第6話
そんな風に捻くれてしまった私だけれど────
「うわぁ、可愛い……っ!」
私はアイドルたちのステージに心を奪われていた。
ステージの上で綺麗な衣装を着たアイドルたち歌って踊っている。複雑な振り付けやフォーメーションを笑顔のまま難なくこなし、レベルの高い歌声を披露している。
これで選抜されていないなんておかしいと思うくらいみんな可愛い。クラスや学校で一番かわいい子を集めたトップレベルの集団だ。しかしその中で一番私の心を占めたのは、間違いなく旭ヒカリだった。
それは、私が彼女と面識があるからかもしれない。しかし仮にただの客として来ても、きっと何度もヒカリに目を奪われると確信できた。
笑うと目が細くなって、真っ白な歯が見える。
光源のような笑顔に真っ白で並びの整った歯が煌めいている。
手足が長いから、遠くからでもダンスがよく映える。
汗しぶきが照明に照らされ、宝石みたいにキラキラ光る。それすらも演出なのかと見紛う。
私は、あっという間にアイドル『旭ヒカリ』に魅了されていた。
見渡すと、周りのファンはみんな推しのシャツを着て、サ
イリウムやタオルを振り回している。何も用意していない自分が恥ずかしかった。
「今日は来てくれてありがとうございます!」
数曲が終わるとトークパートに入った。アイドルたちが横一列になって、それぞれトークを交わし始めた。ヒカリにマイクが渡ると「ピーちゃーん!」と数人の客が叫んだ。
「あの、わたし最近、新しい友達ができたんですよ!」
なになに? メンバーが合いの手を入れた。ヒカリがいたずらっぽく笑って、客席の私と目を合わせた。確実に目が合った。
「わたし、ずっと好きな憧れの人に会えたんです。インスタで路上ライブの告知を見て、勇気出して会いに行ったんです」
これ私の話だ! 私は気まずくなってヒカリから目を逸らした。「あ、女の子ですよ?」とヒカリは欠かさずフォローした。
「でも、いざ話しかけたら逃げちゃって。まぁ、すぐ追いついたんですけど。わたし五十メートル七秒台なので余裕で追いついちゃって」
隣のアイドルから「ピーちゃん運動神経めっちゃ良いもん
ね」と相槌が入った。なるほど、道理で毎回追いつかれているはずだ。
「捕まえて話してたら、もう嬉しくて、思わず『わたしアイドルなので、曲を作ってください!』ってお願いしちゃっ
たんです!」
矢継ぎ早に「カミングアウトだ!」「勝手にソロデビューするな!」とアイドルたちの合いの手が入り、会場が温かい笑いに包まれた。私は冷や汗を流すだけで全く笑えなかった。頼むから変なことを言わないでくれ、と願うばかりだ。
「結局、断られちゃったんですけど。ただ曲作ってくれるくれないより、ホントに普通に仲良くなりたかったのでぇ」
ヒカリは手を目の上にかざして客席を見渡す。
「今日、招待しちゃいました! おーい、見てるー?」
シーン……とした後に笑いが起こる。「ここで言うわけないでしょ!」別のメンバーからツッコミが入る。
「あれぇ!? 返事してくださいよぉ、おーい!」
ぴょんぴょん跳ねながら両手を振るヒカリに会場が綻んだところで、次の人にマイクが移った。私は胸を撫で下ろした。上手いことオチがつけられて良かった。これで滑ったら私のせいみたいなものだからな……。
トークパートが終わって、ライブに戻った。ヒカリはほとんどの曲に参加して、時には前列で歌って踊っていた。
私は否応なく、何度も何度も心を奪われた。
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