飛空艇団バビロン 

こままのま!

運命

青空が広がる中、太陽の光がキラキラと輝いている。飛行艇は優雅に雲の上を滑空し、風を切る音が心地よく響いている。


「んふふ〜♪」


下手くそな鼻歌、彼の機嫌の良さが伺える。舵を握りながら人差し指でリズムを刻む。いつもと変わらない日常。


鼻歌の曲が2番に入ろうとしていたその時、空の彼方から一筋の光が見えた。それは日常とは言えないものであった。


「…あれは?」


操縦士は目を細めて空を見上げる。すると、銀髪の少年が、まるで流れ星のように降下してくるのが見えた。少年の髪は風に舞っている。

緩んでいた表情が引き締まり、口を開く。


「団長!空から男の子が!」

「おっと、久々だな…。任せな!」


団長、そう呼ばれた軍服を着た長い髪の女性は笑みを浮かべた。慌てる様子はなく、余裕があるように思えた。それは彼女の「仕事」が関係していると言えるだろう。その仕事柄から人が空から降ってくることなど一度や二度の範囲ではないはずだ。


しかし、そんな彼女にとっても初めての光景を目に、いや耳にすることになる。


「ちょっとまて!あのボウズ、空呪くうじゅにかかってねぇ!」

「…!それは本当か!エリック!」

「間違いない、測定機がイカれてなければ、ですけどねぇ!」


エリックと呼ばれる茶髪の青年が信じらないという表情で話す。それもそのはず、世界は呪われているから。


かつて魔王にかけられた呪い。

それによって人は空に縫いつけられた。


遠い昔、この星の住人には地面がなかった。人々は自由に空を舞い、駆けまわる。雲を掴み、虹を渡ることは子供の夢ではなく日常であった。唯一足をつけるのは空島と呼ばれる宙に浮く島のみ。人は飛べたのだ。どこまでも高く、高く。


しかし…300年前。魔王によって地に堕ちた。

魔王の最悪にして最恐の呪い空呪。世界に重力を与えたのだ。それに加え、宙にいる時間がながければ長いほどその重力は強まる。


それは鳥の翼をもぐことと同意義であり、人は人でなくなったのだ。


しかし空から降ってくる少年は一定の速度で落ちてくる。それはこの世界ではあり得ないこと。まさに兎角亀毛と言って良いだろう。


「なかなか、面白くなってきたな!」

「めんどーごとにはならなきゃいいですけど…」


落ちてゆく少年を見上げながらそう話す二人。

その二人を背伸びして肩を叩く白髪の少女がいた。


「きゃ、キャプテン、そろそろ…助けないと…あ、危ないんじゃない…かな?」


自信なさげにそうはなす少女。見た目は12歳ほどでボブカットが風で揺れている。しかし、軍服を着ておりただの子供ではなく、この船の乗組員だと分かる。


「…だな!よしお前ら、帆を上げろ!」


「「イエッサー!」」


乗組員たちが一斉に動き出す。掃除をしていた桃色の髪の少女が帆桁(ほげた)を引っ張る。取り付けた動滑車がキリキリと鋭い金属音を鳴らす。



「よーし、水縄(みなわ)おっけー!」

「座標…だ、大丈夫です…!」

「防護結界どうしますー?」

「必要なし!」


それぞれが役割を果たし、手慣れた動きでわずか十数秒で帆が上げ終わる。広がった帆には大きくⅢを表すような剣が並んで描かれている。


「準備完了!」

「…まだ落ちてこないね?」

「あぁ…。空呪に患ってねぇやつなんてもうみたことがねぇ。」

「私もだ。ワクワクが止まらん!」

「ふふ…買いだしのみんなもきっと驚くと思う…な。」


皆が少年を見上げる。今日は雲一つない晴天で太陽が眩しく、それも相まって少年の位置がはっきり分かる。


「よっしゃ!行ってくる!」


甲板からちょうど1000m切った時、気合を入れて甲板を力強く蹴り上げ帆に乗る。体重によって帆である布が沈む。


「反重力装置瞬間起動…!」


白髪の少女はそう告げると同時に帆が光を帯び、トランポリンを想像するかのような反発力で打ち上げられる。そして団長が飛び、少年と同じ高度まであがる。


「何度飛んでも心地良い。やはり人は空とともにあるべきだ!」


大の字になりそう叫ぶ。心からでた言葉であり、これからもそう思い続けるのであろう。


「そう思わないか?少年」


団長が少年を横抱きにしてにっこりと笑ってそう話しかける。しかし、少年は気を失っているのか返事はない。  


「宙に一人でいるのはつまらなかっただろう。これからは私たち第三飛空艇団バビロンが共にいる!大船に乗ったつもりでいるんだな、少年!」


その出会いが、世界の命運を分かつこととなるとはこの時誰も、いや団長と呼ばれる者のみが感じとっていた。


「船だけに!がはは!」






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ここまで読んでくださりありがとうございます。



初めて筆を取りました。星が一個でも付けば趣味として続けてみようかなと思います。


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