第22話 とある物語【改稿】
――――前書き――――
ごめんなさい!最後ら辺文章追加しました!m(__)m
―――――――――――
漣さんとの対談を経て、放課後。
何故だか、彼女と別れの挨拶を告げてから以降の記憶があやふやでどこか違和感を感じるんだが……きっと、学園という新しい環境からくるストレスによって少し頭がおかしくなっているのかもしれない(適当)
とまぁそんな違和感はさておき、現在。
俺は、燈が入院している病院へと足を運んでいた。
友達たるもの、毎日の見舞いは欠かさせない。
「よっ、燈」
ベッドから起き上がり、開いた窓から外をボーっと眺めている少女に向かって俺は挨拶を投げかける。
すると、燈は「あ」と一言声を漏らすと、その視線を俺の方へと向けた。
「玄……斗さん」
俺の名前を呼ぶ彼女の瞳はどこか、弱々しく映った。
まぁ、子供を庇っていたというハンデがあったとして、負けたのは事実。
剣士として、気を落とすのも無理は無い……か。
「看護師さんから目を覚ましてるって聞いてな。こうして会って見て安心したよ」
俺は微笑みを向けながら友の無事を安堵する。
命に別状は無いと聞かされていたとはいえ、こんなにも早く目覚めて会話が出来るだなんて正直考えてもみなかった。
意外と、華奢な体をしていそうに見えて丈夫なのだろう。
「あの子達は……どうなりましたか」
「燈が
その事実を告げると、燈はホッと胸をなでおろしながら「よかった」と言葉を零した。
真っ先にあの子達の安否を聞くだなんて……やっぱり、燈は真っ先に他者の心配をすることのできる優しい人間なのだと改めて認識する。
「――でも、私は護り切れませんでした」
そう言うと、燈は俯きながら言葉を発す。
「私、最後まで見てました。不甲斐ない私の代わりに玄斗さんが子供達を逃がして、無影の剣客を圧倒して……全部、全部玄斗さんのおかげで、私は何も……」
「そんな事――」
「そんな事あります!!」
俺の言葉を遮り、燈は魂の慟哭ともとれる言葉を叫ぶ。
「だって、玄斗さんが来てくれなかったら……私だって、あの子達だって全員殺されていたんですよ!?それでも、まだ私のおかげだって言い切れるんですか!!!」
「燈!!」
彼女の両肩を掴み、俺は名前を叫ぶ。
燈の瞳が揺れる。悔しさからか目じりから涙が溢れている。
「お前さ、少し完璧主義者すぎるんだよ。少し、少しで良いんだ。肩の力を抜いてくれ」
何でもかんでも自分一人で完結させたらいいのか……?
一人で全てを背負う必要があるのか……?
燈は本当に、何も出来ていないのか……?
――――――否。
絶対に違う、それは間違っている。
「そして自信を持ってくれ、子供達が無傷なのは燈の冷静な判断と勇気のおかげなんだ」
透明化の能力者相手に子供達を自分の傍から離して逃げさせるという選択を取らせず、自らの傍に居させて守るという選択を取ったからこそ、恐らく子供達は彼女の傍に居た。
胸を張って言える。
その選択は――大正解だ。
自らの技量や状況と相手の能力を考慮した正しい判断だ。
「ありがとう……ございます」
涙を拭いながら、燈は気を持ち直してくれた。
そんな様子に、俺は胸をなでおろしながら彼女の肩から手を外し、ベッドの横に置いてある椅子に腰を掛ける。
「……どうして、玄斗さんはそんなに強くあれるんですか」
「強く?」
唐突に飛び出してきたそんな質問に、俺は思わず聞き返す。
「はい。精神性は勿論、圧倒的な移動速度と目で見切れない程の剣速、透明なものさえ見切る感知術、そして――早駆流身体術という体術」
なに?早駆流身体術を知っている……?古くから存在はしているが、現剣があるのに体を刃物にするとか馬鹿らしとか言われてあまり人気が出ず知名度もないこのマイナーな武術を?
