新選組に挑戦する竜神の巫女

永倉さん、妖怪退治は陰陽師にでも任せたらどうですか?

 1864年の夏ごろの日本。

 文久4年。巷では池田屋事件の事で盛り上がっている。

 しかし、浅葱色の男たちの間では、徳川家茂の事と、浦賀に入港しようとしたジェームズ・ビドルの話題で持ちきりであった。

 新選組の平隊士が一人の紅白の女を中心に置いて集まって雑談に花を咲かせていた。

「でもよ、こうも南蛮人の船が来ると、後手に回りたくないって気持ちも膨れ上がってくるよなぁ。なんだっけ? ジェ、じぇむず、びどー? 何かそんな名前の南蛮人きたそうだぜ。アゴでけえの。刀で南蛮人の船斬ってやりたいっすねー」

「やめときなさい。戦列艦よ、戦列艦。クリッパーとかジーベックとかガレオンじゃないのよ。

 わたしでもあれくらったら一撃で爆破しちゃうわよ。それが50門以上搭載されてんの。まずは造船技術伸ばすのが先じゃない?」

 と、巨乳の紅白の女がそばを食べるのを中断して右手をヒラヒラ振る。

 巫女装束でも胸の大きさがはっきりわかるという恐ろしい現象を見せてくれる、男の視線を集めている巨乳の女の名前は水鏡冬華。

 竜の血を得た女ともっぱらの噂だ。

 元々田舎、というか山奥の巫女の村で暮らしていた女だが、維新志士に村が襲われ、彼女だけが生き残ったとの噂である。

 彼女の家族も彼女の目の前で維新志士のせいで死んでしまった。

 そんな女が新選組と行動を共にし、剣術の腕をぐんぐん上げている。

「でもさ、水鏡さん! 永倉さんと水鏡さんなら戦列艦なんとかできそうな気がするんですけど。

 水鏡さんなんて竜の血を得てるって噂ですよ! 闇霎くらおかみの血!」

「買いかぶり過ぎよ。とにかく地面じゃなくて海だからね。下が。剣が振るえない状況ってのが多いから、永倉さんでも苦労するでしょ船を剣で解体なんて。

 ねえ天然理心流の沖田さん。沖田さんからも一言言ってくださいな」

 水鏡冬華は、隙のない歩き方でよってきた沖田総司にそう話題を振る。

「え? 何ですか? 船を剣で割るんですか? まあできたら夢溢れる光景でしょうけどねえ、あはは。僕でも無理かなーそれは。竜神ならできるかも! それか僕よりすごい日本武尊やまとたける出雲建いずもたける

 沖田は笑いながらそういう。

「出雲さんならできるわね。オウス君はどうかなー無理じゃないオウス君は出雲さんならできる」

 と自信をもって断言する水鏡冬華。

 日本武尊やまとたける出雲建いずもたけるも1500年以上前の人物だ。それを水鏡冬華は近くで見たような距離感で話す。摩訶不思議だ。

 それを聞く沖田に近所の子どもが数人

「遊んでー沖田のにーちゃん。遊んでー」

 と、くっついている。

「あんた、自らの蓄えている力に無知すぎ~。半竜。

 霊気出せって、霊気の出しかた、やり方学んだでしょーあんた、天津日高日子波限建鵜草葺不合命あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみことからさ。

 あんたならエネルギー波で一撃で飛ばせるって、戦列艦ごとき」

「あんたねえ……そういう神の領域の力で下界をひっかきまわすの前も天津日高日子波限建鵜草葺不合命あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみことに改めて禁じられたばかりでしょー! そういうこと言わないの。アホ女」

「アホじゃありませんーーーー! 春女ですーーーー!」

 春をイメージした十二単を纏った女、炎にも親しいという妖怪雪女の突然変異、桜雪さゆがわめきたてる。

「俺はこっちの方が興味あるねえ」

 そう声を出したのは永倉新八である。瓦版を持っている。

「京の都に雪女出たり。雪女は武士の真似事をして氷の刀で夜な夜な斬っている! 白い雪女装束は紅白に染まったり!」

「雪女ねえ…………」

 そばを食べ終えて、水鏡冬華は永倉新八の後ろから彼の持つ瓦版を見る。彼女の巨乳が永倉新八の後頭部に当たる。

 そして水鏡冬華は流し目で十二単の雪女を見る。

「ねえ。あんた…………」

「わたしじゃないって! わたしウガヤ様からすっげー釘刺されてんのよ! スーパーナチュラルな力使うの正当防衛の行動以外で禁止って」

 と、そこで桜雪さゆは水鏡冬華に耳打ちする体制に入る。

「カタカナ語使って……」

 と、水鏡冬華はうなる。

「雪女は、『水火相入るみずひあいいる』の極意の如く、例外除いて全員、炎が得意な木花咲耶姫このはなさくやひめ様の配下だから調べればわかるから、それはわたしの調査待っててよ!」

「わかった」

「新選組のみんなもアンタが抑えててね!」

「ちょっ、それは……! できるかどうかわかんないわ!」

 そういいつつ、水鏡冬華は永倉新八にこう言葉を投げかけた。

「永倉さん、妖怪退治は陰陽師にでも任せたらどうですか?」

「巫女が言うんかい」

 と永倉新八は何の気はない様子で返した。

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