第26話 圧倒的な差

(現剣と一体化……ですか)


変貌した男の姿を視界に捉えて出た最初の感想はそれだった。

しかし、なんら驚くような事ではない。

何せ――わたくしの体だって似たようなものなのだから。


「この姿を引き出させてくれたお前にゃ感謝したいぜ。大抵の人間は熱線闘法を使う前にくだばっちまうからな」


両手を広げ手のひらを握っては開く動作を繰り返しながら、男は告げる。

その言葉が告げるのは、これまでに何度も人を殺してきたという事実。

故に、他の人間と比べて彼は一線を画す程強いのだろう。


命を簡単に奪える人間ほど、強い存在は居ない。

それは、遠慮というものが存在しないから。

……けれど、そんな事実を踏まえたうえでも――。


「そんなご立派なお姿に成っても、わたくしに傷をつける事は出来そうにもないですね。貴方、わたくしの前に立つには圧倒的に実力が伴っていませんもの」

「そりゃあ随分と低い評価をくれやがるなァッッッ――――!!」


――刹那。

再度地が勢いよく踏まれ、衝撃によってクレーターが出来る程の圧倒的なパワーを以て男が赤い軌跡を作り上げながら飛び出してくる。


「なるほどですね」


その速度は、はっきり言って光速に近い域にまで達しているだろう。

いわば、これが熱線闘法とやらの一部……自分自身を攻撃に用いていたあの熱線とし、速度と異常なパワーを得ることが出来るのだろう。


「顔色一つ変えねぇか!!」


数秒にも満たない秒数で1kmほどの距離を潰される。

そこでまたしても、わたくしの脳内には死の未来が刻まれる。

彼の刃こぼれを起こしている剣が、わたくしの体を上から下まで溶かしながら引き裂く未来を。


「その剣、斬るのではなく刃が触れたものを溶かすのですね」


未来を見たことによって男の行動を知っている私は、あらかじめ横に避けておくことによって先手を取った彼の先手をゆく。


「食いしばりなさい」


彼の驚きと興奮に満ちた顔を一瞥しながら、わたくしはそう告げ――本気で腹に向かって拳を突き立てる。

当然、彼は避ける事も出来ず、その体に拳をめり込ませる。


「ッッッッッ、――――!!」


先程のものより更に力を籠め放った拳。

それを食らった事により、男の体はまた更に豪快な吹っ飛びを見せた。

このままいけば、彼はこの大橋から飛び出て奥の道側へと飛び出してしまうだろう。

――そう、このままいけば。


「どこにいくのですか?」


衝撃を遥かに凌駕する圧倒的な速度を以て、吹っ飛ぶ彼の先へと回る。

そうして、拳を構え――男の背中に向かってもう一発、放つ。

その拳は、こちら側に向かってくる衝撃と相まって――一発目よりも更に深く突き刺さり、男の体はその逆側へとまた吹っ飛んで行った。




***




認めざるを得ない圧倒的な力に翻弄されている俺は、あの女の言葉を思い出していた。


「あ、そうそう。私、親切なニンゲンですので、戦いに行く前に教えて差し上げますね~」


貼り付けたような不気味な笑顔を浮かべる女――ウェカピポ。

奴が、戦いに赴こうとした俺に向かってそう告げた。


「アん?なにをだよ」


どこか癪に障るが、俺はそう問いかけた。

すると、ウェカピポの閉ざされていた目が、ゆっくりと開いた。


「透歌ちゃん――あの子の能力である超感覚ちょうかんかく。それは感覚を研ぎ澄ますという一見何の脅威にもならない弱そうなものですが……その実は違います~」

「は?オイ、俺はんな情報要らねぇ。戦いに事前情報は――」


奴の言葉を止めようと、俺は言った。

だが、ウェカピポは表情を変えず、首を少しだけ傾げながら、一切の嫌味も悪気もなくこう返事を返した。


「…………彼女の手札を聞いておかないと、勝負にすらなりませんよ?」


――ハッ、んなこと言ってきやがったがあの女。分かってやがったな。


「よッ!」


炯眼の剣聖の拳が、顔面に突き刺さる。


――聞いても聞かなくても、まるで勝負にすらならねぇと。

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