第14話 盗み聞き
「代々優秀なボディーガードを排出してきた名家に生まれ、その才能を大いに引き継いだ人間」
天崎の背中に向かって、柊は投げかけるように静かに言った。
その言葉に天崎は足を止めたが――振り返りはしない。
「今も活躍している君の父親、
そう語る柊の口調は、最早夜空に向かって放っている独り言のようだった。
しかし、そんな独り言は確かに天崎に届いている。
「それは君の事だろう?」
「ええ、そうね」
間を置く事無く、天崎は即答する。
そんな事実が明確になった所で、俺は素直に驚いた。
嘘だろ中学生で!?アイツなんて濃い人生を送ってんだよいやそれ以前にすげぇな。
立ち向かえたのもハッキリ言って凄いが、それでちゃんと勝ってるのもヤバイなオイ。
「そんな興味深い実績を持った君の実力が
一見、ただの好奇心が垣間見えるであろう言葉。
しかし、俺にはそれがどこか嘘偽りのような言葉に聞こえた。
「嘘ね」
――それを感じたのはどうやら、俺だけでは無かったらしい。
その言葉が偽りだと、天崎が貫くかのような声色で柊に視線を向けて言い放つ。
「貴方が私に近づきたい目的はそんな単純なものじゃない」
目を鋭くさせながら、天崎はそんなとんでも発言をする。
オイオイ天崎、いくら爽やか優等生イケメンだとしてもその発言はキレちまうんじゃ……――――いや、別に天崎にとってはそれでもいいのか。
「本当に気になっているんだけどな…………。じゃあ分かった、最後にこれだけ聞かせてくれないかい?」
そう前置きを置くと、柊はゆっくりと口を開き始める。
「学園都市を滅ぼそうとした史上最悪の剣聖、そんな彼女を打ち倒したとされる未だ正体不明の剣士“
「勿論よ」
柊の問いかけに対し、天崎は頷きながら言葉を発す。
俺はよく知らんが、炯眼の剣聖とやらよりカッコ悪い名前だな。
「僕は訳あってそんな伝説上の人物を探しているんだけど……少しでも情報を持ってはいないかな?」
「残念だけれど、知らないわ」
その返答に、柊は「そっか」と残念そうな声を漏らし、寮の方へと歩みを進める。
「ごめんね、こんな時間に呼び止めて。僕は一足先に寮に戻るよ」
「本当に申し訳なく思っているのなら、もう二度と喋りかけないでほしいわね」
「やっぱり、手厳しいな」
あははと苦笑いを浮かべながら、柊はゆっくりと寮に向かって歩いて行く。
そうして数十秒後には、その背中は闇へと溶けて消えてしまった。
「ん?天崎か?」
それを見届けた俺は、立ち尽くし柊の背中を見ていた天崎にまるで今ここに来ましたよみたいな声のトーンを出しながら何食わぬ顔で声をかけた。
「げっ、なんで次から次に厄介なヤツに声が……」
あれ?俺厄介なヤツの括りに居るの?なんで?
何だこのぞんざいな扱いは、そろそろ泣くぞ普通に。
「次から次にってなんだよ……てか、俺今から寮に行こうと思ってるんだが一緒に行かないか?いや行こうぜ」
「どうして貴方はパーソナルスペースを気にせずズカズカと踏み荒らしに来るのかしら……」
「パーソナルスペース?なんだそりゃ」
「知らないとは思っていたわ」
なんて会話をしながらも、渋々と俺と肩を並べてくれる天崎。
やっぱり、なんだかんだ言って押しには弱いのかもしれない。
「はぁ、アンタとさっさと離れたいし、急ぎで帰るわよ」
「ゆっくり歩いてもいいんだぜ?」
「とろとろ歩いてたら殺す」
「きびきび歩きます」
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