第11話 終幕

「何故って――吐き気を催しちまうくらいドス黒い気配がある場所を攻撃したらお前が居ただけだ」


嘲笑うかのように、バカにするかのように。ヤツを睨みつけながら俺は言い放つ。

……とはいえ、殺気や足音が完全に聞こえてこない時点で、あの女は上澄み中の上澄みである事は認めなければならないだろう。


――しかし、何ら問題は無い。


「許さない許さない!!お前も、女も、お前が逃したあのガキ共も――!!」


憎悪を募らせた表情を浮かべ、今度は透明化を使用せずに一直線に地を蹴りコチラに突っ込んでくる。

7mは離れていたであろう俺との間合いが、ものの0.8秒で70cmまで潰れる。


「全員、ぶっ殺すッッッ!!」


その言葉を聞いた刹那、俺の体は自然と70cmの距離を一瞬で潰しヤツの眼前へと移動していた。


「俺達を殺す?」

「ひっ、――――!?」


これ以上無い程の怒りで俺の顔が染まっているのが分かる。

女の口から恐怖を感じ取ってしまった者の言葉が漏れ出たのが分かる。

全部分かった上で、俺は畳み掛けるように言い放つ。


「そんな機会が訪れる事は無い、訪れさせないッッッ!!」


もう、加減をする必要性を感じない。

コイツは今、ここで倒す。


「力を貸してくれ――」


腰に携えた漆黒の鞘に収まった剣の柄をしっかりと握る。


【  御厨世みくりよ  】


俺はそのを告げると、一瞬にして剣を解き放つ。

そうして姿を現した剣身は、おおよそ剣として機能するのか疑問に思う程に茶色く、竹すら切り落とす事が出来ないと思われる程に錆びついている。


だが、この剣の本質は“人を斬る為にあらず”

この剣の本質は――――ありとあらゆる現剣、能力を斬り伏せ、打ち消す事にある。


――――――――一瞬。0.01秒の刹那。

横、縦、左斜め、右斜めと――俺はその4つの斬撃を繰り出していた。


「は、――――――?」


女の口から困惑の声が漏れる。

確かに、斬られたという感覚は訪れたのだろう。

しかし、体からは痛みも無ければ血も噴き出さない。

故に、その困惑は必然であろう。


「見せかけねッ――!!」


斬られていないと分かれば、その戦いへと女は今一度意識を向ける。

そして、その現剣を俺の首目掛けて横一文字に斬りつけようとしたのだ――が。


「お前の負けだ」


刹那、ヤツの現剣にヒビが入り、一切の欠片も散らさず消滅した。




***




「う、そ………………」


目の前で起きた不可解な事象に、アタシは困惑していた。

現剣が本人の意思なくして消滅?あり得ない、アタシの新醒は尽きていない、まだ戦える筈なのにっ!!


現剣!!現剣!!現剣!!現剣ッッッ!!


しかし、いくら現剣を顕現しようと試みても――それが叶う事は無い。

まるで、もう剣自体が失われてしまったかのような……そんな感覚が訪れる。


「もう、お前の力になる剣は無い」

「っ、――――――――」


また、まただ。また訪れた。

全身を支配する恐怖と、無意識のうちにひれ伏してしまうような圧倒的な力。

それを言葉で例えるとするのなら――絶対強者への畏怖いふ


「俺は俺を許せない」


男は恐怖でひきつった顔を浮かべる私に呟く。


「これだけの強さを得られる素質がありながら、他者を圧倒出来る程の力を持てる器がありながら――俺は俺を上手く使いこなせていない」


しかしその言葉は、アタシに告げているものではない。

まるで遠い過去、虚空に話しかけているのかのようなものだった。


「もうお前の悪事も終わりだ。俺に一生追いかけまわされたくなかったら、逃げずに大人しく刑務所の中で裁かれる日を待つんだな」

「………………………………」


それだけ言い残すと、男は携帯を取り出し耳に当てながら、後ろを向きあの女に駆け寄っていく。


今なら逃げられる――なんて事は思わない。

いや、思えない。


アタシはただ呆然としながら、その言葉を静かに受け入れるしかなかった。






――――後書き――――

チャプター1完結です。PVもフォローも伸びて嬉しいな、ウレシイナ。


そういえば、当初は主人公が助けに来た時点で燈さんには「私が……倒すんだ!!」的な感じで立ち上がって戦ってもらおうと思っていたのですが、正直燈さんが深手を負っていようと力を使ったらコイツに一瞬で勝てるので展開が難しかったです、一話減ります。

まぁ、主人公君の活躍を初期に見せるのは大事ですよね。

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