第10話 おそろしくはやいしゅとう

長き道中を経て、俺はロリボが教えてくれた夕凛公園なる場所へと地図を確認しながら足を運んだわけなのだが――――。


「お前さ、何やってくれてんだよ」


膝を震わし、涙目になりながらも懸命に立ち向かっていた少年少女。

そして、この子達を守りながら戦っていたのであろう血まみれの友達の姿。

そんな光景を目の当たりにしてしまった俺は思わず、怒りを露にしながら言葉を発していた。


「玄斗…………さん?」


小さく、弱々しい声色で、燈が確かに俺の名前を呟く。

彼女の表情はどこか、かつてない程の強敵と相対する人間を心配しているかのような、そんな風に読み取れた。


――――だからこそ、俺は精一杯の笑顔を作り、告げる。


「安心していろ、燈」


ただ一言、そう言ってから俺は女に向き直る。

それ以上の余計な言葉は要らない。

絶対に勝つ。だとか、俺は強い。だとか……そんな言葉は不要だ。


「あらあら、お熱いのね。高校生カップルなんてどうせすぐに別れるのに」

「お前の偏見なんて知らん。来い」


俺は剣を抜かずに、両手を手刀の形にして相手が仕掛けてくるのを待つ。


「いいか君達、俺が戦い始めた瞬間、瞬間にだ。全速力で逃げろ。なあに、このお姉ちゃんとランドセルの事は心配するな」


俺は子供達に、優しい声色でそう告げる。

いくら燈の背が小さく子供体系だとはいえ、小学生では担いで持っていくのは難しいだろう。


それに、下手に動かしてしまえば傷口が更に酷くなってしまう可能性もある為、なおさら専門家以外に担いでは行かせられない。


「現剣を用いず戦おうだなんて、面白い子も居るものじゃない。風月学園にはッ――!!」


猟奇的な目と、笑みを浮かべるその顔は徐々に背景に溶け込み、0.4秒かけて全身がこの場の空間に馴染んでいく。


「気を付けて……彼女の能力は透明化っ、です!」


話すだけでも辛い状況であるというのは目に見えて分かる状態だというのに……燈、やっぱりお前は良いやつだ。


「だからこそ、許せねぇ」


燈にこんな傷を負わせたあの女を。

こんな年端もいかない子供達を傷つけようとしたあの女を。

そして、友達がここまでの酷い状態になる前にこの場に来る事が出来なかった俺を。

――――――――――――――――――――――――――だから、ここで挽回する。


【  早駆流身体術はやがけりゅうしんたいじゅつ  】


透明な刃が、上から下へと振り下ろされ俺の体に触れるその刹那。

俺は左に向かって軽く身をよじり攻撃を避け――右の手刀を用いてヤツの顔へ向かい横に薙ぐ。

その速度は、地に降り注ぐ稲妻をも遥かに凌駕する。


「――――――!!」


何の変哲もなかった空間から、鮮血が噴き出す。

それは、俺の手刀がヤツにヒットしたという証。


「今だ、逃げろ!!!!」


子供達に向けて、思い切り叫ぶ。

別に普通に言えば良いのかもしれんが、少しくらい覇気が無いとテキパキ動かないのではないかという懸念も込めての事だ。


とはいえ、そのおかげか否か子供達は振り返る事無くただ前を向いて突っ走って行ったのでよし。


「何故、何故ッッ!!その女といいお前と言い、何故アタシを捉える事ができる!!何故手刀で皮膚が斬れる!!」


自らの顔に傷をつけられる程の攻撃を食らったからなのか否か、女は素早く距離を取り姿を現しながら先程までの余裕綽々よゆうしゃくしゃくとした態度を一変させ怒りを前面に押し出し言葉を発した。

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