第25話 熱線

男の言葉を無視しながら、わたくしは思案する。

さて、ここからどう動きましょうか……。わざわざ炯眼の剣聖という名を口にしたという所から察するに、狙いはわたくしで間違いない。であるならば――――。


「しーちゃん、侑李さんを連れて逃げて」

「お言葉ですが透歌様。私達二人で一斉に畳み掛けた方が無難ではないでしょうか」


その言葉は一理ある。先程放出された熱線による攻撃――車の上半分がまるで元から無かったかのように綺麗さっぱり消滅している点を見れば、あれが生身の体にかすりでもすればそれだけで致命傷に成り得てしまうのだろう。


そんな攻撃がもし、なんらかのインターバルも無しに無制限に発動できるというのなら……一気に畳み掛けて早く戦いを終わらせた方が無難かもしれない。

けれど――――。


「しーちゃんの実力は信頼しています。けれど、彼の能力による攻撃の一発一発は、一度当たるだけでも死に至ってしまう危険性を秘めています。ここは、わたくし一人で戦うのが最も最善なもののはずです」


そこまで言うと、しーちゃんはどこか不安気な様子を見せながら、渋々頷き侑李さんの体を持ち上げお姫様抱っこの態勢にする。


「透歌様、どうかご無事で」

「ええ。侑李さん、ここはわたくしが担うので警察も誰も立ち入れないように手配しておいてください。絶対に、近くに誰も来させないでください」

「ああ。分かった」


彼女のその信頼できる返事を聞いたわたくしは、男の方へと今一度向き直る。


「おっ、ようやく話しが終わったか」

「待っていてくださるなんて、お優しいんですね」

「ッたりめぇだ、なんせ最強と戦えるんだ。いくらでも待てるってもんだぜ」


なるほど、戦闘狂ですか。


「過去にも何度か、貴方みたいなザ・戦闘狂に戦いを挑まれましたけど……その結末はどれも、圧倒的な実力差に絶望して剣を投げ出してしまっていましたよ」


脅しにもとれるような実体験を言い放つと、男はニヤリと悪辣な笑みを浮かべ口を開く。


「ハハッ、俺がそんな有象と同じなわけあるか。俺は勝ち負けなんてどうだっていい。そこに死闘さえあれば、それで満足なんだよッッッ!!」


まるで目の前の生肉に飛びつく熊のような豪快な踏み込みで、わたくしとの距離を現剣を鞘から抜かずに詰めてくる男。


「だが、テメェは今日ここで死ぬぜ。なんせ、俺の知ってる奴に雰囲気が似てて不快だからな!!」

「そんな事で殺されていてはたまったものではありませんね」


それと同時に、わたくしも能力を発動させ男が詰めてくるよりも更にはやく距離を詰める。


「オイオイッッッッ!!!」


男は驚きの声を上げながら、まるで歓喜するように更に口角を上げ笑った。

現剣をせず、能力が使える――それが、わたくしが最強である理由の一つ。


「痛いですよ、わたくしの拳は」


刹那、ゼロ距離で放つ音すら凌駕する神速の拳。

それを、男の顔目掛けて一切の手加減無しにぶつけた。


「ズ、アッッッッ!!!」


一切の防御もされる事無く、見事に顔に拳が入る。

その衝撃で、男が豪快な吹っ飛びを見せるその刹那。


わたくしの能力が、発動する。


数秒先の死の未来。興奮に包まれた高らかな声と共に、あの熱線がわたくしを一直線に目掛けて飛んできて……跡形もなく殺される。そんな未来。


「最高だな、最強!!」


そうして、先程見た光景の通り、興奮に包まれた高らかな声の後に熱線が一直線に目掛け飛んできた。

それを知っているわたくしは軽く避け、吹っ飛び出来た間合いを潰すために一気に距離を詰める。


「なんて理不尽的なパワー!!速度だッッ!!」


興奮が最高潮に達したのか、男は狂気的に目を見広げながら、現剣を鞘から引き抜き――――告げる。


「本気出すぜ」


髪が逆立ち、あの熱線のように赤白くなり靡く。


【  刀気一体とうきいったい 熱線闘法ねっせんとうほう  】

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