第10話 第3回戦
「次の対戦相手はこのあたし、クリスタルよ!」
マジかよ。
俺は対戦表を見る。
たしかに、俺はクリスタルという人間と戦うことになっている。
「これは失礼。
対戦相手にはあまり興味が無くってね。
すべて倒せばいいだけのことだから。」
そう。強すぎるチカラを持った俺にとって、対戦相手のことなどどうでもいい。
入学試験に出てくる相手などたかが知れている、と思っていた。
だが、勇者相手となると話は別だ。
歴代勇者には、言葉を解する武具が一つ授けられるという。
その武具が何なのかは知らんが、そいつが絶対に厄介なのだ。
「勇者さん、伝説の武具って何なんだい?」
俺はそれとなく聞いてみた。
「馬鹿ね、教えるわけないでしょ!
戦ってみてからのお楽しみよ!」
でしょうね。
教えてくれるわけないか・・・。
そうこうしていると、司会から声がかかった。
「次はクリスタル選手、ツグク選手です。
アリーナ内に進んでください。」
俺たちは司会の案内でアリーナ内に進んだ。
「さあ、お次はクリスタル対ツグク!
勇者の試合は必見!!!
レディーファイト!!!」
さあて、勇者相手かあ。
気が滅入るぜ。
そもそも、こいつがスキル持ちなのかどうかもわからん。
歴代勇者の中にはスキル無し出身者もいたらしいしな。
それでも、伝説の武具のおかげで全然強かったらしい。
とりあえず、パンチ一発かましますか。
「スライムパンチ!!!」
「クリスタル!
このパンチはまずい!
俺が受ける!!!」
なんと!言葉を解する武具がしゃべった!
武具がそう言うと、勇者の腰のあたりから布が出てきた!
そして、その布が俺のパンチを受け止めた!
「な、なんだこの布は!?」
すると、布がしゃべりだした。
「俺は伝説の武具・パンテオンという!
伝説の勇者のパンティだ!!!」
「パパパパ、パンティ!?」
俺は耳を疑った。
どういうことだ!?
伝説の武具って普通、剣とか盾とか鎧だろう?
それが、パンティだと!?
「ぷぷ、なんて装備していやがる!」
俺は笑いをこらえるのに必死だった。
「パンテを馬鹿にしたな!
この無礼者め!
お前は私が倒す!」
おっと、勇者を怒らせてしまったな。
すると、パンテオンがいさめる。
「まあ落ち着け、クリスタル。
こいつからは少しだが、魔のオーラを感じた。
何か怪しげなスキルだ、気を付けろ!」
なに!?
魔のオーラだと!?
まさか、ムイラの存在に気付き始めているのか!?
それはマズい・・・。
すると、ムイラが俺に耳打ちする。
「父さん!まずいよ!
私の攻撃が弱化されてるの!
きっと、伝説の武具の効果で、魔物の攻撃を軽減するのよ!」
マジかよ、まいったなあ。
天敵じゃねえか、勇者。
「わかった。
じゃあ、あの布はお前が止めててくれ。
止めるだけでいい。
その間に俺が勇者を叩く!」
あの勇者、剣だとか盾を一切持っていない。
きっと、パンティ頼りなんだ!
本人はまるっきり弱い!
俺はそう予想し、勇者に向かって突っ込んだ!
すると、パンティが俺を止めに入る。
そこをムイラが阻止する!
「父さん!いまよ、行って!」
「うおおおお!!!」
ムイラのチカラを借りていない、俺自身の全力のパンチ!!!
ぽすっ。
俺の全力パンチは勇者にいとも簡単に止められた!
「あははは!
それで全力?弱すぎ!」
そして、俺は勇者にお返しのパンチをされた。
ドスっ!
すかさずムイラが俺の代わりにパンチを受けてくれたため、なんとか無傷で済んだ。
「あら?思ったよりも頑丈ね。
そのスライム状の液体が無いと、あんたはてんで雑魚みたいね。」
くそう、俺のスキルがバレちまっているようだ。
うーむ、まいったな。
これ以上戦っても、ムイラの存在がバレる危険性もある・・・。
俺は考えに考え抜いた。
その結果・・・。
「降参だ。降参する。」
「はああ!?あんた、バカなの!?
戦いはこれからじゃない!!!」
「ブーーーブーーーブーーー!」
会場からはブーイングの嵐。
「今の俺じゃお前には勝てん。
それだけのことさ。」
そう。『今』の俺にはな。
いろんな魔族と交尾すれば、もっと強大なチカラが手に入る。
そのときまで首を洗って待っているがいいさ、勇者!
「え、ええ、コホン。
ブーイングの嵐ではございますが、降参も作戦のうち!
よって、勝者はクリスタル選手ーーー!!!」
「ブーーーブーーーブーーー!」
こうして、俺はまさかの敗戦を喫した。
仕方ないさ、相手が相手。
勇者は天敵だ。
やつとの戦いはなるべく避けなければ、ムイラの存在がバレかねないのだ。
そうして俺たちは選手控室に戻った。
すると、トーマスがやってきた。
「おいおい、ツグク!
なんで降参なんかした!?
なかなかいい勝負だったじゃねえか!」
まったく、こいつは俺の事情をなにも理解していない。
「いいや。俺の負けだよ。
あのまま戦っていても、俺は100パーセント負けてた。
まあ、俺は2勝してるんだ。
ここで負けても試験には受かっているさ。」
そう。2勝していれば合格率は80%。
まして、俺は3試合目で勇者相手に健闘した。
合格はかたいだろう。
すると、勇者がやってきた。
「お前!なぜ途中で降参した!」
はあ。どいつもこいつも俺の事情を理解してねえんだから。
まあ、「ムイラの存在がバレないため」なんて馬鹿正直に言えはしないがな。
「お前のパンティ、強すぎんだよ。
勝てるわけねえだろ。」
「パ、パンティ言うな!
パンテオンと呼べ、無礼者!」
「な、クリスタル!
俺がお前を守ってやると言っただろう!」
パンテオンは自慢気にしている。
と言っても、パンティなので様子は伺い知れないが。
「しかし、なぜスキルを解除しない?」
やっべ!そこを突っ込まれたか・・・。
そう。正確にはムイラはスキルではない。
俺のスキルによって生成された一つの個体だ。
だから、スキルみたいに出し入れできないのだ!
「まあ、なんだ。
そんなことはどうだっていいじゃないか!
ではでは、さよーならー!」
ちょっと強引だが、俺はそそくさと勇者のもとを離れた。
あまり長くこいつらといてはいけない。
ムイラの存在に勘付かれるからな。
そうして、俺たちは選手控室を後にした。
合否は本日中に判明する。
それまで俺たちは勇者に見つからないようにじっと待機していた。
そして、合否発表。
俺たちの結果は・・・。
え・・・。
ふ、不合格だとお!!??
==== 作者あとがき ====
ブクマ、評価ボタンをポチっとしていただけると大変ありがたいですm (_ _) m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます