春を待たずに散る決意をする雪女
でてこい、木花咲耶姫のいう事すら理解できない雪女よ
ある夏の夜。
京都の治安の維持のため、夜に出歩く武士がいる。
原田左之助が永倉新八に声をかける。
「がむしん、今日お前の番だっけ見回り」
「おう、ちょっと行ってくるわ」
軽く手を上げ、永倉新八がそう返す。
「ん? あれ、巫女さんも見回り? 水鏡さん」
疑問に思い、原田左之助がうめく。水鏡冬華は『刀を右の腰に差し』て、振り向き、
「ええ。永倉さんと一緒に見回ろうと思います」
「えー。大丈夫かね。今の京都は妖怪ですら逃げ出す魔境だぜ」
「じゃあわたし向きじゃありませんか。わたしの竜の血有名になっちゃいましたから」
と、水鏡冬華は自分を指さす。
「はっはっはっ――――違えねえ。ま、気をつけて」
原田左之助はそう気楽な調子で送り出す。
「はい、ありがとうございます」
水鏡冬華は丁寧に返した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
平隊士も引き連れて見回っている最中、見知った姿を見つけた。
道のど真ん中で突っ立っている。十二単が。幽霊かとも思わせる雰囲気だ。いつもの能天気な彼女と違う。
「なんだ。さゆちゃんじゃん」
永倉新八が言葉を漏らす。
「さゆ…………」
あだ名で春女と言われている春物の十二単の妖怪雪女だ。
「冬華。わたしもついていくわ」
その眼は冷たい。ぎゅっときつい目つきをして。いつもの能天気な彼女とは違う、冷たい目。
(あぁ、そういえばこの子も雪女だったんだ)
桜雪さゆの冷たい目を見て、水鏡冬華はそれを再認識した。
そうしてその後歩くは、4町(大体400mくらい)ほど。
ビュンッ――――
さゆが氷柱と火柱を同時に前の暗闇に投げる。
「でてこい、木花咲耶姫のいう事すら理解できない雪女よ」
さゆがいつもの口調とはかけ離れた冷たさで闇に問いかける。
と、闇に人型の白が浮き上がった。
いうまでもない。雪女だ。
正眼の構えで刀の切っ先をこちらに向けている。
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