「その全てが、剣聖と同等かそれ以上のレベルにまで達しているじゃないですか」
「いや、それは流石に買いかぶりすぎだな……」
精神性はさておき、炯眼の剣聖と手合わせしてみて普通に痛感したからな。
高校生である彼女であれなら他の年季が入った剣聖とか強すぎて歯が立たないんじゃないのかと思うんだが。
「いえ、目で戦闘を視認する事は不可能と言われている最強の剣聖、炯眼の剣聖の剣技と同等の剣速だと、私は思っていますよ」
「え………………?」
お、おいおい待て。最強の剣聖?漣さんが?いや、そりゃ納得できるけど……マジで最強だったのかよ。
そりゃあチーター相手に右腕とか斬り落とせるわけだな。
「どうかしましたか?」
「え?あぁいや、何でも無いんだ」
俺はそう言って咳ばらいをしながら、強引に話を戻す。
「んで、俺がどうして強いのか……だっけか」
…………困ったな。どうも誤魔化していいような雰囲気でも無いし……しょうがない。ここは少し、重苦しくならないように――物語として話してみるとしよう。
「これは俺が昔よく母さんに寝る前に読み聞かせしてもらった本の内容なんだがな、昔々、ある学園都市には一人の無力な少年が居たんだ」
ゆっくりと、燈の耳に届きやすいように、俺は話し始める。
「ソイツはどうも才能が無いみたいでな、驚くなよ?現剣の能力が使えなかった所かなんと、現剣すら出来なかったんだ」
それを告げると、燈の瞳は見て分かる程に小さくなり、驚きの表情を浮かべていた。
まぁ、いくら本とはいえ現実でも滅多にそんなヤツ居ないからな、驚くのも無理は無い……か。
「ここだけでも剣の道を生きるのはやめとけって神に言われてるようなもんなんだが……少年は馬鹿だった、馬鹿すぎて茨の道を突き進もうとしたんだよ」
……本当、馬鹿野郎だよな。
「現剣も出来なければ戦闘の才能も何も持ち合わせてないってのに、誰かを傷つけようとしてる悪人に愚直に挑んで……挑んで挑んで挑んで、負けて負けて負けて――そんな時、少年は二人の圧倒的な実力を有した女性と少女に出会ったんだ」
「そこから、その少年は鍛えられて強くなった……という王道的な話ですか?」
素朴な質問が飛ぶが、俺はそれに対して首を横に振って「……いや、全くだ」と返答を返す。
「その少年は確かに、二人に強制的に弟子入りさせられて鍛えられたんだが……全く強くならなかったんだよ。剣術をメインに教えてくれたヤツには3年間365日毎度毎度手加減も一切無しにボコボコにされて、驚異の29200戦中0勝、29200負けを記録したんだ」
「な、中々心が折れそうな回数……」
「ああ、俺もそう思うよ。そんで、もう一人のヤツは武術を教えてくれたんだが……これが全くもって難しくってな、その少年は習得できなかったんだ」
てか、今更になって思うがマジで才能からっきしだな。
「そんでまぁ、何の成果も得られないまま3年が経過して、最初と比べて少しは強くなったんじゃねくらいになった頃、少年に剣を教えてくれた人間が学園都市に対して反旗を翻したんだ」
「え…………」
燈の口から小さく声が漏れる。
まぁ、唐突すぎる展開だわな。
「最終的に、少年は自身に剣を教えてくれた女性と一騎打ちをする。明らかな負け戦だってわかっていたのに、少年は立ち向かったんだ。圧倒的な実力差、斬られて、斬られて、斬られて、それでも諦めずに食らいついた。そして、その過程で遂に少年の才能は――――開花するに至った」
だけど、だけど――。
「だけど、力を得るにはもう……遅かったんだ。少年は加減が出来ず、殺してしまったんだ――その女性の事を」
そう。少年は力を得たが、それを使いこなす練度が足りなかった。
だから、加減が出来なかった。だから、女性を殺してしまった。
「そうして少年は悔いを残したまま、物語は終わり……って感じでな。まぁ、そんな苦労してる奴と俺を比べた時にさ、あぁ、今よりも頑張らなきゃ強くなれないんだって事を知って鍛錬に励んでたら強くなってたってわけさ」
「それが……玄斗さんの強さの秘密、なんですか?」
「ああ、そうだよ。いやー懐かしいなー。山に籠ったりスラム街にまで赴いたりしてたナー」
その問いに俺は即答でそう返すと、燈は窓に視線を向けてまだ明るい外を眺めてポツリと口を開く。
「誰かと自分を比べる…………玄斗さんは、私に似ていますね」
「え?」
どういう事だ?と聞こうとしたが、そう言う燈の表情はどこか安らかだったので、俺は言葉を飲み込んで掻き消す。
きっと、その質問は野暮なのだろう。
「でも、そのお話……なんだか2年前に起きた学園都市転覆事件に似てますね」
「学園都市転覆事件?」
聞きなれない言葉に、俺は思わず問いかける。
すると、燈の目が驚いたかのように大きく見開いた。
「え!?知らないんですか玄斗さん。当時最強と謳われていた剣聖がたった一人で学園都市そのものを相手取ろうとした前代未聞の事件なのに!!」
「いや、全くもって知らんぞ」
なんだそりゃ、いくら最強でもこの学園都市を一人で敵に回すとか馬鹿だろ、馬鹿だな。
「えっと、じゃあ無銘の剣聖は知っていますか?未だ正体不明の剣聖なんですが、なんとその初出は学園都市転覆事件にて当時最強の剣聖だった人間を打ち倒し――」
「いや、その無銘とやらも最近知った」
しかも盗み聞きで。
「う、うそでしょ……」
どうやら、燈にとっては驚愕するレベルで一般常識的な話らしい。
……いや、天崎とかも知っていたみたいだし異端なのは俺なのだけど。
「という事は、当時最強だった剣聖――
「は!?」
燈の口から唐突に出されたその“名前”に、俺は思わず驚いて椅子ごと横に倒れ込んでしまった。
「ええ玄斗さん!?大丈夫ですか!?!?」
「あ、あ、あ、……だい、じょうぶ」
俺はゆっくりと立ち上がりながら、椅子を元の位置に戻し再度腰を掛ける。
にしてもマジか。もしその話が本当だとしたら、無銘の剣聖ってのは――――。
…………アイツに、聞いてみる事にしよう。
「て、てか今更なんだが燈、普通に俺と喋れてるな」
動揺を隠すように、俺は話題を変えるように告げる。
「あ……本当ですね」
そうして改めてお互いを認識すると、俺達は一斉にあははっと笑い合う。
静かな病室に二人の笑い声が響くその様は、どこか青春を感じさせるだろう。
「少しは俺に慣れてくれたって事でいいんだよな?」
「少し所か、もう完璧慣れましたよ。ありがとうございます、玄斗さん」
ここまで来て初めて、俺達は本当に友達になれたのかもしれない。
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