第16話
「ううっ、あいたたた。キーンってしました、キーンって」
「はは、そんな慌てて食べっからだよ」
私たちが今いるのは渋谷センター街に構えるかき氷の専門店だ。最近インスタで話題になっているらしい。かき氷がバズるのは毎夏恒例の定番行事だ。
三十分くらい並んだ私たちは原形を留めないほど溶けかけて、店内でかき氷を食べて自我を取り戻していた。なるほど、これがマッチポンプというやつか。
「やっぱりこういう定番をチェックしてこそですよね。かき氷とか王道すぎて一周回って新しいですよ」
「そういうもん? みんな好きねぇ、かき氷」
「なんでも燃えるかき氷ってがバズってるらしいですよ。今度行きます?」
「な、なんで燃やすの?」
「オシャレだから?」
ヒカリも良く分かっていないようだ。燃やしたらオシャレなのか。これが芸術か。
「次どこ行きましょうか。何かリクエストあります?」
「決めてないんだ? どっか行きたい場所があんじゃないの?」
「とりあえず最初はここって決めてたんですけど、後は特に。あっ、夜の予定は決めてます」
「そうだなぁ……」
私はあまりアクティブな人間ではないから、選択肢を与え
られると優柔不断になった。高二の女子って何が好きなんだろう、とスマホで調べたら「デート中にスマホいじるのマイナスポイントですよ」と取り上げられてしまった。どうやらこれはデートであるようだ。
「んじゃあ、とりあえず……はい、これ」
私はリュックから紙袋を一つ取り出してテーブルに置いた。ヒカリはそれを不思議そうに見つめた。これがあったから彼女を家に入れられなかったのだ。
「これは?」
「お誕生日おめでとう。今日で十七歳だね」
「えっ」
ヒカリは私とプレゼントを交互に三度見した。
「ど、どうして知ってるんですか」
「公式プロフィールに書いてあんじゃん。八月十二日。まぁ、つまらないものですが、よかったら受け取ってくれると……その、嬉しい、です」
最後の最後で照れてしまった。他人に物を送るのは初めて
でプレゼントの中身も喜んでもらえるか自信が無いけれど、気持ちだけは籠っているはずだ。
「あ、開けていいですか?」
「もちろん」
ヒカリは震える手で紙袋を覗き込んだ。「あっ!」と嬉しそうに中身を取り出した。大きめの箱を開けると、そこには一足のダンスシューズが入っていた。
「今のシューズがボロくなってるみたいだから、可愛くて履き心地が良さそうなのを選んでみた。サイズも合ってると思う。走るだけじゃなくてダンスにも使えるよ」
「だから前にサイズ聞いてきたんだぁ。もー、ヨダカさんったらぁ。うへへ」
ぎゅっ、とシューズを胸に抱いて、ヒカリは顔を綻ばせる。
「めっちゃ嬉しいです。ちょうど新しいの欲しいなって思ってたので。これでもっともっと頑張れる気がします」
「そ、そう? 喜んでくれたなら、まぁ……」
真正面から嬉しい嬉しいビームを食らって、私は頬を掻きながら目を逸らした。
「あっ、照れてる照れてる。こんなに素敵なプレゼント初めてですよ。嬉しいなぁ」
「嘘こけ。ファンからいっぱい貰ってるででしょうに」
「それはもちろん嬉しいですけど、面と向かって渡されるのはまた別ですよ。しかもヨダカさんからだから格別です。ホントにありがとうございます」
「う、うん。まぁ、なんでもいいから履き潰しちゃってよ」
「使えないなぁ、もったいなくて。しばらく飾っててもいいですか?」
「靴の意味ないだろ、それ」
ヒカリはシューズを嬉しそうに眺め続け、気づいたらかき氷が溶けてしまった。残念そうにするヒカリに「また来よう」と言うと今度はすぐに元気になった。こんなに喜んでくれたなら送った甲斐があった、と心から思った。
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