第12話 若者の反抗

次の町にたどり着いたケンジは、いつものようにギターを背負い、夜の街を歩いていた。この町は少し大きく、若者が集まる場所が多い印象だった。街角にはギターを抱えたバンドマンや、スケートボードをする若者たちが集まり、活気に満ち溢れていた。


ケンジは、ひときわ賑わっている公園に目を留めた。そこには数人の若者が集まり、ギターやドラムを手にして即興で音楽を楽しんでいた。ケンジはその様子を少し離れた場所から見ていたが、ふとした拍子にその若者たちと目が合った。


「何だよ、あんたもミュージシャンか?」

一人の少年が不機嫌そうな顔でケンジに声をかけた。金髪で、派手な服装をしている少年は、少し挑戦的な態度を取っていた。


「まあね、俺は流しをやってるんだ。旅をしながら、いろんな町でギターを弾いてる」

ケンジは笑顔で答えたが、その言葉に少年たちは鼻で笑った。


「流し? そんな古臭いこと、まだやってるのかよ。俺たちはもっと新しい音楽をやってるんだよ。あんたみたいなオッサンの時代とは違うんだ」


その言葉に、ケンジは少し驚いたが、気分を害することはなかった。むしろ、少年たちの反応は少し面白いと感じていた。


「そうか、じゃあ君たちの音楽を聴かせてくれよ。どんな新しい音楽をやってるのか、興味がある」


ケンジがそう言うと、少年たちは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに「いいぜ」と言って演奏を始めた。激しいギターリフにドラムのビートが重なり、パワフルなサウンドが公園に響き渡った。彼らはエネルギッシュで、音楽に対する情熱がひしひしと伝わってくる演奏だった。


曲が終わると、少年たちは自信満々の表情でケンジを見つめた。「どうだ、オッサン。これが今の音楽だ。流しなんかやってる奴にはわからないだろ?」


ケンジはにっこりと笑い、「すごいな、エネルギーが満ちてる。でも、音楽は時代やスタイルを超えて、みんなに共通しているものがあるんじゃないかな」と言った。


少年たちはその言葉に少し眉をひそめた。「何だよ、それ。オッサンの説教は聞きたくないね」


その言葉にケンジは微笑みながら、ギターを手に取り、「じゃあ、ちょっと聴いてみてくれないか? 古臭いかもしれないけど、これが俺の音楽だ」と言った。


ケンジはギターの弦に指をかけ、ゆっくりとメロディーを奏で始めた。彼が選んだのは、シンプルで心に沁み入るような昭和の名曲だった。少年たちは最初は興味なさそうにしていたが、次第にその音楽に引き込まれていくのが見て取れた。


ケンジのギターの音は、彼らが慣れ親しんだ激しいサウンドとは違い、どこか懐かしく、静かに心に響くものだった。曲が進むにつれて、少年たちの表情が少しずつ変わっていった。彼らはその音楽に込められた感情を感じ取ったのだろう。


曲が終わると、公園は一瞬の静寂に包まれた。少年たちは言葉を失っていた。しばらくの沈黙の後、金髪の少年がぼそりと呟いた。


「オッサン、悪かったよ。なんか…お前の音楽、俺の心に響いたよ」


その言葉にケンジは静かに微笑んだ。「音楽は、誰かの心に響いたら、それで十分だと思うよ。君たちの音楽もエネルギッシュで素晴らしかった。自分を信じて、音楽を続けていけば、きっともっと多くの人に届くさ」


少年たちは照れくさそうに頷き、「ありがとな」と小さく言った。そして金髪の少年は、「俺、シュウって言うんだ。お前の名前は?」と尋ねた。


「ケンジだ。これからも旅を続けながら、いろんな町で演奏していくよ」


シュウは少し考え込んだ後、ケンジに向かって言った。「またどこかで、会ったら演奏しようぜ。その時は、俺たちももっと上手くなってるはずだから」


「楽しみにしてるよ」


ケンジは笑顔で答え、再びギターを背負った。シュウたちとの出会いは、彼にとって新鮮だった。音楽が世代やスタイルを超えて、心と心を繋ぐものだと改めて感じた瞬間だった。


夜の公園を後にし、ケンジは次の町へ向かって歩き出した。彼の音楽は、これからも新しい出会いを生み出し、様々な人々の心に届いていく。シュウたちとの再会を胸に、ケンジは自分の旅がまだまだ続くことを確信していた。


この第12話では、ケンジが若者たちとの交流を通じて、音楽が世代を超えて心に響く力を再確認します。反抗的な態度を取る若者たちも、ケンジの音楽に触れることで次第に心を開き、音楽の持つ普遍的な力に気づく様子が描かれています。

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