黒竜閃春月vs龍飛剣
「もももーん ももももーん」
さらに桜雪さゆがよくわからない鳴き声で鳴いている。どこからか聞きつけたのか、新選組の平隊士まで見に来ている。
そんな十二単を着た髪の色もピンクのセミの鳴き声をよそに、巫女装束の女――水鏡冬華は永倉新八に斬りかかった。
「はじまるぞ。永倉新八さんと水鏡冬華ちゃんの勝負」
ギャラリーの新選組平隊士からそんな声が聞こえる。
彼女は正眼の構えは取らなかった。
左の脇構えで攻める。水鏡冬華は斎藤一と同じ左利きだ。
「黒竜閃――春月!」
脇構えからのフェイント効果も強い回転斬りで攻める。
回転で袴もフワリと回転しながら浮き上がる。
水鏡冬華の素足が、女にしては鍛えられた太ももが丸見えになる
「大人しめな御構えなれど実のところその胸と足、おぬし妖艶きわまっておいでか! 冬華ちゃーん! あいやしばらく! 拙者貴殿が愛しいのでござる! 拙者の子を授けてくれぬか! おぬし妖艶きわまっておいでか!」
などという声が新撰組平隊士のギャラリーから上がる。
(気が、散る!)
冬華は心の中で罵っておいた。
相手が達人であればあるほど剣が無数に見える。読みで動く剣客ほどひっかかる技である。
逆に虎など野生動物なんかは引っかかりにくい。
(だから新選組だと、野生で余り動いてないような土方さんや斎藤さんには通じると思う、でもがむしんと言われるほど野生が強い永倉さん、沖田さん、原田さんの3人には春月破られる可能性が高い――けど――!)
つまり、相手の技量を逆手に取る――言ってみれば無拍子と同じ、切り札である。春夏秋冬のうち、黒竜閃――春月は。
脇構えからの対達人用フェイントの回転斬り。
達人であればあるほど、無数の剣気の花びらに惑わされる。桜の花びらに見惚れてしまう。人が花見をして桜の下でお酒を飲むように。
対鬼用の剣術、水鏡鬼神流で、一番対人間用の技だった。
「これは――!」
無数の刃の花びらに囲まれて、それ以上永倉新八は言葉を紡げなかった。
(死ぬ)
永倉新八は逆袈裟気味に自分の首が刈り取られてスポーンと吹っ飛んで行くイメージに捕らわれた。
ニヤャアッ。
だがここからが永倉新八の本領である。
永倉新八は女の手で繰り出された池田屋でも見なかった華麗な剣技に目を奪われ、歓喜に支配された。
逆境になると意識がよりはっきりとし、笑えてくるのだ。
言葉に意識を向けるなんかより、全集中して類稀なる剣術を捌きたい! その欲求が勝ったからである。
ヒュッ――――!
(右か左か後か。おいおい、目に頼ってたら前後左右上下から花びらに撒かれたような感覚に陥るぜ)
永倉新八が本能で選び取ったのは前進。八相の構えで行く。
(見えた!)
唐竹――否
左一文字――否
左袈裟斬り――否
左逆袈裟斬りだ。
(いや!)
逆風だ。
刃の桜の花びらを押しのけて、水鏡冬華の太刀筋がようやく見えた。
(逃げる?)
刀のよけ方としては下がってよけるのが一般的だ。
(だが――)
相手は脇構えからのフェイント効果も強い回転斬りで来ている。
(この踏み込み、下がった程度じゃ避けきれねえな)
と判断した永倉新八。
じゃあどうする。
(刀で受け流す。が――)
この勢いの斬撃。普通に受けただけでは刀身ごと自分の命もへし折られる。
本能で永倉新八はそう感じた。
(流すにゃあ――相手の斬撃を正確に把握)
左逆袈裟斬りを逆風に訂正しなきゃ、刀へし折られて命ごと刀身も持ってかれた。命はなかった。
永倉新八はそう素直に認める。
永倉新八は構えを八相の構えから一瞬で下段の構えにもっていき、相手の太刀筋に合わせていく。
(相手の必殺剣を反らす!
軌道ずらし!
角度を抑え!)
冬華の刀を反らし、相手の刀を抑えつつ斬り上げる、そこからさらに斬り下ろす、龍飛剣の態勢に入った。
「…………参りました」
さすがに仲間を殺しはしない。途中で剣を止める。ましてや化粧なしで、すっぴんでべっぴん&おっぱいが大きいという神クラスの巫女だ。もったいない。
その場にくずおれる冬華。
(柔術の崩しと同じね……永倉さんの龍飛剣。だから腕力はそこまでいらないけど、刹那の見極め、センスが必要になるわ。剣で崩しを行おうとすると。達人程、わたしの剣気により刃が360度どこからでもやってくるように見えて戸惑う、達人用のメタ技、
重心集まると言えば、脇。脇は上半身の重心が集まっている所、相手の力が入り込んでしまうと肩を浮かされてしまうこと、つまりは全重心をコントロールされてしまう。
肩を浮かされてしまうことがまずい。
柔術で重視されるのは崩し、作り、掛け
相手を崩すには、変化を与えることで、それに相手が対応できずに崩れる
この場合の変化。自分のリズムを相手の体に伝えて相手のリズムを崩す。
でも柔術ならさゆには通じないわね。龍飛剣、妖怪雪女のさゆには意味をなさないわ。手も足も首も胴体も体アタッチメントでそれぞれ遠隔操作できるし、あの子)
「まさか剣術で柔術されるとは思いませんでしたよ」
そう分析するくずおれた冬華を見下ろしつつ永倉新八は
「ふうっーーーー」
と息をついた。
「いや実際なあ、危なかったぜ! 俺きられてもおかしくねーって思ったもん自分が斬られた想像しちまったからな。黒竜閃春月見たときさあ。
あれ達人ほどハマる技でしょ! タチ悪い技もってんねー! 冬華ちゃん。大口叩ける実力があるの今俺が剣で確かめたわ。あれは新選組でも受けきれるやつぁそうそういねえぞ!」
刀を鞘に納めつつ、永倉新八は冷や汗ともにそういった。
オオオオオー!
と二人の勝負に見惚れたギャラリーが湧きたつ。
拍手まで沸き起こる!
「立てるかい?」
永倉新八はそう言って水鏡冬華に右手を差し出した。水鏡冬華は、その手に自分の手を重ねつつ、
「親指……池田屋事件の時の傷、やっぱり傷は残りますね」
「動きゃ上等よ! 動けばな!」
「ふっ、もう…………あなたのお嫁さん苦労しそうですね」
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