第13話 この声はまさか!?

「今日はとてつもなく濃い一日だった……」


時刻は20時に差し掛かるといった所。

長きに渡る取り調べをされた後に燈の容態の確認をしなければと病院へと赴いていた事によって、俺が学園内に帰った頃にはもう先程までお日様が地上を照らしていた筈のこの世界はすっかりと暗くなっていた。


いやマジで、時間が過ぎ去るのは早いものだな、うん。

まぁ、俺のこのテンションで察せるかと思うかもしれんが、燈がヤツから受けた傷は確かに深かったが、命に別状は無いとの事らしい。


「これで一件落着、か」


俺の戦果をたたえるように(自意識過剰)煌めく小さな星達が視界に映る。

だが、褒められるような事は何もしていない。結局、俺は遅かった。

もっと早く……もっと早く俺があの場所についていれば――燈を無傷で救う事だって出来た筈なんだ。


今の俺に足りないのは、友の危機を察知する勘であると痛感した。

いくら他者より強く、誰かを救える力があろうと――救いたい人間を救う事が出来なければ、その力に意味は無い。


…………おっと、これ以上深く考えると痛いポエム製造機になりそうだ。


俺は思考を放棄し、ただ寮へと向かってその足を進める。

しかしそんな時、ふと思った事があった。


……あれ?そういや、この学園って寮に門限とかあるのか?


俺は昔、学園ものの小説なり漫画なりアニメを見ていた。

だからこそ、俺は寮に門限なるものが存在している事を知っている。


先生、説明の時に何にも言ってなかったけど……まさかこの学園の寮にはそういったものは無いのか?それとも、門限なるものはヒロインと破って主人公共々お叱りを食らうというイベントを用意する為だけに作者が新しく創り出した概念なのか?


様々な凄く気になる疑問が浮かんでくるが、その答えを知る術は今の所無い。

一応、カウンターに居るっていう人に聞いてみる事にしよう、俺が今よりも作品を楽しむために!!


何て事を考えながら、歩みを進めていた時。

二つの影が、寮の手前に設置されている白色の石造噴水をバックにして見えた。


こんな時間に出歩いてるなんて……なんだ?まさかカップルか?


そう思いながら、俺は無視して寮まで歩みを進めようと思ったのだが――。


「急に声をかけてきて来たかと思えば、何の要件かしら。私、貴方の友達になる事は拒否したはずよ」


唐突に、俺の耳には今日幾度となく聞いた凛とした声が入ってきた。

ん……?この声はまさか………………。

俺はすぐさまその足を止め、気配と足音を完全に遮断しながら近くに生えているご立派な木の裏に隠れ擬態をし少しだけ顔を出し様子を確認する。


「やっぱり手厳しいな。傷つきそうだよ」


「ははっ」と爽快な笑い方をしながら、そんな事を言う人間はあの爽やかイケメン優等生、柊弥人。そして、その眼前に相対するのは――。


「私に関わらなければ貴方が傷つく事はないわ。それは保証してあげる」


心底この状況を手早く切り上げたそうな声が響く。

うむ、コイツはやはり天崎だな。最早声が180度ぐらい違っても喋り方だけで判断出来そうだ。


なんて事を思っていたその時、俺の顔には邪悪な笑みが宿る。

ハッはっはっ。そうだ、面白そうな会話が聞けそうだし、このまま盗み聞きしてやろ。


クソガキを魂に宿し、俺は耳を澄ませる。


「でも、僕としては何としても天崎さんとは友達になっておきたいんだよ」

「私は何としても貴方とは友達になりたくないわね」


拒絶具合凄いな天崎……俺が燈を元気づけよう大作戦を決行しようとした時は押して押して押しまくったら長考の末渋々了承してくれたから以外と押しに弱い優しい人間なのかなと思ったが……そんな事は無いみたいだ。

――いや、それとも友達になるという事自体がどれだけ押されても拒否したくなるくらい嫌いなのかもしれん。


「私、貴方のようなタイプの人間は嫌いなの。その取って付けたような誰しもが思いつく理想の人間のような性格も、何もかもね」

「取ってつけたようなって……そんなにかな、ちょっと自分では分からないな」


変わらずの笑顔を見せる柊。

そんな彼に対し、天崎はその体を寮の方面へと向けながら告げた。


「そう。分からないのならそれでも良いんじゃ無いかしら」

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