第3話:市場調査

 翌朝、宿のベッドで目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む朝の光が部屋を優しく包んでいる。異世界での初めての夜は、意外にも静かで平穏だった。


「ルナ、起きろよ。今日は忙しくなりそうだ」


 ベッドの横で丸くなって寝ていたルナが、俺の声でゆっくりと頭を上げ、蒼色の瞳でこちらを見つめた。彼女もすぐに状況を把握したようで、静かに尻尾を振って立ち上がった。


 まずは、朝食を取らないとな。


 階下へ降りると、宿の食堂には既に数組の客が席に着いていた。窓際の席に案内されると、女性スタッフが朝食のメニューを手早く運んでくれた。


 パン、チーズ、ハム、そして新鮮な果物――どれもシンプルだが、しっかりとした食材を使っているのがわかる。


「これが異世界の朝食か……」


 俺はパンを一口かじりながら、思わず呟いた。異世界の食事というともっと奇抜なものを想像していたが、驚くほど普通だった。だが、味は悪くない。ルナも傍で静かに朝の食事を楽しんでいる。


 朝食を終え、俺はルナと一緒に部屋へ戻った。ここに来てまだ2日目だが、この宿は居心地が良く、部屋も清潔だ。ルナもリラックスしている様子で、ベッドの横に寝そべっている。


 部屋に戻ると、ふと残りの資金が気になった。異世界に転生してまだ日が浅いが、今後の計画を立てるにはまず現状をしっかり把握しておく必要がある。


 俺は神様からもらった貨幣の袋を取り出し、中身を確認することにした。


「さて、残金を確認しておこうか」


 最初にもらったのは、3,000クラウン相当の金貨だった。昨日、宿にチェックインした際に1週間分の宿泊費として300クラウンを支払ったので、現時点で残っているのは2,700クラウンだ。


「2,700クラウンか……。まだ十分な額があるけど、この世界での生活費や商売の元手を考えると、無駄遣いはできないな」


 俺は金貨を袋に戻し、しっかりと結び直した。まだ当面の間は宿での生活が続くが、商売や冒険で稼ぐ手段を考えなければならないことに変わりはない。


「ルナ、今日は街に出て物価を調べてくるぞ。準備はいいか?」


 ルナは俺の声に応えるように小さく吠え、準備が整ったことを示してくれた。部屋を出て、イストリアの街を散策しながら今後の商売の展望を考えつつ、物価や商人たちの様子をしっかり確認していこう。


「まずは街でどんな商品が売れているか、調べるところから始めよう」


 俺は宿の出口で軽く伸びをしながら、ルナを連れて再び町へと繰り出した。朝の光に照らされた石畳の道は、昨日とはまた違った輝きを放っている。


 早朝から市場は賑わっており、商人たちは店を開けて、朝一番の客に呼びかけていた。


 まずは市場からだ。市場は、この町の経済を一番よく映し出している場所だろう。冒険者向けの商品や日用品、食材、装備品――ありとあらゆる商品が並べられ、客たちが次々と買い物をしている。


「パン1個が……5リーフか。これって現代日本だと50円ぐらいだな」


 俺は市場のパン屋で価格を確認し、頭の中で計算をしてみる。リーフはこの世界で使われる小銭で、クラウンはその上位通貨。10リーフが1クラウンに相当する。


 次に、水の瓶が10リーフ(100円相当)、庶民向けの食堂での簡単な食事が30リーフ(300円相当)。どうやら、この世界の物価は日本円とそこまで大きくは変わらないようだ。


「次は冒険者向けのアイテムだな」


 俺は冒険者向けのアイテムを取り扱う店に足を運んだ。ポーション――つまり回復薬の小型ボトルが50クラウン(5,000円相当)、中型のものが100クラウン(10,000円相当)。


 さすがにこれらは高価だが、命を守るための重要なアイテムだから、その価格にも納得がいく。


 鉄の剣が500クラウン(50,000円相当)――冒険者には不可欠な装備であり、耐久性や品質によって価格は大きく変わる。さらに、魔法の武器ともなると、2,500クラウン(250,000円相当)という価格帯だ。


「これなら、商売でしっかりとした資金を作れば、次の冒険のために装備を整えることもできそうだな」


 俺は頭の中で計算をしながら、次の行動をどうするかを考えた。この世界で必要な物を手に入れるための相場がだんだん見えてきた。


「とりあえず、今日は市場をもう少し見て回ろう。ここで売れるものや需要が高そうなアイテムを確認して、次の取引の商材にするんだ」


 俺はルナに目配せし、彼女も静かに歩き出す。冒険者向けの商品は確かに高価だが、それだけに売れれば大きな利益が見込める。


 この町の市場をさらに深く探って、次に何を売り込むかを決める必要がありそうだ。まずは商売の基盤をしっかりと築くことが、異世界で成功するための第一歩だ。


 石畳の広場には、さまざまな商品を並べる露店が所狭しと並び、商人たちが大声で呼び込みをしている。あと確認すべきは、この世界で定番の商品――塩、胡椒、そして砂糖などの香辛料だ。


「塩や香辛料が高値だと聞いていたけど、実際のところどうなんだ?」


 俺は歩きながらいくつかの露店を見回し、塩や胡椒、砂糖の価格を調べてみることにした。まずは塩の露店に近づき、店主に声をかける。


「すみません、塩の値段はいくらですか?」


 店主は快活に笑いながら答える。


「お客さん、塩は1袋1キログラムで50クラウンだよ。いい塩だ、保存性も抜群だからな」


「50クラウンか……。それなりに高価だな」


 俺はその価格に少し驚いた。塩が1キログラムで50クラウンということは、現代日本の価値に換算すれば5,000円ほどだ。異世界では塩が貴重であるという噂は本当らしい。


 次に、胡椒の露店に足を運んだ。胡椒はさらに高価だという話を聞いていたが、実際に値段を確認してみることにする。


「胡椒の瓶はどれくらいの値段になりますか?」


 店主は胡椒の瓶を手に取り、にやりと笑って答えた。


「胡椒は50グラムの瓶で1,500クラウンだよ。貴族や富裕層に人気だからな、需要が高いんだ」


「1,500クラウン……。まさに高級品だな」


 胡椒1瓶が1,500クラウン(15万円相当)というのは、この世界の物価では確かに驚異的だ。手軽には手を出せないが、それだけに商売のチャンスがあると感じた。


 最後に砂糖の値段を確認するために、別の露店へと向かう。砂糖も高級品として扱われているらしく、その価格は気になるところだ。


「砂糖の価格は?」


「砂糖は1キログラムで300クラウンだ。最近は少し値が下がったが、それでもまだまだ貴重品だよ」


 砂糖もまた、驚くほど高価だ。1キログラムで300クラウン(約30,000円)とは、日常的に使える代物ではない。この世界では香辛料や砂糖のような品物が非常に高価であることを改めて実感した。


「ふむ、これらをうまく商売に利用できれば、大きな利益が見込めるかもしれないな……」


 俺は市場を一通り回りながら、これらの香辛料をどうビジネスに組み込むかを考え始めた。今後、アラニス商会との取引にも活かせそうだ。


「よし、まずはこれで今日の調査は十分だな。ルナ、次の一手を考えるぞ」


 ルナが俺の足元で小さく鳴き、再び街の活気ある市場を後にして宿へと戻ることにした。



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本日の3話目


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