第19話 相対、炯眼の剣聖

メイドさんと別れてから数分後。

現在俺は、屋上の扉前へと到達していた。

なんだか妙に疲れてしまったが、これでようやく剣聖様にお礼が言えるわけだ。


一つ息を吸い込み、扉に手をかける。

何故か妙に緊張してしまうな……有名人と会うとなると変に身構えてしまう。

だが、そんな緊張はすぐに飲み込んで――俺は扉を開け放った。


「えー、漣さーん。居ますかーー?」


開け放った先の景色で、俺は開口一番この屋上というフィールド内全域に届くように言葉を投げかける。


此方こちらですよ~」


すると、扉に居る俺からみて横の奥側にからロリボが響いてくる。

それを確認した俺は、声がした方に向かって視線を向けるのと同時に歩を進める。


そうして俺はようやく、炯眼の剣聖を視認した。

身長は低い、140cm程だろう。それに加え、幼さが見て取れる容姿とぷにっとしていて思わずつまみたくなるほっぺたを見れば、まるで中学生だ。


だが、目を閉じながら両手を太ももに添えるというお淑やかな恰好でベンチに座っているその姿はハッキリ言って年相応以上にという風にしか感じ取れない。


「どうも、あなたに助けられた1年A組の徒篠玄斗って言います。あー、本当助かりました」


俺は頭を下げながら、感謝の念を前面に押し出す。

すると漣さんはその翠色の綺麗な瞳を小さくしながら口を開く。


「とんでもありません!!わたくしが貴方様のお力になるのは必然なのですから!!」


……ん?待て、今この人なんて言った?


「……すみません、よく言葉の意味というかなんというかが分からなかったんですけど…………」

「うん?ですから、わたくしが貴方様のお力になるのは必然と申したのですよ?」


小首をかしげながら、こんな事常識ですよ?みたいな顔をする彼女を見て、思う。

またおかしいやつキタァ…………。

せめて、せめてだ。『あれくらいは当然の範疇です』だとか『これくらい剣聖として当然の事です』だとか普通の言葉にしてくれマジで!!


「それは一体どういう事なんですかねー、はは」


そんな気持ちを抑え込み、俺は恐らく不格好な笑みを浮かべながら問いかける。

すると、その問いに漣さんは静かに返す。


わたくし、貴方様のファンなんですよ」

「……はい?」


物凄くナチュラルにファン宣言されてしまっては俺も困惑が隠せない。

というより、先程から隠せていないかもしれない。


なに俺、知らず知らずのうちに女の子を惚れさせる罪な男になってたの?そういや、イケメンって女子達によってファンクラブとか出来るんだったか?つまり俺はイケメン?Q.E.D?


わたくしは貴方様の強さを知っています。興味を持っています。剣術の才能も武術の才能も戦闘の才能も……“まるで無かった”貴方様がある日を境に到達した極地。わたくしとはまた別ベクトルの強さを兼ね備えた文字通り最強の一角。それがわたくしが貴方様のファンになった理由です」


なんだ、俺がイケメンだからファンになったってわけじゃ……ってそうじゃない。

この人、俺の実力を知っている?いや、あり得ない。だって――。


「実技試験では、負けるか勝つかのギリギリの接戦をして教官に勝利。筆記は良くも悪くもつけがたい点数。筆記に関してはよくわかりませんが、実技試験はワザと接戦を演じましたね?」


だって、試験は全て手を抜いていた筈なのに。


「確かに、ちょっと手を抜きましたね」


まぁ、バレてるなら別に隠す必要もない。

正直に白状しておく事にする。


「……“ちょっと”ですか」


その時だった。

漣さんが「ふふっ」と笑みを浮かべたかと思えば、姿が一瞬にしてベンチから掻き消え――次の瞬間には、俺の眼前まで迫ってきていた。


「あぶっねッ!!」


右から衝撃波でも起こせそうな程の神速の拳が飛んでくるが、俺はそれをバックステップで難なく避ける――だが、その行動を取る事を“分かっていた”かのように、そのデタラメな速度を活かし彼女はもう既に俺がバックステップした先の後ろに居た。


「オイオイ能力は現剣してないと使えないんじゃないのかよ!?てかそんな顔して戦闘狂かよ勘弁してくれ!!」


思わず声を上げる。

なんだこの不思議な感覚!!まるで常に繰り出される一手、その先を把握し最適な行動を取っているかのような――!!てかそもそも、彼女現剣も何もしてないんだぞ!?!?

後ろで構える彼女の態勢はもう既に、蹴りの準備を整えている。こうなったらしょうがない……!!


【  早駆流身体術はやがけりゅうしんたいじゅつ  】


俺は武術を用いて、彼女の横から前へと薙いだ足に向かって手を置き脱力させる事によって、足を地面に落とし捌く。

しかし、またしてもその行動が分かっていたかのように……彼女は同時に拳も突き出していた。


これは攻めに転じないと不味い事になる!!文句は言うなよ漣透歌!!


俺は彼女の拳が到達するよりも圧倒的にはやく……彼女に向かって左から右に向かって薙ぐ手刀を繰り出し、そしてそれは――――確実にヒットした。


「あ……」


刹那、彼女の制服が横一文字に斬れ……水色のブラが垣間見えると、彼女はその拳を俺の眼前で止めた。


「えっと…………もしかして、貴方様は世間一般的に言うペドフィリア、つまりロリコンなの……ですか?でなければ、貴方様程の人間が一見中学生にしか見えないわたくしの制服だけを、しかもブラを残してこうも大々的に斬るなんて恥ずべき行為をしない筈……」


胸を隠しながら、彼女は恥ずかしさよりも困惑さを全面的に押し出しながら問いかけて来た、来やがった。


「マジで、マジで断じて!!違ーーーーーーう!!!」


俺の渾身の否定は、こだますることなく空に向かって淡く消えて行った……。





――――後書き――――

最強のロリってめっちゃよくね?

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