をポーンポーンと叩いてる桜雪さゆ。左手で来いのジェスチャーをするさゆ。

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