第4話:等価交換スキルの価値

 市場から宿に戻り、ルナと一緒に部屋で一息ついた。今日の市場での調査で、香辛料の価格が思った以上に高価であることを改めて確認した。


 この世界では、塩、胡椒、砂糖などの香辛料が大きな商機になると確信した俺は、今後のビジネスに向けて実験をしてみることにした。


「さて、次はこの『等価交換』スキルを試してみようか」


 俺はベッドの上に座り、神様からもらったクラウンを手に取った。これから、このクラウンを使って、どれくらいの量の香辛料や砂糖が現代の価値で手に入るのか、確かめてみることにする。


 まず、現代の感覚でどれくらいの金額が必要かを確認する。現代の価格を基準にすれば、塩や砂糖は1キログラムあたり100円未満で、胡椒は1瓶500円程度だろう。この価格をベースに等価交換を試すことにする。


「まずは塩から試してみよう」


 俺は10クラウンを手に取り、「等価交換」と念じた。次の瞬間、手の中のクラウンがふわりと消え、代わりに空中に光が集まり始めた。光が凝縮されると、10キログラム分の白く輝く塩が現れた。


「おお、これで10キログラムか……」


 現代の価格に照らし合わせて計算してみても、10クラウンで10キログラムの塩が得られるなら、かなりコストパフォーマンスが良い。市場での塩の相場はかなり高価で、これを商材にすれば十分な利益を見込める。


「次は胡椒だな」


 次に50クラウンを手に取り、「胡椒と交換」と念じた。再び光が集まり、今度は小さな瓶が10本現れた。手に取って確認すると、これは現代日本でよく見る50グラム入りの胡椒瓶だ。


「50クラウンで10瓶、1瓶あたり5クラウンか。市場じゃ1瓶100クラウン近くだから、かなりの利益が出そうだな……」


 胡椒はこの世界では高級品扱いだ。1瓶100クラウンで取引されることもあるが、現代では1瓶500円程度。これを50クラウンで10瓶手に入れることができたのだから、ここでも大きな利益を生むことができる。


「最後は砂糖だな」


 俺は10クラウンを手に取り、「砂糖と交換」と念じた。再び光が集まり、今度は1キログラムずつ袋に詰められた砂糖が10袋、合計で10キログラム現れた。


「10クラウンで10キログラムの砂糖……これは現代と比べても十分に価値があるな」


 この世界では砂糖も貴重品で、1キログラムあたりの相場は100クラウン以上する。現代日本では1キログラム100円未満だが、ここでは大きな価値を持つ。これも商材として扱えば、十分な利益を得られるだろう。


「よし、これで取引材料は揃ったな。等価交換のスキル、かなり使える……」


 目の前に並んだ商品を見て、俺は満足げに呟いた。異世界に転生してから手に入れた「等価交換」のスキルを使い、現代日本から塩、胡椒、砂糖を取り寄せることができた。


 異世界では、これらの調味料は貴重品であり、高価な取引対象だ。だが、ここで一つの疑念が俺の胸を締めつける。


「これ、やりすぎるとまずいかもしれないな……」


 現代日本では一般的に安価な塩や胡椒、そして砂糖も、この異世界では非常に高価であり、富裕層や貴族、商人たちの間でしか手に入らない代物だ。


 もし、俺が市場に大量にこれらを流通させたら、確実に異変が起こるだろう。市場の相場が崩れれば、それに伴って商品の価値も下がる。


 そうなれば、俺が稼げるはずのクラウンも減り、最悪の場合、俺自身が危険視されるかもしれない。


「無限にクラウンを稼げるっていう考えは、確かに甘すぎたか……」


 ルナが俺の足元に座り、じっと見つめている。彼女も不安を感じ取ったのかもしれない。


「慎重にいかないとな、ルナ。これじゃ市場を壊しかねない」


 俺はベッドに腰を下ろし、改めて考え直すことにした。この世界に来たばかりで、まずはどうやって生き抜くかを計画していたが、目先の利益だけを追い求めて市場全体に混乱を招いては意味がない。


 そもそも、この異世界の市場における取引のルールや習慣はまだよくわかっていない。


「焦るな、タケル。まずは少しずつ様子を見て、確実に進めよう」


 俺は、自分に言い聞かせた。今、手元にあるクラウンは十分ではないが、それでも生きていくには足りる額だ。


 そして、ここで無理に大量の塩や胡椒を売りに出してしまうより、じっくりと市場を観察し、安定した取引先を見つける方が、長期的に見て賢明な判断だろう。


「ルナ、今日も市場を回ってもう少し情報を集めてみるよ。市場の物価や相場、どこで取引が行われているか、ちゃんと把握しないとな」


 ルナは軽く尾を振って、俺に同意しているようだった。


「でも、等価交換を使うにしても、無限に商品を流通させることはできない。市場が壊れたら俺も困るし、慎重にやらないといけない」


 俺はもう一度、ベッドの上で手元のクラウンを確認した。残りはまだ少し余裕があるが、あまり贅沢はできない。


 宿泊費や食費、さらに今後の取引に必要な準備資金としては、慎重に使う必要がある。


「ルナ、今日はゆっくり休もう」


 俺はベッドに腰を下ろし、ルナに声をかけた。ルナも疲れているのか、床に座り込んで目を閉じた。彼女もこの異世界での生活に少しずつ慣れてきているのかもしれない。


 窓の外を見ると、夕陽が町を赤く染めている。異世界の空は澄み切っていて、現実とは少し違う景色が広がっているが、それもだんだんと馴染んできた気がする。


「今日はもう、無理せずゆっくりしよう。明日からまた、頑張ればいい」


 そう自分に言い聞かせ、俺はベッドに横たわった。これからの計画はまだまだ不確定な部分が多いが、焦る必要はない。


 異世界での生活は長い時間をかけて作り上げるものだ。少しずつ、確実に進んでいけばいい。


「明日はまた新しい一日だ」


 俺はそう呟き、いつの間にか瞼が重くなり、ゆっくりと眠りに落ちていった。ルナの静かな息遣いが心地よいBGMとなり、俺は異世界での二日目をこうして穏やかに終えることができた。



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本日の4話目


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