ももももーん
「ももんもんもーん ももももーん ももももーん」
桜雪さゆのよくわからない鳴き声が神社の境内に響き渡る。
さゆの視線の先には、巫女装束の水鏡冬華と浅葱色の男、永倉新八が互いに剣を向けて隙を窺ってる光景があった。
「なあ、冬華ちゃん。あんた、田中新兵衛、河上彦斎、岡田以蔵、中村半次郎のどれとならやれる?」
永倉新八が面白がる顔をしてそう尋ねる。
先程、彼が挙げた名前は、幕末の四大人斬りである。今京の都を恐怖で震え上がらせている元凶である。
「…………別に。全員に勝てますよ」
「すっげー大口叩いてんの分かってる? 女でその生意気さ!
俺は好きだけど、かわいい顔してそこまで生意気だといじめてやろうって突っかかる男も出てくんゼ!」
「別に。わたしは客観的な事実を述べたまでです。
ああ、勝てるって言ったのは1対1ですね。2体1以上ならわたし負けますよ。さすがに」
「ぷっ、それでも、生意気…………くっくっくっ。
それじゃあ御用盗も全部斬ってくれる? そこそこできるやつが集団で押し込み強盗――御用盗が夜中にくるのが今の京都だ。
俺たち新選組は京の皆が枕を高くして眠れるように見回ってんだ。その大口が本当なら、俺らの仕事も楽になる」
「だから、一緒に見回ってるじゃありませんか」
「まあな。実際すごく助かっているよ女だてらにあそこまで勢いよく刀ぶんまわして、すげえと思うわ。俺の目で判断したところ、冬華ちゃん。アンタ間違いなく隊長格だぜ」
本心から水鏡冬華を褒める永倉新八。
「それより、親指大丈夫なんですか? 永倉さん。池田屋事件で負傷なさった指」
「もうあれから何回おてんとうさまがのぼったと思ってるんだい? 治ってるよ!」
「ならよかったです。神道無念流、免許皆伝の永倉さん。水鏡鬼神流の水鏡冬華。行きます」
維新を数年遅らせたといわれるこの事件で、新選組は松平容保から功績を称える賞状とボーナスをもらった。
新選組の駐屯所が京都の壬生にあったことから、泣く子も黙る「壬生の狼」と呼ばれ始めたのは池田屋事件である。
そして水鏡鬼神流。歴史には記されていない剣術である。
だって、この剣術は対人の剣術ではないから。
竜神闇霎に手ほどきを受けたこの剣術。
水鏡鬼神流剣術(みかがみきじんりゅうけんじゅつ)
本来は足技と
元々竜神が人間変身した時に使う剣術だが、水鏡一族は江戸時代頃から呪禁を竜神レベルで扱える者がほぼ完全に消えていたため、この剣術を完璧に扱える者はいなくなっていた。つまり鬼斬り、鬼特攻の特性なしの普通の剣術と化していた。
だが、幕末に水鏡一族の最後の生き残りの冬華が竜神闇霎から呪禁道を基本から覚えなおしたため、水鏡鬼神流を再び完璧に扱える水鏡一族として完全復活を果たす)
素人目には、『ポン刀を持って飛び蹴りする剣術』に見える。大体あってる。
女の筋力で丸太のように太い腕をした男の剣客に勝とうと思ったらそういう感じになったようである。刀を止められた瞬間に蹴りを相手にぶち込んで吹き飛ばすとか、刀を止められた瞬間に霊力を込めた蹴りを全力で自分の刀にぶち当てて、自分の刀ごと敵を押し込んでなぎ倒して、広範囲を霊力のエネルギー波で爆裂粉砕するとか。こうなるとむしろ刀の斬撃は囮になることも多い。
このように、鬼、化け物、魔物、だいだらぼっちのような巨人、直径数十kmの隕石そのもの等、単純な腕力では敵わない相手にどうやって勝つかに主眼を置いた剣術である。
はっきり言って、対人剣術ではない。
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