第三章
第15話
インターフォンのチャイムが鳴った。「こんな朝に何?」と悪態を吐きながらドアの覗き穴へ目を凝らした。そこにはヒカリが立っていた。
私は慌ててドアを開けた。真っ暗な部屋に真っ白な光が差し込んできて眩しかった。
「ヒカリ!?」
いつものポニーテールではなく、今日は髪を降ろしてウェーブをかけている。真っ白なフリルスカートのワンピースに麦わら帽子で、いつもの快活な雰囲気ではない、お嬢さまっぽいスタイルだ。もちろん、それもすこぶる似合っていた。
「こんちゃっ! ヨダカさん、今日お暇ですか?」
しばらくヒカリに仕事があるから特訓を中止していた。たしか一昨日は、夏のドームツアーの福岡公演があったはずだ。その間、私は怠惰な休暇を過ごしていた。
「ひ、暇っちゃ暇だけど……」
「良かったぁ。お仕事がひと段落したので、よかったら遊
びに行きませんか?」
断る理由なんてなかった。久しぶりにヒカリと話せるのは嬉しいことだ。久しぶりと言っても一週間くらい顔を合わせていないだけなのに。毎日のように会っていたからか、空白が多く感じられてしまった。
「いいよ。でも……」
「でも?」
「寝起きだから、ちょっと準備する時間くんない?」
「えー? もう、今は十二時ですよ? ヨダカさんは予定が無いとすぐダラけるんだからぁ。ホントわたしがいないとダメですねぇ」
くすくす笑われた。私は頭をガシガシ掻いた。
「はいはい、それでいいから。とにかく待ってて」
「え、上がって待つのダメですか? 外が暑くて暑くて」
「ダメダメ。着替え見られるの恥ずいもん」
「いじわるぅ」
「急に来たのはそっちだろ? てきとーにカフェとかで待ってて。迎えに行くから」
ヒカリは「はぁい」と返事して、その場から名残惜しそうに立ち去った。
「ふー……」
私は閉めたドアに背中を預け、ずるずると座り込んだ。
「……元気そうだったな……」
ほっと胸を撫で下ろした。オーディションの結果が来てから、すぐヒカリがツアーやら握手会で忙しくなって、それから会えていなかった。その間ずっと心配だった。
いくら全力を出し切って後悔は無い、と言っていても、ショックなものはショックだろう。もしかしたら私の「合格しなくてもいいじゃん」が言霊になってしまったのかも、といろいろ悩んで呻いていた。
それに、ちょうどいい。今日は私から誘うつもりだった。連絡する前にヒカリの方から来たことだけが想定外だ。
「よし!」
パチン! と両頬を叩いて準備を始めた。ヒカリに負けないくらいオシャレして、精一杯エスコートするんだ。
落ち込んでいるかは分からない。せめて私の前では楽になってほしい。
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